第100話 クロケル公爵
『はう! では、行くのです! 【神行法・跳】!』
そう叫ぶと、[シン]は勢いよくこの階層の上空へ、まるで空中を飛び跳ねるように高く昇っていった。
「む!?」
「な、なんですノ!?」
「ッ!? 高イ!」
桐崎先輩をはじめ三人が、高く飛び上がった[シン]を見て驚きの声を上げた。
まあ、それはそうだろう。
[シン]が持つ【方術】と並ぶ特殊スキル、それがあの【神行法】だ。
【神行法】は[シン]の『敏捷』ステータスを大幅にアップすると共に、その目的や用途に応じて様々な恩恵を得られる。
で、今、俺達が見ているものはその中の一つ、【神行法・跳】。常識外れの跳躍力と、空中での跳躍を可能とするものだ。
「オーイ、何か見つかったかー?」
俺は遥か上空でキョロキョロと辺りを見回している[シン]に向かって声を掛けると。
『階層のど真ん中に大きな穴が開いているのです! で、その穴の上で、
「そうかー! サンキュー!」
そしてしばらくすると、[シン]はようやく落下してきた。
というか、どれだけ高く飛んでるんだよ。
『ただいま! なのです!』
「ああ、よくやったぞ!」
戻ってきた[シン]の頭を、俺はガシガシと撫でてやると、[シン]は嬉しそうに目を細めた。
「エエト……つまり、この階層の真ん中に
「ああ」
サンドラの問い掛けに、俺は頷いた。
といっても、その情報自体は『まとめサイト』で知っているので、俺としては目新しさはないんだけどな。
それよりも……俺は、[シン]の持つ【神行法】の可能性に胸を弾ませていた。
確かに、スキル能力や効果については知っていたが、実際に見たらこれほどだなんて思いもよらなかった。
【方術】と【神行法】、そしてあり得ない『敏捷』ステータス……この三つがあれば……!
俺はチラリ、と先輩を見る。
先輩……俺が絶対、最悪の未来からあなたを守ってみせます……!
「む? 望月くん、どうした?」
俺が見つめていることに気づいた先輩が、不思議そうに声を掛ける。
「いえ……何でもありません」
「ふふ、そうか。その割には、何か決意めいた瞳をしていたが、な」
はは……結局バレバレですか。
俺は微笑む先輩に向かって苦笑した。
「それで[シン]、俺達が今いる場所からその中央の穴まで、どれくらいの距離があった?」
『はう! ここから入口までの距離の二倍なのです!』
「「エエー……」」
[シン]の答えを聞き、サンドラとプラーミャが泣きそうな表情で肩を落とした。
が、頑張ろー……。
◇
「あれか……」
あの後、向かってくる
俺達は、とうとう階層の中央にある穴までたどり着いた。
「ふむ……そして、あの天使の姿をしている
先輩は不敵な笑みを浮かべながらそう呟く。
そう……先輩の言った天使の姿をした
その右手に持つ氷でできた大剣からも分かるように、クロケル公爵は氷属性の
そして厄介なことに、あのクロケル公爵は空中戦を得意としていて、先輩の[関聖帝君]とは相性が悪い。
[ペルーン]と[イリヤー]の魔法で遠距離攻撃を仕掛けるのも一つの方法だけど……うん、そもそも二人の
ということで。
「みんな、ここは俺の[シン]がアイツと戦います。まずはあの天使の羽を何とかしますから、
「分かった……望月くん、[シン]、気をつけるんだぞ……?」
「はい!」
『ハイなのです!』
先輩に返事をすると、俺は気合いを入れるためにパシン、と両頬を叩いた。
「さあ……行くぞ、[シン]!」
『了解なのです! 【神行法・跳】!』
その声掛けが合図となり、[シン]がクロケル公爵に向かって弾丸のように飛び出した。
『ッ!?』
『遅いのです!』
[シン]に気づいたクロケル公爵が、慌ててその氷の大剣を構えようとするが、その前に[シン]は空中を
『それー!』
そしてクロケル公爵の羽に狙いを定め、呪符を何重にも貼り付けると。
『【爆】!』
『グガガガガガガガッッ!?』
けたたましい爆発音と共に、クロケル公爵が穴の外へと吹き飛ばされていく。
ウーン……[シン]の奴、今回もどれだけ呪符を貼ったんだよ。
だけど。
『っ!? 大事な籠手が凍ったのです!?』
クロケル公爵も、腐っても
身体までダメージは負わなかったものの、[シン]の金属の籠手を氷の剣で凍らせてしまった。
あれでは……呪符を展開できない。
「三人共スマン! 完全に無効化できなかった!」
俺は吹き飛ばされるクロケル公爵を待ち構える三人に向かって叫んだ。
本当は呪符で拘束したところを袋叩きにすればいいんだけど……完全に、俺のミスだ。
「ふふ、任せろ!」
「エエ! 叩き潰してやりますワ!」
「マア、そこで見てなさイ」
はは、三人共本当に頼もしいな。
「[シン]、よくやったな」
『はう……最後でミスってしまったのです……』
「そんなことはないぞ? 俺達の土俵に引きずり込んだのは、間違いなく[シン]のおかげだ」
『はう! だから大好きなのです!』
俺が頭を撫でながら褒めてやると、[シン]は嬉しそうに俺に飛びついた。
「さて……お手並み拝見……って!?」
「食らえええええええええええッッッ!」
「アアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「【
先輩とサンドラの雄叫びと、冷静にスキルの名を告げるプラーミャが、クロケル公爵の防御をまるで無視してひたすら武器を叩きつけている。
『グ……ガ……!?』
斬り込まれ、叩きつけられ、突き貫かれ、クロケル公爵はぞの身体を地面に磔にされていた。
その時……クロケル公爵の身体が凍り始めていく。
「っ! みんな!
「「「っ!?」」」
そう、クロケル公爵の身体が凍るのは、自爆スキルである【アブソリュート・ゼロ】。
その身体を犠牲にする代わりに、周囲のあらゆるものを氷に変える。
「先輩、プラーミャ! ワタクシの後ろニ! 【ガーディアン】!」
サンドラが無数の盾を隙間なく展開し、クロケル公爵の【アブソリュート・ゼロ】を待ち構える。
そして。
――パキ……パキ……!
クロケルの身体の崩壊と共に、周囲を一瞬で、氷で覆った。
当然、【ガーディアン】で展開した盾も。
「っ!? みんな!?」
俺と[シン]は、慌てて三人の元へと駆け寄る。
すると。
「フウ……」
「サンドラ!」
【ガーディアン】の盾の一つが崩れ、中からサンドラが現れた。
「むむ、寒いのはあまり好きじゃないな」
「フフ……桐崎様、それではルーシには住めませんよ?」
盾が二つ、三つと崩れ、先輩とプラーミャも無事な姿を見せてくれた。
ここでようやく、俺は胸を撫で下ろした。
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