第221話 布都御霊

「えへへ、無事に【闇属性反射】を手に入れたよ!」


 天津甕星あまつみかぼしを倒し、祭壇の裏側にあるほこらで無事に【闇属性反射】を手に入れた立花が、はにかみながら駆け寄ってきた。


「だけど、ボクは今回の交流戦に出ないから、慌てて【闇属性反射】を手に入れなくてもよかったような……」

「はは、そんなわけねーだろ。確かに交流戦には出ないかもしれないけど、領域エリア攻略や来年の交流戦なんかで【闇属性魔法】の使い手と戦ったりする機会が必ず出てくるんだぞ? 取れるうちに取っとけ」


 そう、二年の必修課題であり、実力的に多分アッサリと踏破できるであろう “カタコンベ”領域エリアに現れる幽鬼レブナントには闇属性が多いし、なにより、最強の【闇属性魔法】使いの土御門さんだって、本編シナリオ通りなら交流戦後に転校してくるはずだし。


「うん……まあ、望月くんの言う通りなんだけどね」


 そう言うと、立花は苦笑した。


ヤーも取ったワ!」

「もちろん俺も取ったぜ!」


 お、プラーミャと加隈も無事に取ったみたいだな。


「ふふ……さて、望月くん、今日のところはこれで解散かな?」

「あー……実は、ちょっと試したいことがあったんですよねー。[シン]」

『ハイなのです!』


 微笑みながら尋ねる先輩にそう答えた俺は、[シン]に声を掛けて指示をする。


 すると。


『はう!』

「「「「「っ!?」」」」」


 [シン]は祭壇にあった燭台を手に取ると、暗闇が広がる奈落の底へ向かってダイブした。


「も、望月くんっ!? 死ぬ気なのか!?」

「はは……まあ、見ててください」


 顔を真っ青にしながら慌てる先輩を落ち着かせるために、俺は努めて微笑みながら答え、[シン]が向かった暗闇へと指差す。


『はう! 【神行法・跳】!』


 暗闇に点のように浮かぶ燭台の灯りから、[シン]の声がこだました。


 そして。


「[シン]、お疲れ。どうだった?」

『はう! マスターの言っていた通り、洞窟みたいなところがあったのです!』

「そっか、サンキュー」

『えへへー、なのです』


 報告を受け、俺は労いの意味を込めてその黒髪を撫でてやると、[シン]は嬉しそうに目を細めた。


「も、望月くん……一体どういうことだ?」

「ええと……ちょっといいですか……?」

「ん……っ!?」


 おずおずと尋ねる先輩に断りを入れてから、先輩の耳元にそっと顔を寄せる。


「ほら……“アルカトラズ”領域エリアでも“レムリア”領域エリアでも、領域エリア踏破の報酬として指輪・・があったじゃないですか。つまり……」

「あ……そ、そういうことか……」


 俺は小声でそう告げると、先輩は納得して頷いた。

 というか、二周目特典の五つの領域エリアには、必ずクリア報酬である指輪が存在する。


 で、ここ“葦原中国あしのはらなかつくに領域エリアでは、報酬として“布都御霊ふつのみたま”と呼ばれる、つるぎのレリーフが入った指輪が手に入る。

 この指輪には、【状態異常無効】、【全属性無効】の効果があるという、ある意味チートアイテムっぽいんだけど……正直、微妙ではある。


 だって、属性に関して言うなら、五つの領域エリアを全て踏破したら、さらに強力な【全属性反射】が手に入ることになるし、[シン]や[関聖帝君]は【状態異常無効】を最初から持ってるし……。


 とはいえ。


「……その指輪がないと、“天岩戸あまのいわと領域エリアで、最後の【光属性反射】が手に入らない、からな……」

「望月くん……」


 俺が何気なく呟いた言葉を拾った先輩が、真剣な表情で見つめていた。

 あっと……無意識に余計なこと言っちまったなあ……。


「あ、あはは……みんなには内緒、ですよ?」

「ふふ……君は、本当に謎だらけだな。だが……それでも私は、君のことならなんだって信じられる」

「先輩……」


 苦笑して人差し指を当てた俺に、ふいに先輩はそんな言葉で応えてくれた。

 というか先輩……そんなこと言うの、反則ですよ……。


「……俺だって、先輩のことならどんなことだって信じていますし、その……一番大切な人・・・・・・、ですし……」

「あう……うん、知ってる……」


 先輩は顔を真っ赤にしてうつむくと、左手の“シルウィアヌスの指輪”にそっと触れた。


「ふふ……この指輪が、ついこの間も私のことを救ってくれたよ」

「あはは……そうですか……」


 今の先輩の台詞セリフは、多分、研究所での一件のことだろう。まあ、あんなクソみたいな研究じゃ、そもそも“ウルズの泥水”を必要量確保するなんて絶対無理なんだけどな。


「さて……じゃあ、その指輪を[シン]に取って来てもらうかなー」

『はう! 任せるのです!』


 そう言うと、[シン]が再度暗闇の中へ飛び込み、そして。


『取ってきたのです!』


 [シン]は小さめの木箱を抱え、戻ってきた。


 さてさて、そうすると今度はこの指輪を誰に渡すかってことなんだけど……。


 事情を知っているサンドラが左手の“リネットの指輪”に触れながら、俺に目配せしてきた。

 多分、“リネットの指輪”があるから今回は譲るっていう意味だろう。


 それは先輩も同じで、その真紅の瞳に慈愛を湛え、微笑みながら頷いてくれた。


「じゃあ、この指輪はプラーミャに持ってもらおうかな」

「エ……? ヤーガ……?」


 俺の言葉が意外だったのか、プラーミャはその琥珀色の瞳を泳がせる。


「おう。一応、この指輪の効果は【状態異常無効】と【全属性無効】なんだけど、その場合、【状態異常弱点】を持っているプラーミャが持つべきだろう?」

「ダ、ダッタラ、サンドラも同じよ! だかラ、この指輪はサンドラにあげなさいヨ!」

「フフ……ワタクシには【ガーディアン】がありますかラ、状態異常の攻撃も防げるんですのヨ? ですのデ、その指輪はプラーミャが持つべきですワ」


 俺の意をんでくれたサンドラが、フォローを入れてくれた。


「うん、ボクも望月くんやサンドラさんの意見に賛成かな。それに、何と言ってもプラーミャさんはうちのチームの攻撃の要だからね」

「ア、アオイまデ……」


 するとプラーミャは、少し頬を赤らめた。

 お、コレってひょっとして……。


「し、仕方ないから、ヤーがつけてあげるわヨ!」


 不機嫌そうにそう言い放つと、プラーミャは指輪を手に取って左手薬指にはめた。


 だけど、プラーミャの口元は嬉しそうに緩んでいた。

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