第274話 晩ご飯はオムライス

 それから俺と少年はデッキの話で盛り上がり、サンドラは相手をしてくれないにもかかわらずひたすらミャー太を追いかけ回し、何故か先輩は氷室先輩と色々なゲームで勝負を挑んでいた。


 そして。


『はうはう! すごいのです! すごいのです!』

「「えへへー!」」


 [シン]はといえば、ニコちゃんミコちゃんとあやとりをしているらしく、二人の作るハシゴを見て瞳をキラキラさせていた。

 というか、平和だなあ……。


「あ……そろそろ夕飯の支度をしないと」


 氷室先輩がチラリ、と時計を見ると、そう呟く。


「ふふ……望月さん、何か食べたいものはありますか?」

「へ……?」


 氷室先輩の問い掛けに、俺は思わず気の抜けた返事をしてしまった。

 ア、アレ? 俺、晩ご飯もご馳走になるんだっけ?


「そうだ! 兄ちゃんもお姉ちゃん達もいるんだし、今日はご馳走にしようよ!」

「「わあい! ご馳走だー!」」


 すると少年とニコちゃんミコちゃんが嬉しそうにはしゃぐ。

 そして少年の言葉でシレッと先輩とサンドラも含まれてるし。


「そうですね……ただ、それだと私一人では厳しいですから」


 そう言って、氷室先輩がチラリ、と先輩とサンドラを見やっ……あ、先輩からは視線を外した。


「エエ、ワタクシは構いませんワ!」


 氷室先輩の意図に気づいたサンドラは、ドン、と薄い胸を叩いた。


「むうううううううう! ひ、氷室くん、どうして私の時だけ視線を逸らすのだ!?」

「……いえ、別に」


 それでもなお、先輩と視線を合わせようとしない氷室先輩。

 お、俺は何も言えない……。


「じゃ、じゃあ俺もお手伝いしますね」

「あ……ふふ、ぜひお願いします」


 ということで、少年とニコちゃんミコちゃん、それとミャー太に留守番をお願いして、俺達は近所のスーパーに買い出しに出かけた。


『はうはうはう! [シン]は当然アイスを食べるのです!』

「あーはいはい」


 ててて、と走りながらはしゃぐ[シン]に、俺は気の無い返事を返す。


「ですが望月さん、リクエストはないんですか? 私にできるものでしたら、何でも作りますが」

「あははー、そうですねー……」


 いや、氷室先輩の作る料理は何でも美味いから、リクエストって言われると……。


 俺はチラリ、と先輩とサンドラへと視線を向ける。

 確か、サンドラは実は料理ができるって前に聞いたから問題ないけど、先輩に関しては、下手に難しい料理を選択した場合、絶対にとんでもない事態を引き起こすことは確実。


 なら、たとえ先輩でも作ることが可能な料理にするべき、だよな……。


「氷室先輩、俺はオムライスが食べたいです」


 知恵を絞った結果、俺はあえてオムライスをチョイスした。

 最初はカレーがいいかとも思ったんだけど、そういった煮込み系の場合、先輩が変にアレンジをきかせてきたりするんじゃないかと不安になったのだ。


 でも、オムライスなら基本的にケチャップでごはんと具材を炒めて、その上に薄焼き卵を被せるかプレーンオムレツを乗せるだけなので、簡単に作れて、しかも子どもにウケがいい。


 何より……これなら、一人分として作ることになるから、先輩が全体に関与するリスクは少なくなる。我ながら完璧な選択をしたもんだ。


「ふふ……分かりました。望月さんが絶対に美味しいって言ってくれるようなオムライスを作りますね」

「はい! 楽しみにしてます!」


 はは、でも氷室先輩、どんなオムライスを作ってくれ……「な、なら! この私もオムライスを作ろう!」……って、ええええええええ!?


「せ、先輩、氷室先輩がオムライスを作るのに、もう一つオムライスを作る気ですか!?」

「う、うむ! 少々大きめに作って、みんなでシェアすればいいじゃないか!」

「それはそうですけど!?」


 くそう、俺の作戦がアッサリと瓦解しやがった!


「で、でしたラ! ワタクシもオムライスを作りますワ!」

「サンドラまで!?」


 い、いや、サンドラは料理ができるって言ってはいたけど……。


 俺はススス、とサンドラに近づき、そっと耳打ちをする。


「な、なあ……ルーシって、オムライスの料理なんてあるの……?」

「そ、それハ……だ、大丈夫! 蕎麦の実グリェーチカの料理はたくさんありますし、ごはんもよく似たものですワ!」


 はは……ないんじゃん……。


「では三人でオムライスを作って、それをみんなで食べ比べることにしましょう」


 既に勝利を確信しているからか、氷室先輩の声には余裕がうかがえる。

 一方で、先輩とサンドラはどこか気持ちが空回りしているようにも感じた。


 あー……これは、俺が後ろでコントロールしたほうがいいかも。


「じゃ、じゃあ俺は、三人をサポートするってことで……」


 俺は少しでもオムライスを普通の・・・オムライスに導くため、二人を陰で操ることにした。こうすれば、少なくとも食べられなくはないオムライスができあがるはずだ。


「ええ、ぜひお願いします」

「ふふ……望月くんは安心して私の料理さばきを見ていてくれ」


 いや、不安しかないです。

 というか、どこからその自信が湧いてくるんですか……。


「ヨ、ヨーヘイ、ちゃんと教えてくださいましネ……?」


 急に不安になったのか、サンドラが縋るような瞳で見つめてきた。


「お、おう……!」


 俺は誤魔化すように強気の返事をしたあと、スマホでコッソリとオムライスのレシピを確認した。

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