第220話 チーム立花

 ――キーンコーン。


 放課後になり、クラスのみんなが帰り支度を始める。


「望月くん! それじゃ、行こう!」


 で、隣の席の立花は当然ながらメッチャ張り切っている。

 どうやら、久しぶりに俺と一緒に領域エリア攻略をすることがそんなに嬉しいらしい。


「フフ……ですけド、立花サンの出番は多分ありませんわヨ?」

「え? それってどういうこと?」


 クスクスと笑いながら告げるサンドラに、立花は思わず聞き返した。


「ああー、サンドラの言う通り、俺達はただまっすぐゴールまで歩くだけだから、結構楽だぞ?」

「望月くん!?」


 驚く立花に、俺はクスリ、と笑う。

 まあ心配するなよ。確かに領域エリアボスの“天津甕星あまつみかぼし”を倒すところまでは何もしない・・・・・が、そこから先・・・・・は、出番だらけ・・・・・だからな?


「はは、まあ行ってみてのお楽しみだ。それより、先輩達待たせるわけにもいかないから、早く校門に急ごうぜ」


 俺は立花の肩をポン、と叩き、一足早く教室を出ると。


「あ! ま、待ってよー!」


 立花達も慌てて俺の後を追い掛けてきた。


 そして。


「ふふ、来たな」


 校門の前に立っている桐崎先輩と氷室先輩が、俺達の姿を見つけて微笑む。


「先輩!」


 俺はそんな先輩を見た瞬間、気づけば真っ直ぐ駆け出していた。


「あ……コラコラ、そんなに慌てる必要はないだろう?」

「あ、あははー……」


 先輩に指摘され、俺は思わず苦笑してしまったけど、先輩の口元はメッチャ緩んでいた。

 はは……本当に先輩は、とてつもなく可愛い。


「これで全員揃いましたね?」

「「「「「はい!」」」」」

「では、行きましょう」


 氷室先輩の確認に俺達は元気に返事すると、氷室先輩を先頭に“葦原中国あしのはらなかつくに領域エリアへの入口がある公園へと向かった。


 ◇


「こ、ここが……!」


 扉をくぐって中に入るなり、その雰囲気に驚きの表情を見せる立花達。

 まあ、真っ暗闇に灯篭の明かりが一本道の両脇に続いているこの景色は、“アルカトラズ”領域エリア、や“アトランティス”領域エリアと比べても異質だもんなあ。

 といっても、他の領域エリア普通じゃない・・・・・・んだけど。


「では、行きますよ。[ポリアフ]」


 氷室先輩は[ポリアフ]を召喚すると、照準を合わせた。


「【スナイプ】」


 ――タン、タン、タン。


 その言葉と共に、氷室先輩の肩に乗る[ポリアフ]のスナイパーライフルから弾丸が射出される。


「さあ、先へ進みましょう」

「え……? こ、これってどういう……」

「はは、まあ行ってみたら分かるって」


 戸惑う立花の背中をバシン、と叩き、氷室先輩の後に続く。


「あ……!」


 細い一本道の通路には、氷室先輩によって倒された幽鬼レブナントが三体、額、胸、腹をそれぞれ打ち抜かれて転がっていた。


「な?」

「あ、あはは……こんなの、反則だよ……」


 俺は口の端を持ち上げながらポン、と肩を叩くと、立花は乾いた笑みを浮かべた。

 分かる! 俺もお前の気持ち、メッチャ分かる!


 ということで、俺達は氷室先輩の頼もしい背中を見つめながら、幽鬼レブナントの屍の横を通り過ぎて“天津甕星あまつみかぼし”のいる祭壇へと辿たどり着く。


 すると。


「フフ……さすがに身体がなまってるから、ここはヤーが行くわヨ!」

「えー! ボクだってずっと退屈だったんだから!」

「オイオイ! お前等チョット待てよ! ……って、あああ、結局こうなっちまうのかよおおおお!」


 プラーミャと立花が飛び出し、その後を悲鳴を上げながら加隈が追いかけていく。

 というか加隈の奴、いつもあんな感じでお守りをやらされてるのか。大変だなあ……。


「ふふ……ここは、三人のお手並み拝見といこうか」

「あはは、そうですね……」


 俺は苦笑しながら先輩の言葉に相槌を打ち、祭壇へと目を向ける。


「フフフ! 食らいなさイ! 【クローフィ・ブーリャ】!」


 真っ先に祭壇に足を踏み入れると、プラーミャの精霊《ガイスト》、[スヴァローグ]はその身体に不釣り合いな、巨大なハルバードに炎をまとわせ、まるで嵐のような連撃を繰り出して天津甕星あまつみかぼしへと襲い掛かった。


『ッ!』


 当然、天津甕星あまつみかぼしもそれを回避しつつ、流星錘りゅうせいすいを振り回して[スヴァローグ]の眉間を狙った。


 だけど。


 ――ジュッ。


 流星錘はハルバードの炎に巻き込まれ、その高温によって一瞬で溶けてしまった。


『終わりネ!』


 勝ったと見たプラーミャは、勢いよく天津甕星あまつみかぼしの脳天へとハルバードを振り下ろした瞬間……天津甕星あまつみかぼしは、【転身】によって一瞬で加隈と入れ替わった。


「ナッ!?」

「おわあっ!?」


 お互いの悲鳴が交錯し、ハルバードの刃が加隈の|精霊、[ロキ]の額、数センチのところでかろうじて止まった。


「モ、モウ! 勝手に現れないでヨ!」

「そ、そりゃコッチの台詞セリフだっつーの! 俺を殺す気か!」


 などと、プラーミャと加隈が言い争いを始める。


「ア、アイツ等……事前に天津甕星あまつみかぼしの情報は入れておいただろうに……」


 俺はそう呟くと、思わずこめかみを押さえた。


「マ、マアマア……それよりも、立花サンはちゃんと理解してるみたいですシ……」


 サンドラが慰めの言葉をかけながら、そっと指差す。


「あはははは! ボクにはそんなの通用しない! 【白虎】! 【青龍】!」


 立花の精霊、[伏犠ふっき]から放たれた二体の魔獣が、天津甕星あまつみかぼしはさみ撃ちにした。

 天津甕星あまつみかぼしは今度も【転身】によって魔獣の同士討ちを誘おうとする。


 だけど。


「終わりだよ! 【朱雀】!」


 狙いすましたかのように、[伏犠]は天津甕星あまつみかぼしの十メートル離れたところから【朱雀】放っていた。


『アアアアアアアアアッッッ!?』


 対象がおらず、【転身】することができなかった天津甕星あまつみかぼしは、【朱雀】による攻撃をもろに食らった。


 そして。


「トドメだあああああ! 【竜の息吹】ッッッ!」


 大きく口を開けた[伏犠]から放たれた【竜の息吹】を受け、天津甕星あまつみかぼしはとうとう幽子とマテリアルに姿を変えた。

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