第148話 投票用紙
「くあ……!」
今日はいよいよ信任投票の日。
興奮しているのか、俺はスマホのアラームが鳴る前に目を覚ました。
『すぴー、すぴー……』
……まあ[シン]は、そんなことはお構いなしに気持ちよさそうに寝てるけど。
というか、そろそろ[シン]の分のベッドでも買うかなあ……いい加減、狭い。
俺は思いっ切り俺の腹に乗せている[シン]の脚をどけて起き上がると、制服に着替えてリビングに降りた。
「あら、今日は早いのね?」
「おはよう、母さん。なんか今日は目が覚めちゃって」
そう言うと、眠気まなこをこすりながら、朝ご飯を準備してくれている母さんをボーッと眺める。
おっと、あのことを話しておかないと。
「そうだ母さん。今度、先輩と同級生のサンドラを連れてくるから」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、母さんがバッとこちらに振り向いた。
「そうなの! いつ!」
「うおっ!? 落ち着け母さん!?」
すごい勢いで尋ねる母さんに驚き、俺は思わず仰け反る。
「と、とりあえずは、学園祭の後片づけが終わってからになるから……多分、早くても来週の土日のどちらかになるかなあ」
「そうなのね! 決まったらちゃんと言うのよ! それと……その“サンドラ”って誰?」
あ、そうだった。母さんはサンドラのこと知らないんだったな。
「ああ、サンドラは俺と同じクラスの子で、ルーシから留学に来てるんだ。もちろん、
「ふーん……女の子?」
すると母さんは、ニヨニヨしながら俺を見てやがる……。
「そ、そうだよ」
「へえー……これは面白くなってきたわね……」
だから母さん、その笑い方はやめろよ。
『はうはうはう! おはようございますなのです!』
お、[シン]もやっと起きてきたか。
『お母様! 今朝はマンゴー味を所望するのです!』
「ふふ、はいはい」
母さんは苦笑しながら冷凍庫を開けると、マンゴーアイスを取り出して[シン]に手渡した。うーむ、母さんは相変わらず[シン]に甘いなあ……。
『それにしても、マスターはどうして起こしてくれなかったのですか!』
「いや、今日は起きたのがいつもより早かったからな」
というかお前、起こすとキレるくせに……。
マンゴーアイスをかじりながらプンスカ怒る[シン]をジト目で眺めながら、朝ご飯を食べた。
◇
「ふふ……望月くん、おはよう」
「おはようございます!」
朝の通学路、いつもの十字路で俺を待つ先輩に挨拶をして隣に並ぶと、一緒に学園へと歩き出す。
なお、立花は今日も加隈に追いかけ回されているため、もうこの場にはいない。というか、もはや加隈と一緒に通学してると言っても過言じゃない。よかったな、加隈……立花の好感度は下がる一方だけど。
「それで……今日の信任投票、どうするんですか?」
「ああ……それか……」
そう言って、先輩が言い淀む。
まあ先輩からしたら、昨日の氷室先輩と牧村クニオの会話が今でも信じられないんだろう。だって、先輩にとって氷室先輩は、今までたった二人で一緒に生徒会を支えてきた、仲間だもんなあ……。
でも、氷室先輩にとって桐崎先輩は、目標でありライバルだった。
その認識の違いこそが、今の状況を生んでいる。そして……これこそが、『まとめサイト』にあった、氷室先輩の闇堕ちの原因なんだろう。
いや、『まとめサイト』もこの辺、もうちょっと詳しく書いといて欲しいんだけど。
何というか、あのサイトって、
まあ、『まとめサイト』はあくまでもゲーム攻略に特化してるから、仕方ないのかもしれないけど。
「……でしたら、今回の件は俺に任せてもらえませんか?」
「君に、か……?」
「はい」
そう提案する俺を不安げに見つめる先輩に対し、俺は力強く頷く。
先輩には信任投票に集中して欲しいし、何より今の先輩じゃ、正常に判断できない可能性もある。こんな時だからこそ、俺が先輩を支えないと。
それに……俺にも考えがあるしな。
「ということで、ちょっと俺、先に学園に行きますね!」
「あ! お、おい!?」
さて……何とか間に合わせないと、な。
ポケットにある
◇
「ヨーヘイ! おはようなのですワ!」
「おう、おはよう」
生徒会室で俺が作業をしていると、サンドラがやって来て元気に挨拶を交わす。
すると。
「おはようございます」
「あ、おはようございます、氷室先輩」
「お、おはようございますなのですワ……」
氷室先輩も生徒会室にやって来て、挨拶を交わした。
昨日のことがあるからか、サンドラは少し気まずそうにしているけど。
「それで……準備はできていますか?」
「はい。投票箱も職員室の前に設置しましたし、あとは俺とサンドラで、各クラスにこの投票用紙を配付するだけです」
「そうですか……もしよろしければ、各クラスへの配付、私もお手伝いしますが?」
「いえ、そもそも全学年で十二クラスしかないですし、俺達だけで充分ですよ」
氷室先輩の申し出を、俺は明確に断る。
というか、昨日の件がある以上、氷室先輩に
「よっし!」
俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩くと。
「サンドラ、行こうぜ!」
「エ、エエ……」
俺はサンドラの背中を押して、一緒に生徒会室を出る。
そして、扉を閉じようとした時……氷室先輩は、机の上にある、投票用紙の束を眺めていた。
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