第276話 決戦! オムライス対決! 前編
「さあ、できましたよ」
「「「わーい!」」」
『わあい! なのです!』
無事(?)にオムライスを作り終えた俺達は、子ども達と[シン]が座るテーブルに皿を並べると、四人は嬉しそうに両手を上げた。
だけど[シン]、お前はオムライスなんか食べないだろうに……。
「フフ……会心の出来ですわ!」
ムフー! と鼻息荒く、グッ、と拳を握るサンドラ。
だけど、ビーフストロガノフがかかったオムライスは、確かに美味そうだよなあ。
「みんな、ちゃんと野菜も食べるんですよ?」
そう言うと、氷室先輩はコトリ、とサラダが盛られた皿をテーブルに乗せた。
ちゃんと栄養バランスを考えているところ、見事だ。
それにサラダをよく見ると、先輩がオムライスにぶち込もうとしたアボカドも、キッチリ使われていた。さすがに無駄もない。
「わ、私も作ったぞ! その、美味しい……はず……」
張り合うように先輩も見を乗り出してアピールするけど、自信がないのかどんどん尻すぼみになっていく。
で、でも、工程の途中途中で俺もチェックしたし、チキンライスの味見もちゃんとしてあるから、少なくとも不味いってことはあり得ない。
……まあ、薄焼き卵は失敗して色々と破れてしまって、見栄えは良くないかもだけど。
「さあ、いただきましょう」
席に着き、氷室先輩が合図をする……んだけど。
「む、ちょっと待て。氷室くんのご両親は待たなくてもいいのか?」
疑問に思った先輩が、氷室先輩に尋ねる。
「はい。
「そ、そうか……」
氷室先輩は淡々と告げるけど、先輩は少しだけ気まずい表情を浮かべた。
多分……先輩は自分の境遇と重ねたんだろう。
あの『攻略サイト』によれば、先輩の両親は研究一筋だったためあまり家に帰らず、いつも一人で食事をしていたとある。
さらにそこにきて、
そして、ますます『家族』から遠ざかることになってしまった先輩の愛情への渇望こそが、あの『ユグドラシル計画』において
……ゲームとしてはこういった裏設定があるほうが面白いのかもしれないけど、
すると。
「? [シン]?」
隣に座る[シン]が、いつの間にか服の袖をつまんで俺の顔を見上げていた。
見ると、[シン]だけじゃなくて先輩や氷室先輩、サンドラ、それに少年達まで心配そうに俺を見つめている。
『はう……マスターは優し過ぎるから困りものなのです……』
「え……?」
[シン]は、眉間を人差し指で押さえながら、そんなことを言った。
あー……どうやら顔に出てたみたいだな……。
オマケにその口ぶりだと、俺が何を考えてたかもお見通しってことかよ。
本当に、この相棒は……。
『はう!?』
「はは、悪い。ちょっと考えごとしてただけだから」
そう言って、俺はニカッと笑いながら[シン]の頭をガシガシと撫でると。
『はうはう! 仕方ないから、これで騙されてあげるのです!』
[シン]は、雰囲気を変えるために、にぱー、と笑った。
「さあ! 今度こそ食べましょう!」
氷室先輩はそう言うと、パン、と手を叩いた。
俺達もそれにつられ、手を合わせる。
「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」
そんな合図と共に、俺達……特に子ども達は、食べたいオムライスに狙いを定めてスプーンを伸ばした。
「俺はやっぱり姉ちゃんの!」
「ニーはこの何かかかってるの!」
「ミーも!」
ほほう、どうやらサンドラのオムライスが人気みたいだな。
「うう……」
そして、選んでもらえなかった先輩は悔しそうにその様子を眺める。
「さ、さあて、それじゃ俺も食べよう……か、な……」
「「「…………………………」」」
いや三人共、そんなに凝視しないでほしいんだけど。
「! ふふ……」
俺は氷室先輩のオムライスを皿に盛ると、普段は表情を変えない氷室先輩が珍しく勝ち誇ったような表情を見せる。
もちろん、先輩とサンドラは悔しそうに歯ぎしりをしているわけだけど……。
「じゃあ次は……」
今度はサンドラのオムライスをよそい、皿の空いているスペースに乗せた。
「ア……フフ……」
嬉しそうにはにかむサンドラ。
残された先輩は、泣きそうに……ではなく、期待に満ちた瞳をしていた。
まあ、こうなれば自分のもって思うよな。その通りだけど。
ということで。
「ふふ……」
最後に先輩のオムライスをよそい、これでノルマは達成、と。
ただ、俺にはちょっと……いや、相当量が多いかも……。
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