第67話 第二十階層

 プラーミャが闇堕ちした日から一週間が経った八月十日。

 俺達は“アルカトラズ”領域エリアの第十七階層に来ている。


「ちょ!? おま!? 俺が前に出てる時は、後ろから攻撃仕掛けんなって言ってるだろう!」

「アラ? ならお得意の『敏捷』を活かして戻ればよろしいのでハ? ……(チッ)」


 そして、今日も相変わらず味方であるはずのプラーミャが俺の背中越しに【フレアランス】をぶっ放してやがる。

 あえて補足するとすれば、むしろ俺が前に出てきた時に限って撃ちやがるし、舌打ちはするし……本当に、遠慮が無くなってきた。


「フフ、まあまあヨーヘイ、プラーミャもわざとじゃないですワ」

「サンドラー! スキー!」

「チョ!? プラーミャ!?」


 サンドラがプラーミャのフォローを入れると、感極まったプラーミャがサンドラに抱き着いた。

 というか、あれ以来ますますヤンデレシスコンが加速している。おかげで俺はいい迷惑だ。


「ふふ……みんな、では次の階層に行くぞ」

「「「はい!」」」


 微笑む先輩の指示に、俺達三人は元気よく返事をした。

 先輩も、ヴェルンドを吸収したことで、[関聖帝君]のステータスが伸びている。といっても、【千里行】スキルの取得は叶わなかったみたいだけど。


 ……あんなことがあったんだ。次、いつどこで“守護者”が現れるか分からない。

 できれば今日中にこの領域エリアを攻略したい気分だけど……。


「望月くん、早く行くぞ」

「あ、す、すいません!」


 階段に足を掛けた先輩に呼ばれ、俺は慌てて駆け寄る。


「ふふ、二人はもう上の階層に行ってしまったぞ? 私達も早く行かねば」

「は、はい……あの、先輩」

「ん? なんだ?」


 階段を上る途中、先輩を呼び止めると、こちらへ振り返った。


「その……身体に、おかしなところはない……ですか……?」

「身体? いや、特には……」

「そ、そうですか……」

「ふふ、変な望月くんだな」


 クスクスと笑うと、先輩はまた前へと向き直って歩を進める。

 だけど……そうか、まだ紋様・・は出ていない、か……。


 俺はほんの少しだけ安堵すると、先輩に遅れないように足早に階段を上った。


 ◇


 そのまま第十八階層を抜け、俺達は第十九階層へたどり着いた。

 というか、ステータスが向上した先輩とサンドラ、危険だけどプラーミャも正式にパーティーに加わったことで、“アルカトラズ”領域エリアの攻略はかなり楽になった。俺には危険だけど。


「ふッ!」

「食らいなさイ! 【裁きの鉄槌】!」

「フフフ……【絨毯じゅうたん爆撃】」


 ……とまあこんな調子で、三人はこの階層で大量に現れる幽鬼レブナント、“ヴォジャノーイ”を一気に殲滅する。


『……[シン]の出番が全くないのです』

「あー、そうだなー……」


 俺と[シン]は、そんな三人が無双するさまをただ眺め続けていた。


「さあ! 次は第二十階層だ!」

「エエ! 行きますわヨ!」

「サッサとこんな領域エリアを攻略しテ、サンドラと……ムフフ」


 意気込む二人と、ますます変態に磨きが掛かってきたように思われるプラーミャの後に続き、第二十階層にやって来ると。


「……幽鬼レブナントがいないですわネ……」

「ああ……ということは、第十階層と同じく、領域エリアボスがいる、ということか……?」

「デスガ……普通、領域エリアボスというのは、一つの領域エリアに一体なのでは?」


 先輩の言葉を、プラーミャが指摘する。


「いや、確かにプラーミャの言うように領域エリアにボスが一体しかいないというのが一般的だが、いくつかの例外はある。ここは、その例外なのだろう」


 まあ、先輩の言う通りここは例外……いや、例外中の例外だ。なにせ、二周目でないと行くことができない特別な領域エリアなんだから。


「まあ、まずは先に進んでみましょう。警戒は怠らないで」

「ふふ、そうだな」

「ソウネ」

「……アナタに言われるのはしゃくだけド」


 一人不満げなプラーミャは無視し、俺達は階層の奥へと進む。

 すると。


「ヤッパリ、第十階層と同じく部屋への扉がありますわネ……」

「エエ……」

「ふむ……となると、中には領域エリアボスがいるということだな」


 はい、います。

 それも、とんでもなくデカい幽鬼レブナントが。


「みんな、準備はいいか?」

「「「(コクリ)」」」


 扉に手を掛けた先輩が確認すると、俺達は頷く。

 さあ……いよいよこの領域エリア攻略のクライマックスだ。


 ――ギイ。


 扉を開け、中に入ると……部屋の中は真っ暗だった。


「……これでは何も見えんな」

「任せてくださイ。【ファイアボール】」


 プラーミャが初級の火属性魔法である【ファイアボール】を天井に向かって放出すると、部屋の中が明るく……はならない。

 何故なら。


「な、なんだこれは!?」

「ウエエ……ウネウネと動いてますワ!?」

「ト、トニカク部屋を出ま……扉が開かなイ!?」


 そりゃそうだ。ここは領域エリアボスの部屋、第十階層と同じなんだ。だったら領域エリアボスを倒すまで、扉が開かないのは当然だ。


 そして……うごめナニカ・・・双眸そうぼうが妖しく輝いた。


「そ、そんナ……!?」


 サンドラは領域エリアボスのあまりにも巨大な姿に思わず後ずさった。


 そう……これが、“アルカトラズ”領域エリアの二体目のボス、“リヴァイアサン”だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る