第222話 贔屓

「えへへ……それにしても、今日は【闇属性反射】も手に入れたし、プラーミャさんは“布都御霊ふつのみたま”もだし、ものすごく収穫が多かったね!」

「はは、まあな」


 “葦原中国あしのはらなかつくに領域エリアから出てくると、嬉しそうにそう話す立花に相槌を打つ。


「アレ? そういえば今日の攻略って、今度の交流戦に向けてのモンだよな?」

「? 当たり前だろ?」


 加隈が不思議そうに尋ねたので、俺は即座に答えた。


「だったらよー、アイツ……“賀茂かも”の奴も誘ってやってもよかったんじゃねーのか? ホラ、一応アイツだって、一緒に戦う仲間・・っつーの?」

「あー……」


 いや、加隈の言いたいことは分かった。

 だけど。


「悪いけど、賀茂を俺達のメンバーに加えるつもりはないぞ」

「? なんでだ?」

「……俺だって、人は選ぶ」


 そう告げると、俺はプイ、と顔を背けた。

 まあ……そもそも今のメンバーで構成しているのは、あくまでも先輩に不幸な未来を迎えさせないための布陣だ。別に、闇雲に仲間に引き入れているわけじゃない。


「あはは。ボクだって望月くんの言う通り、誰でもっていうのはイヤだなー」

「そうネ」


 立花とプラーミャも、俺の考えに同意してくれた。


「フフ……お聞きしますけど、加隈サンはあの賀茂サンを仲間にしたいんですノ?」

「へ……? あ、い、いや、別にそんなことは……」


 クスクスと笑うサンドラに逆に尋ねられ、加隈がしどろもどろになる。


「ですが、そうすると私達は望月さんに大切な仲間として選ばれた・・・・、ということの裏返しでもありますし、本音を言えば悪い気はしない……いえ、かなり嬉しいですね」


 ひ、氷室先輩!? ストレートに言われると恥ずかしいんですけど!?


「あ、そ、そっか! そういうことかよ! 全く……ヨーヘイにそんなこと言われちゃ、しょーがねーよな!」

「イヤイヤ! 別にそんなこと言ってねーだろ!」


 嬉しそうにニヤニヤしながら肩を組んできた加隈に、俺は全力でツッコミを入れる。

 チクショウ! 顔が熱い!


「ふふ……まあそういうことだし、これからもこのメンバーで領域エリア攻略に取り組んでいくとしよう。では、今日のところは解散だな」

「「「「「はい!」」」」」


 そう言って俺達はその場でお開きとなった。


 とはいえ。


「……デ、今日もあそこ・・・に行くんですわよネ?」

「はは、おう」


 サンドラが含み笑いをしながら尋ねるので、俺は頷く。

 レベル上げと疾走丸の入手は、毎日のノルマだからな。当然、今日もいつも通りこなすとも。


「ふふ……では行こうか」

「「はい!」」


 そして俺達は、学園へと再度戻る。


 すると。


「……そ、その……その中でも、さらにこうやって君に特別扱い・・・・してもらうのは、心から嬉しい……」

「っ!?」


 頬を染めた先輩に耳元でそっと告げられ、俺は顔が熱くなる。

 というか先輩……そんなことを言うのは反則、ですよ……。


 ◇


「ふいー……」


 風呂から上がった俺が、冷凍室からアイスを取り出して部屋へと戻ると。


『はうはう!? マ、マスターだけズルイのです!』


 目聡く見つけた[シン]が、早速絡んで来た。

 といっても、こんな反応を見せることは想定済みではあるけど。


「ホラ」


 そう言って、俺は背中の後ろに隠し持ってたもう一本のアイスを[シン]に差し出した。


『はう! やっぱりマスターは優しいのです!』

「はは、だろ?」


 ということで、俺と[シン]はベッドに並んで座りながらアイスを頬張る。


『えへへー、冷たくて美味しいのです』

「そりゃ良かった」


 そう返した俺は、おもむろにスマホを取り出していつものように『まとめサイト』のページを開いた。

 見つけて以降、毎日のように眺めているこのサイトだけど、今は特に何度も読み返している。


 ……俺が見逃したせいで、先輩のバッドエンドに進んでしまったらシャレにならないからな。


『はう! マスターがまた『まとめサイト』を見てるのです!』

「ん? ああ……今度の交流戦後のイベに備えてな。今のうちに色々と想定しとかないといけないんだよ」


 そう言うと、まずは“中条ちゅうじょうシド”の情報を確認する。

 主人公のライバルであるコイツは、とにかく主人公……つまり立花をつけ狙っているのだ。


 で、コイツには手下となる奴が三人いるんだけど……。

 なんと、その手下っていうのが、メイザース学園生徒会長である“近衛このえスミ”と、同じく生徒会副会長の“鷲尾わしおイオリ”、さらには会計の土御門さんだったりする。


 つまり。


「……向こうの生徒会にはロクな奴がいない……」


 そう……『ガイスト×レブナント』本編においても、そもそもこの交流戦を行うことになった原因は、メイザース学園の学園長が、アレイスター学園の学園長、桐崎ライドウが秘密裏に行っている研究に関する情報を入手して、出し抜きたいがため。

 その尖兵せんぺいとしての存在こそが、中条シドと生徒会の面々なのだ。


 でも。


「土御門さんは交流戦直後に闇堕ちし、主人公に救われることで中条シドを裏切ってコッチの味方になるんだ」


 だからこそ、今度の交流戦では土御門さんに特に注意を払わないといけない。

 できれば闇堕ちさせることなく、こちらの陣営に引き入れたいし、な……。


『はう……マスターが難しい顔をしているのです……』

「はは、悪いな……でも、これは今後のためにも大事なことなんだ」


 そう言うと、俺は[シン]の頭を撫でる。


『……マスターには、この[シン]がいるのです。それに、桐姉さまやアレク姉さまも……だから』

「ああ、分かってるよ」


 当然、俺もたった一人でどうこうしようなんて考えないさ。


 だから。


「[シン]、頼りにしてるぞ」

『はう! 任せてくださいなのです!』


 [シン]は、ドン、と胸を強く叩いた。

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