第101話 もう一つの領域

「む……しかし、幽子とマテリアルが現れないぞ……?」


 自爆したクロケルの身体があった場所を眺めながら、先輩が訝しげな表情を浮かべながら呟く。


「あはは……多分、倒したんじゃなくて自爆した・・・・からじゃないでしょうか?」

「むむ、残念だ……」


 俺は苦笑しながらそう答えると、先輩はガッカリした表情を浮かべた。

 まあ、先輩が幽子に固執する気持ちも分かる。

 だって……俺が先輩の薬指にはめた、“シルウィアヌスの指輪”のせいで、吸収できる幽子量が半分以下に制限されてしまっているんだから。


「あ……き、君が気に病む必要はないんだぞ!? こんな領域エリアボスの一体程度、この階層の幽鬼レブナントを根絶やしにすればおつりがくるのだし!」


 先輩の言葉で俺が落ち込んだんじゃないかと勘違いした先輩は、わたわたと弁明した。

 まあ、本当は落ち込んではいないんだけど、先輩のその気持ちが嬉しいから何も言わないでおこう。

 それに……その問題は、この領域エリアを踏破すれば全て解決するから。


「それにしてモ、これで終わりなノ? だとしたら、やけにあっけないわネ……」


 プラーミャはそう呟いて辺りを見回す。

 まさか。二周目の領域エリアがこの程度で終わるわけないだろ?


 ――ゴゴゴゴゴ……!


「な、何ですノ!?」


 突然地響きが鳴り、サンドラが驚きの声を上げた。

 だけど、この地響きこそがへと至るためのプロセスだ。


 しばらくして、地響きが収まると。


「む、これは……」

「階段……ですわネ……」


 穴の側面に沿うように、下へと続くらせん階段が現れた。


「この階段の下に、次の階層があるみたいネ……」


 プラーミャはそう呟くが、それは正解でもあるし不正解でもある。


「とりあえず、階段を下りてみよう」


 俺はそう言うと、らせん階段を下りていく。

 みんなも、俺の後に続いた。


「結構深いですわネ……」

「そうだな……」


 何の不思議もなく階段と疑わずに下りていく俺達。

 だけど……本当は階段を下りてないんだ。


「む、出口か?」


 階段の先に光が見え、先輩がそう呟いた。

 そして、俺達は階段の終点へとたどり着くと。


「な、なんだこれは!?」


 先輩が驚きの声を上げる。

 だけど、先輩の気持ちも理解できる。


 だって……俺達は階段を下りていたはずなのに、まるで昇ってきたかのように別の階層にたどり着いたんだから。


 そう……これが“アトランティス”領域エリアの最大の特徴。

 “メビウスの輪”のようにねじれた・・・・階段を通ることで、階層……いや、別の・・領域エリアに繋がるのだから。


 そして、眼前に広がる赤い土と、石でできた建物が立ち並ぶこの領域エリアこそ、“レムリア”領域エリアだ。


「……あの“アルカトラズ”領域エリアもかなり特殊だと思ったが、この領域エリアも変わっているな……」

「はい……そうですね……」


 すいません先輩、残り三つの領域エリアも、同じように変わってます……。


「それで……どうしますノ……?」


 サンドラがおずおずと尋ねる。

 このまま、この“レムリア”領域エリアを攻略するのか、それとも、引き返すのか。


「まあ、今日はここまで、かな」


 レベルが低く、幽鬼レブナントも弱いとはいえ、“アトランティス”領域エリアの攻略にかなりの時間を費やしたんだ。この領域エリアだって同じように時間がかかることは目に見えている。


「とりあえず、次は来週にでも来て攻略の続きをしよう。特に、プラーミャ」

ヤー?」


 俺が名前を告げると、プラーミャはキョトン、とした。


「見る限り、ここの幽鬼レブナントは火属性みたいだ。となると、【火属性無効】を持つプラーミャの独壇場だ」

「マ、マア確かニ」


 俺がこの階層を闊歩する幽鬼レブナントを指差しながらそう告げると、プラーミャが頷く。


「だから、さ。頼んだぞ!」

「ッ! わ、分かってるわヨ!」


 はは、プラーミャの奴、頼りにされて照れてやがる。

 まあでも、実際にここの攻略にはプラーミャは欠かせない。


 後は……できれば立花や加隈も一緒に来られると、ここの攻略が圧倒的に楽になるんだけどなあ……。


 なにせ、“アトランティス”領域エリアはこの領域エリアに繋がる穴を目指せばいいだけだから、ある意味一直線だったけど、ここの領域エリアボスを出現させるには、領域エリアを端から端まで行かないといけない。

 だからこそ、手分けして攻略したほうが効率的なんだよなあ。


「ふふ……ならば、彼等には“グラハム塔”領域エリアをぜひとも踏破してもらわんとな」

「先輩……」


 はは、さすが先輩だ。俺の考えなんてお見通しか。


「エー……その時は、絶対にアオイと同じチームにしないでヨ!」


 ここで、察したプラーミャがそんな要求をしてきた。


「なんだ、立花のこと嫌いか?」

「そうじゃなくテ! ……だって彼、アナタと一緒じゃなかったらその時点で不機嫌になるシ」

「はは……」


 プラーミャの言葉に、思わず乾いた笑みを浮かべる。

 本当に、俺に依存するのはやめてほしいよなあ……。


「……分かった、善処するよ」


 そうして今日の探索を終え、俺達は元の世界へと帰った。

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