第150話 開票

「さて……ただ今から、アレイスター学園生徒会へのリコール請求に伴う信任投票の開票を行う。


 放課後の生徒会室で、桐崎先輩が宣言した。


 今、この生徒会室には、立会人である教頭先生のほか、先生二人と、リコールを請求した牧村クニオとその取り巻き達、そして、俺達生徒会の四人がいる。


「では、望月くんは投票箱をここへ」

「はい」


 俺は投票箱を持ち、氷室先輩の前へと置いた。


「氷室くん」

「はい」


 氷室先輩は投票箱の鍵を開け、中から投票用紙を全て取り出した。


「では、読み上げます。『信任』、『不信任』、『不信任』、『信任』……」


 淡々と読み上げる氷室先輩の言葉に合わせ、サンドラが黒板に線を引いてカウントしていく。だけど、サンドラはルーシ出身なのに、『正』の字でカウントするのな。ちょっと面白い。


「『不信任』、『信任』、『不信任』……」


 俺達全員が、氷室先輩の開票を、固唾かたずを飲んで見守る。

 そんな中。


「…………………………クフ」


 牧村クニオだけは、一人ほくそ笑んでいた。


 そして。


「……『信任』一一六票、『不信任』一四二票、『無効』十一票……結果は、『不信任』ですワ……」


 そう告げると、サンドラが唇を噛んでうつむいた。

 それは、俺や桐崎先輩、氷室先輩も。


「クハハハハ! 素晴らしい結果が出たじゃないか! これで分かっただろう! 君達は、この学園から信頼を得ていないのだよ!」

「アハハハハ! いい気味だわ!」


 高笑いする牧村クニオに合わせ、取り巻き達も腹を抱えて嬉しそうに笑う。

 ハア……というか、氷室先輩とグルで不正しているのを知っていると、コイツ等が滑稽こっけいで仕方がない。

 その証拠に見ろ。先輩もサンドラも、唇を噛みながら笑いを堪えるのに必死じゃないか。


「さあ! 君達はこの生徒会室から速やかに出て行くんだ! もはや君達は、ただの部外者に過ぎない……「えーと、ちょっといいですか?」」


 嬉しそうに追い出そうとする牧村クニオの言葉を遮るように、俺は手を挙げて発言の許可を求める。


「望月くんどうぞ」


 教頭先生から許可をもらい、俺は桐崎先輩の隣に並ぶ。


「というかそもそも、開票結果に疑義があります」

「ハア!? 言い掛かりはよしなさいよ!」


 俺の言葉に、取り巻き達が一斉にいちゃもんをつけ始める。

 いや、不正してるのにコイツ等強気だな……って、ひょっとして不正のことは、牧村クニオと氷室先輩だけしか知らないのか?


「ふむ……何故、そう思うのかな?」

「はい。それは投票数が明らかにおかしいからです」

「クハハ! 何を言っているんだね君は! うちの学園の生徒数は二七〇人だぞ! 一人を除き、全員投票した結果だろう!」


 はい、まるで鬼の首を取ったかのように嬉しそうに語る牧村クニオ。

 だけどそれ、完全にフラグだからな。


「どうしてそう思うのかね?」

「はい。実は俺、今日の昼休み、職員室で聞いてきたんです。今日、生徒の中で休んでる人が何人いるのか」

「っ!?」


 はは、分かりやすいくらい焦ってやがる。

 そうだよ、俺は職員室で確認したんだ。オマエが氷室先輩と一緒に、票数をいじることは分かっていたからな。


「そうしたら、風邪や家庭の事情で欠席している人が、今日は五人でした。つまり」

「……そうすると、投票数が若干多くなるな」


 教頭先生は黒板を眺めながら呟いた。


「ク、クフ……そうは言っても、差なんて微々たるものじゃないか! それに、各教室に余分に配られたものを、誰かが……「いや、それもありえ合い。なあ、サンドラ?」」


 牧村の言葉を遮り、そう言ってサンドラに声を掛ける。


「エエ。だってワタクシ達、クラスの人数分しか配ってませんもノ。そんなはずはありませんワ」


 サンドラは自信満々に牧村クニオに言い放つ。

 俺達はそれをしたかったから、各教室への投票用紙の配付を氷室先輩にさせなかったんだ。


「なるほど……確かにこれは、不正を疑っても仕方がないですね」

「ま、待て! じゃあ何か? この僕が、不正をしたとでも言うのか!」


 牧村クニオが身を乗り出し、訴えかける。

 というか、何言ってんだコイツ。昨日、不正するってハッキリ言ってたじゃん。


 もうこうなると、教頭先生達は牧村クニオ達を疑いの目で見た。

 仮にコイツ等の仕業じゃなかったとしても、誰かが票を操作したことは明らかだからな。


「さて……じゃあ今回の投票は無効とし、再投票を……「そ、そんなの認められない!」」


 先輩が再投票を宣言しようとすると、牧村クニオが必死で拒否する。


「もう結果は出てるんだぞ! たった十票程度・・・・・・・のこと、『不信任』の票数から差し引いてもおつりがくるじゃないか!」


 まあ……それが、たった十票程度・・・・・・・ならな。


「いやいや、そもそも一票でも不正があった時点で、この信任投票は無効だろ。それどころか、場合によってはアンタ自身にも不正の疑惑が掛かってるんだぞ? ちゃんと理解してるのか?」

「フ、フン! 僕はそんな卑怯な真似はしない! 大体、そこまで不正を疑うんなら、徹底的に調べて、証拠でも何でも、出せるものなら出してみるがいい!」


 いや、本当にそんなことを言っていいのか?

 俺は呆れつつも、先輩をチラリ、と見やると……先輩は静かに頷いた。


 ハア……仕方ない、か……。


「分かりましたよ……証拠、出しますよ」


 俺が顔をしかめながら面倒くさそうに告げると、牧村クニオは目を見開いた。

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