第149話 投票中の一幕

 ――キーンコーン。


 昼休みになり、俺は食堂……へは行かずに、職員室へと向かう。

 正直、信任投票の状況が知りたくて仕方ないのだ。


 それに、職員室にちょっと用事もあるし。


「ア! ヨーヘイ!」


 するとサンドラが、教室を出ようとした俺を追いかけてきた。


「フフ、投票箱に行くんですわよネ?」

「おう。サンドラも一緒に行くか?」

「エエ、もちろんですワ」


 ということで、俺達は職員室前へと向かうと。


「おーおー、意外と盛況だなあ」


 職員室の前には生徒達で人だかりができており、みんなが投票箱に投票用紙を入れていた。


「む……やはり君達も来たのか」

「あ、先輩!」


 振り返ると、桐崎先輩がニコリ、と微笑んだ。


「ふふ……あとは、どうなるか見守ろう」

「ですね……って、ちょっと俺、職員室に行ってきますね」

「む? 何かあるのか?」


 不思議そうに先輩が尋ねるので、俺は先輩に耳打ちした。


「ふふ……なるほど、な」

「はい。ということですので」

「うむ」


 俺は職員室に行って用事を済ませると、また先輩の隣に立つ。

 そうして俺達は、投票の行方を見守っていると。


「クフフ……なんだ、今日で生徒会が終わるのが不安になって、様子でも見に来たのか?」


 まるで狙ったかのように、牧村クニオが取り巻き達と一緒に現れた。いや、なかなかの悪役ムーブだな。


「エエ……アナタ達が変に不正をしたりしないか、監視しに来たのですワ!」

「「「はあ!?」」」


 サンドラの言葉を聞き、取り巻き達が一斉に睨む。

 もちろん、その中にはあの二―一の……ええと、何て名前だったっけ? まあいいや、とにかくソイツもいた。


「マアマア、彼等にとって今日が生徒会最後の業務になるんだ。ここは許してあげようじゃないか。そして気づくはずだよ……この僕を生徒会長と仰ぎ、仕えるべきだった、ってね」


 などと澄ました表情で、そんなことをのたまう牧村クニオ。

 というかコイツ、何か勘違いしてるんじゃなかろうか。


「いや、確かに今日の結果で俺達は生徒会じゃなくなるかもしれないけど、だからってアンタが生徒会長に選ばれる保証はどこにもないんだぞ?」

「クハハ! 面白いことを言うじゃないか! この僕が、あの桐崎サクヤよりも生徒達から信頼されてないとでも言うのかね!」


 なんて、牧村クニオは高笑いしてるが……いや、だからそう言ってるんだけど?


 その時。


「ププ! 超おめでたいし!」

「誰だ! …って!?」


 馬鹿にするように笑われ、険しい表情で牧村クニオと取り巻き達が振り返る。

 そこには。


「ヤッホー!」

「あ……和気先輩」


 現れたのは、三年生最強の一人で陸上部キャプテン、和気チアキだった。


「だ、誰かと思えば和気くんか……わざわざ僕のために、ありがとう」


 そう言って、牧村クニオが口の端を持ち上げながら深々と頭を下げた。

 ああ……陸上部って、先代生徒会の最大のパトロンの一つだもんなあ……。


「クフ……やはり和気くんも、今の生徒会には不満に思っていたか」


 顔を上げ、嬉しそうに話しかける牧村クニオ。

 和気先輩も、それに応えるように口の端を吊り上げた。


「アハハ! そうだねえ……だけどウチ、まだモッチーにルフランのジェラート奢ってもらってないんだよねー! だから、今モッチーに生徒会辞められると、困るし」


 そう言うと、和気先輩は『信任』に〇をした投票用紙をヒラヒラと見せつけた後、投票箱に入れた。


「ということで、ヨロシクネ? モッチー!」

「は、はい!」


 和気先輩は俺の肩をバシバシと叩いた後、笑顔で去って行った。

 そして先輩、サンドラ……お願いだからそんなに睨まないでください。


「ク、クソッ! 卑怯な真似を……!」


 牧村クニオは歯ぎしりしながら俺を睨むが、別にオマエみたいに和気先輩を買収したわけじゃないからな?

 まあこうなったら、ジェラートにスイーツをつけて奢らないといけないかもだけど。


「フン! 騒がしいわね!」


 すると今度は、吹奏楽部の部長、鈴原カエデが不機嫌そうに鼻を鳴らして現れた。


「す、鈴原くん! 待っていたよ!」


 嬉しそうに駆け寄る牧原クニオ。

 だけど、鈴原カエデはそれを鬱陶うっとうしそうに手で追い払う仕草を見せた。


 そして。


「相変わらず、生意気な顔をしてるわね」

「はは、そうですか?」


 いや、というか気に入らないのは分かるけど、だからといって俺に絡んでこないで欲しい。

 だけど……こんなことになるんだったら、この前あんな態度取ったのは失敗だったかなー……って。


「……フフ、でも、その一歩も引かないって姿勢、私は嫌いじゃないけど」


 突然、鈴原先輩はクスリ、と笑顔を浮かべ、俺に『信任』に〇をした投票用紙を見せた後、投票箱に入れた。


「まあ、これからは何か困ったことがあったら吹奏楽部に来なさい。生意気な後輩クン」


 俺の胸を人差し指でトン、と叩いた後、鈴原先輩は去って行った。

 で、先輩もサンドラも、俺を射殺すような視線で見つめないでください。


 だけど……あの二人が生徒会の味方をしてくれるなんて思わなかった。


 その後も。


「望月くん! ボク達も来たよ!」

「フフ……サンドラ、負けないデ!」

「師匠! ガツンとやっちゃってください!」


 立花やプラーミャ、加隈に一―三のみんなが駆けつけ、『信任』に〇をした投票用紙を入れる。


「あ、夏目先輩」

「アアア、アンタ達なんて、せ、生徒会をクビになればいいのよ! 見てなさいよ!」


 などと悪態を吐きながら投票用紙を入れ……ようとして。


 ――ヒラリ。


「っ!?」


 上手く入らずに、投票用紙が俺達の目の前を舞う。

 ……『信任』に〇してあるけど。


「フ、フン!」


 慌てて回収した夏目先輩は、今度こそ投票箱に投票用紙を入れ、顔を真っ赤にして去って行った。

 はは……何だよ。一学期の賭けの時は、先輩を生徒会長から引きずり降ろそうとしてたくせに。


 目の前でただ悔しそうにする牧村クニオと取り巻き達。

 だけど、それ以上に。


「ふふ……我々生徒会も、彼等の期待に応えるよう、頑張らないとな」

「……ですね」

「エエ……」


 俺達三人は、支持してくれた学園のみんなに感謝すると共に、生徒会メンバーとして決意を新たにした。

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