第186話 天津甕星(あまつみかぼし)
俺達はさらに道を進み、とうとう
「……あれが、ここの
「はい」
桐崎先輩の呟きに、氷室先輩が頷く。
腰まである黒髪で容姿端麗な
……まあ、氷室先輩からすれば、的にしてくださいと言っているようなモンだな……って!?
「ふふ……ならば、参る!」
そう叫ぶと、桐崎先輩は獰猛な笑みを浮かべながら、
いや、もう少し様子を見てからにしましょうよ!?
すると
「フッ!」
[関聖帝君]は青龍偃月刀で弾こうとしたところを、鎖で上手くからめとられてしまう。
「ふふ……この[関聖帝君]と力比べとは、いい度胸だ!」
『ッ!?』
そう言うと、[関聖帝君]は青龍偃月刀を力任せに振り回し、
「隙ありですワ!」
いつの間にか
「食らいなさい! 【裁きの鉄槌】!」
メイスを中心に、稲妻がほとばしる。
そして、今まさに
「ッ!? ナッ!?」
そう……これこそが
敵と自分を瞬時に入れ替え、形勢を逆転してしまう面倒なスキルで、その有効範囲は流星錘が届く範囲の十メートル。
特に足場が狭く、一歩間違ったら奈落へと落ちてしまうこの“
当然、
「先輩! サンドラ! ソイツは俺達に任せてください!」
「エエ! お願イ!」
「むう!? だ、だが……!」
俺がそう告げると、サンドラはすぐに引いてくれたが、先輩は悔しそうに唇を噛んだままだ。
だけど、たとえ『ガイスト×レブナント』最強の先輩だって相性ってものがあるし、苦戦することだってある。
だから。
「先輩! 俺達はチームなんです! だから、俺に頼ってください! もちろん、俺じゃどうにもならない時は、全力で先輩に頼りますから!」
「っ! ……分かった!」
俺の言葉の意味を理解してくれたのか、先輩はようやく
「さて……覚悟しろよ? 言っとくが……俺の[シン]はそう簡単じゃないぞ!」
『行くのです!』
その言葉を合図に、[シン]は一気に
『ッ!』
『…………………………』
そんな[シン]を眺め、
だけど……甘いんだよ!
『はうはうはうはうはうー! 【神行法・跳】!』
叫び声と共に[シン]が奈落の中から飛び上がり、そのまま空中を駆ける。
まあ、【転身】なんてスキル、[シン]には何の意味もないんだよ!
『ッ!』
すると今度は、流星錘を投げつけて牽制しつつ、本命である魔法を発動した。
あれは……即死効果のある闇属性上級魔法の【デスブレイク】か。はは、馬鹿な奴。
「
『ッ!?』
そう告げると、
へえ、
だって。
『背中がお留守なのです!』
俺の言葉に気を取られている隙に、[シン]は
『【裂】』
『アアアアアアアアアアアアアッッッ!?』
「さあ[シン]! トドメだ!」
『ハイなのです! 【雷】!』
祭壇の上でのたうち回る
そして、暗闇をつんざくような叫び声が止み、
『はう! マスター!』
[シン]は一気に俺の所に飛んでくると、勢いよく飛びついた。
「はは! さすがは俺の[シン]だ!」
『はうはう! 当然なのです! だから、たくさんたくさん褒めて欲しいのです!』
そんなおねだりをする[シン]を抱きしめ、俺はこれでもかというほど、その頭を撫でてやる。
『えへへー、最高のごほうびなのです……』
[シン]は嬉しそうに目を細めながら、俺の胸に何度も頬ずりをした。
◇
「うむ! 【闇属性反射】を手に入れたぞ!」
祭壇の裏側にある
「つ、次はワタクシですワ!」
「はは、別に慌てなくでも水晶玉は逃げないから」
「で、ですけド……モウ」
俺は苦笑しながらそう言うと、サンドラが恥ずかしそうにして口を尖らせた。
「そういえば、氷室先輩はもう【闇属性反射】を取得済みなんですよね?」
「いえ……実は、水晶に触れたらスキルを手に入れられるということを、先日の“アトランティス”
そう言うと、氷室先輩は少しバツが悪そうに視線を逸らした。
あー……まあ、知らなかったらそんな怪しい水晶玉、触ったりしないかー……。
「ですがヨーヘイ、これでこの
「ああ……これでメイザース学園との交流戦に向けて、できる限りの準備はできたな」
「エ……? どういうことですノ?」
俺の言葉を耳聡く聞いたサンドラが、一瞬不安そうな表情を浮かべる。
おっと、余計なこと言っちまったな。
「はは……いや、ひょっとしたら向こうの代表に【闇属性魔法】スキル持ちの
「ア、そ、そうですわネ……」
サンドラは納得したように頷くけど……スマン、今の言葉は半分だけ嘘だ。
本当は、交流戦の代表の一人が、
それこそが……メイザース学園生徒会会計の一年生、“土御門シキ”。
俺は来る彼女との戦いを思い浮かべ、ギュ、と拳を握った。
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