第66話 双子の姉妹

「エエ! 勝てますワ! この……[ペルーン]なラ!」


 サンドラはそう宣言すると、[イヴァン]改め[ペルーン]は[イリヤー]へと突撃した。


『アハハハハハハハ! ダッタラ! 力ノ差ヲ思イ知ラセテアゲル! 【スヴャトゴル】!』


 プラーミャがそう叫ぶと、[イリヤー]の身体に変化が起こり、中肉中背だったその姿が、みるみる肥大化していった。

 このスキル……一体どんな効果が?


『アハハ! コノ姿ニナッタラ『力』ト『耐久』ガ飛躍的ニ上ガル! 今ノ[イリヤー]ノステータスハ、桐崎様ノ[関聖帝君]ニダッテ負ケナイハズヨ!』


 プラーミャが高らかにわらいながら自慢げに語るが……。


「いや、それはない」

『ッ!?』


 気づけば、俺は冷静にツッコミを入れていた。

 俺は、『まとめサイト』で知っている。[関聖帝君]の本当の強さを。

 それに……先輩は、ヴェルンドの封印の力・・・・を吸収しているはず。アイツを倒した時、その場にマテリアルがなかったのがその証拠だ。


 ひょっとしたら、【千里行】も使えるようになっているかもな……。


「アアアアアアアアアアア!」

『アアアアアアアアアアア!』


 [ペルーン]と[イリヤー]が激突するが、お互いピクリとも動かなくなった。それだけ力が拮抗しているのだろう。


『バ、バカナ! 【スヴャトゴル】デ強化サレタ[イリヤー]ナノヨ!?』

「フフ……で、どうしますノ? [イリヤー]の【スヴャトゴル】の効果って、確か五分間だけですわよネ?」

『クッ! ナマイキ!』


 一歩引いた[イリヤー]が、また[ペルーン]の頭上へと飛び上がる。


『サッキハ防ゲタケド、今度ハドウカシラ? 【絨毯じゅうたん爆撃】!』


 またもや槍衾を展開する[イリヤー]。しかも、【スヴャトゴル】によるステータス強化も相まって、その攻撃範囲は倍に広がっていた。


「サンドラッ!」

「フフ。ヨーヘイ、大丈夫ですわヨ。マア、見てなさイ」


 サンドラはそう言って、[ペルーン]の盾を槍衾に向けると。


「【ガーディアン】」


 いくつもの盾が展開し、その激しく降り注ぐ槍衾やりぶすまを全て受け止める。

 そしてスキルの発動が終わった[イリヤー]に、[ペルーン]は無情のメイスを振り上げた。


「プラーミャ……これが、ワタクシの意志ですワ! 【裁きの鉄槌】!」

『アアアアアアアアアアアアアッッッ!?』


 稲妻をまとったメイスをその身体に叩き落され、[イリヤー]、そしてプラーミャが床に叩きつけられた。


 ――ポン。


「……先輩?」

「ふふ、勝負あったな」


 いつの間にか、先輩が隣に来て俺の肩を叩いた。

 ……どうやら、吸収・・は終わったみたいだ。


「プラーミャ!」


 サンドラは心配そうな表情でプラーミャへと駆け寄る。


『ウ……ウウ……』

「プラーミャ! しっかりしテ!」


 プラーミャのそばに着くと、サンドラはその身体を抱き起こした。


『ド……ドウシテ……ドウシテ、ヤーワタシソバカラ離レルノ……? ヤーワタシハ、サンドラトイツマデモ、一緒ニイタイダケナノニ……サンドラガ、大好キナダケナノニ……!』


 せきを切ったように問いかけるプラーミャの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれる。


「フフ……ワタクシだって、プラーミャのことが好きヨ」

『ッ! ナ、ナラッ!』

「デモ……ワタクシはもう、『レイフテンベルクスカヤ家』とは距離を置きたいノ。もう……貴族とは違う、別の道を進みたいノ……」


 サンドラは、プラーミャに諭すように語りかける。

 自分の想いを、自分の意志を。


『サンドラハ……ヤー《ワタシ》ヲ捨テルノ……?』

「マサカ……あなたはワタクシの大切なたった一人の妹ヨ? アナタがワタクシと会いたいなら、いつだって会えル。ワタクシも、アナタに会いたくなったら、いつでも会いに行くワ」

『デ、デモ……! デモ……サンドラ一人ジャ……』

「フフ……大丈夫。だって、ワタクシにはお節介なバカ・・・・・・と、優しい先輩がいるもノ。ネ? そうでショ?」


 そう言うと、サンドラは俺達のほうを向いてニコリ、と微笑んだ……って。


「チョット待て!? なんで俺がバカなんだよ!? しかもお節介って何だ!」

「アラ? そうでショ?」

「違うから! そうじゃないから!」

「ふふ……まあ、望月くんに関しては的を射ているな」

「先輩!?」


 先輩が俺をチラリ、と見ながらクスクスと笑う

 チクショウ、まさかここで先輩に裏切られるとは思わなかった。


「だから、ネ? ワタクシのお願い、聞いて欲しいナ……」

『サンドラ……!』


 サンドラとプラーミャは抱き合い、泣き合った。

 すると、それに応えるかのように、プラーミャの身体に浮かんでいた紋様が、徐々に薄くなっていく。


 そして、紋様がすっかり消え去ると、プラーミャの瞳も元通りの鮮やかな琥珀色に戻った。


「ふふ、良かったな」

「先輩……ですね」


 いつまでも泣き続ける二人を、俺と先輩はただ見つめ続けていた。

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