第68話 リヴァイアサン

 この“アルカトラズ”領域エリアのラスボスである“リヴァイアサン”は、巨大な海蛇の幽鬼レブナントである。

 しかも、その巨大さゆえに、領域エリアボスの部屋を埋め尽くしており、そのため、部屋の明かりも隠れて暗くなってしまっているのだ。


「さーて……それじゃ、倒すとしますか」


 俺はリヴァイアサンの双眸そうぼうを睨みながら呟いた。

 というか、桐崎先輩とサンドラはパワーアップし、プラーミャもいる今、俺達が負ける要素は何一つない。それどころか、このままだとオーバーキルになるんじゃないだろうか。


 ということで。


「[シン]! アイツは図体がデカいから、多めに呪符を貼ってその動きを止めるんだ!」

『ハイなのです!』


 [シン]は一気に飛び出し、リヴァイアサンの身体にペタペタと呪符を貼っていく。というか、面積が広いからどこでも貼り放題だな。


『それーなのです! 【縛】!』


 呪符の効果によってリヴァイアサンの胴体の動きが止まる……が、やっぱりデカい図体のせいで頭部までは動きを止められなかったか。


「先輩達はアイツの頭部へ優先的に攻撃を仕掛けてください!」

「分かった!」

「任せテ!」

「ダカラ、命令しないデ!」


 先輩を先頭にリヴァイアサンの頭部目がけて一斉に武器を振り下ろす。


「はあああああああああああッッッ!」

「【裁きの鉄槌】!」

「【スヴャトゴル】からノ、【絨毯じゅうたん爆撃】!」

『ガアアアアアアアアアアアッ!?』


 三人の必殺の攻撃にリヴァイアサンが悲鳴を上げ、その双眸そうぼうが赤く輝き始めた。

 ということは……アレがくるな。


「みんな! 一旦ソイツから離れて、俺のところまで戻るんだ!」

「エエ!? だけど、一気に畳みかけませんト!」

「いいから! 今すぐ戻れえええええ!」


 俺の有無を言わせない叫びに、納得はいかないものの三人は俺の元へと戻ってきた。


「[シン]!」

『任せるのです! 【堅】!』


 俺達の前面に呪符を展開して見えない壁を形成したタイミングで、リヴァイアサンその巨大な口の中から真っ黒なスライムのようなものが現れた。


 ひい、ふう、みい……全部で十一体か。『まとめサイト』の情報通りだな。


「あ、あれは!?」

「分かりません! なので[シン]が【堅】でアイツ等を抑えるから、ここは遠距離攻撃ができるサンドラとプラーミャで攻撃を!」

「分かりましたワ! 【ライトニング】!」

「命令しないデって言ってるでしょウ! 【フレアランス】!」


 [ペルーン]と[イリヤー]の魔法が、真っ黒なスライムに一斉に襲い掛かると、スライム達は雷と炎によって次々と黒焦げになり、怪しげな煙となってこの部屋に充満していく。


「あの煙は……まさか、第十階層の時と同じ!?」

「恐らくそうでしょうね……」


 そう、真っ黒なスライムは、リヴァイアサンが放ったスキル、【十一人の毒婦】。一体一体が猛毒の塊で、攻撃を受けると猛毒のガスに変化する。

 もし直接攻撃を仕掛けていたら、攻撃がヒットした瞬間、猛毒によるダメージを食らっていた。


 十一体全てが猛毒ガスへと変化したことを確認すると、


「みんな! あの猛毒ガスを吸い込まないように! サンドラとプラーミャは引き続き遠距離から領域エリアボスを攻撃するんだ!」

「うむ!」

「エエ! 【ライトニング】!」

「アアモウ! 【フレアランス】!」


 リヴァイサンの頭部に、雷を圧縮した球体と炎の槍が次々と命中させる。


『ガアアアアアアアアアアアッ!?』


 ひるんだリヴァイサンは、その両目を閉じ、嫌そうに顔を背けた。

 毒ガスは……よし! 霧散したな!


「みんな! 今こそ一気にトドメを……って!?」


 俺が言い切る前に、先輩達三人は我先にとリヴァイアサンの頭部へと突撃していった。


「食らええええええええええッッッ!」

「息の根を止めますワ! 【裁きの鉄槌】!」

「コレ以上アイツに命令されるのはゴメンなノ! 【絨毯じゅうたん爆撃】!」

『ガ!? ギ!? ゲッ!?』


 三人の息をかせぬ波状攻撃に、まともに悲鳴すら上げることができないリヴァイアサン。


 そして。


「これで……最後だあああああああッッッ!」


 ――斬ッッッ!


 [関聖帝君]の青龍偃月えんげつ刀が、その巨大な眉間を叩き割り、リヴァイアサンはとうとう沈黙した。


「ふふ! やったぞ!」

「やりましたワ!」

「サンドラ! ヤッタ!」


 幽子とマテリアルへとその姿を変えるリヴァイアサンの前で、大はしゃぎの三人。

 もちろん、この俺も……!


「おっしゃーッ!」


 両の拳を高々と突き上げ、思いっ切り叫んだ!


『わあい! やったのです! やったのです!』

「はは! ああ! やったとも!」


 満面の笑みを浮かべる[シン]を抱きしめ、俺達はその場でクルクルと回った。

 で、先輩とサンドラは、なんで指をくわえながら物欲しそうな表情を浮かべてるんですかね?

 特にプラーミャは、そんなサンドラと俺を交互に身ながら、メッチャ歯噛みしてやがるし。もっと素直に喜べよ。


 だけど……これで、先輩に訪れる不幸な結末を、少しでも防げるはず……!


 俺は、その嬉しさのあまり、自然と口元を緩めた。

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