第275話 意外性の先輩
「ふむ……これも入れたほうがいいんじゃないか?」
スーパーに入るなり、先輩が手に取って俺達に見せたものは
「えーと、先輩……?」
俺は、先輩の顔とアボカドを交互に眺めながら、おずおずと尋ねる。
おっかしいなあ……俺の記憶じゃ、オムライスにアボカドが入ってたことはないんだけどなあ……。
すると。
「藤堂さん、このカゴに入れていただいて構いませんけど……オムライスの具にはなりませんからね?」
「な、何故だ!?」
いや、俺も先輩がどうしてアボカドをオムライスの具に加えようとしたのか、どうしても知りたいところではあるけど。
一方、サンドラはというと。
「フフ……せっかくですのデ、ワタクシはビーフストロガノフをソースにした特製オムライスにしますワ!」
そう言って、ヒョイヒョイと玉ねぎやキノコ、それに牛肉を入れていく。
あ、それは意外と美味そう。
「ふふ……どうやらサンドラさんが私のライバルになりそうですね」
そして氷室先輩も、どうやらサンドラを認めたようだ。
確かに、サンドラはまだ東方国の食文化に慣れてないだけだから、一度覚えたら何でも作れそう。
「くう……! サンドラは私の仲間だと思ったのに……!」
先輩が悔しそうに唇を噛みながらサンドラを凝視する。
そういえば、先輩って
……まあ、そういうところが可愛いんだけど。
「むむ! も、望月くんもそんな目で見るのか!」
「ええー……」
俺はむしろ、微笑ましく思ってただけなんだけどなあ……って。
「……[シン]」
『ははははう!?』
俺に声を掛けられ、[シン]はビクッとなる。
というか、コッソリとアイスをカゴに入れたらバレないとでも思ってるのかよ。
「それは戻してこい」
『はうううう……』
ガックリと肩を落としてアイス売り場へと戻る[シン]
時折悲しそうにこちらを振り返るけど、そんなモンで折れたりしないからな?
その後も順調(?)に品物をカゴに入れ、いざレジに並んだ。
「しかし、すいません……」
俺はカゴに入っている大量の食材を見て、思わず謝る。
「ふふ、うちは大所帯ですからこれくらいは普通ですので、気にしなくても大丈夫ですよ」
「で、ですけど……」
すると氷室先輩が、ぴと、と俺の口を人差し指で押さえた。
「これ以上は言わないでください。それに、招待したのは私なんですから」
うう……というか、ちょっとその仕草は反則じゃないですかね?
氷室先輩だってヒロインの一人で、色々と破壊力バツグンなんですから……。
「わ、分かりました……でしたら、この埋め合わせは今度絶対にさせてくださいね?」
「はい!」
氷室先輩は、頬を赤くして嬉しそうに微笑んだ。
◇
「先輩、玉ねぎはみじん切りですよ」
「わ、分かっている!」
スーパーで買い物を終えて氷室先輩の家に帰るなり、俺達はキッチンで料理の取り掛かった。
で、俺は野菜を洗ったりしつつ、先輩を監視しているところだ。
だけど先輩ときたら、ちょっと目を離した隙に俺の想像の斜め上を行くようなことをしでかそうとするので、一瞬たりとも気が抜けない……。
「……藤堂さん、私達だけじゃなくてタカシ達も食べるってこと、忘れないでくださいね?」
「むううううう! そ、そんなこと分かっている!」
俺だけじゃなく氷室先輩にまで釘を刺されてしまい、とうとう先輩が拗ねてしまった。
で、一方のサンドラはというと。
「~~~~~~~~♪」
鼻歌を歌いながら、警戒に料理を作っていた。
だけど、オムライスに鍋? ……って、そういえば、ビーフストロガノフをオムライスのソースにするって言ってたもんなあ。
どれどれ。
「へえー……何だか美味そう」
俺はサンドラの肩口から鍋の中を覗き込む。
「フフ、ワタクシ特製のビーフストロガノフは美味しいですわヨ?」
そう言って、サンドラが小皿にほんの少しよそってくれたので、俺はそれを口に含むと。
「! 美味い!」
「でショ? コレ、プラーミャも大好きなんですノ」
いや、サンドラの奴、マジで料理上手いじゃん。
というか、以前の弁当対決の時もプラーミャが余計なアドバイスしなかったら、氷室先輩と結構いい勝負してたんじゃないか?
「……やりますね」
「フフ……負けませんわヨ」
おおう……氷室先輩とサンドラが視線をぶつけ合って、火花を散らしてる……。
「むうううううううう! わ、私だって……!」
先輩も負けじと二人に視線を送るけど……うん、全く相手にされてない。
「ホ、ホラホラ先輩、俺も手伝いますから……」
「も、望月くんまでそんな残念なものでも見るみたいに……」
俺は苦笑しながら先輩を誘導して料理に集中させるけど、どうやら態度に出ていたらしく先輩は怒りを通り越して落ち込んでしまった……。
ハア……仕方ないなあ……。
「……別に料理だって頑張って覚えればいいんですし、無理に張り合う必要はないですからね? それに、先輩にはもっと素敵なところ、たくさんあるじゃないですか」
「あう……で、でも……やっぱり君に、『美味しい』って言ってほしいから……」
ああもう! そんな言い方反則だろ! なんだよこの可愛い先輩は!
「あはは、俺は先輩が作ってくれたってだけで、最高に嬉しいんです。でしたら今度一緒に、二人で料理をして覚えましょうよ。ね?」
「う、うん……約束、だぞ……?」
頬を赤く染めながら上目遣いで見る先輩に、俺は優しく頷いた。
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