第69話 ありがとう

「さて、と……さあ、先へ進みましょう!」


 三人に声をかけ、俺は先頭を歩く。

 ここから先は、もう幽鬼レブナントも現れないし、危険は一切ない。


 あとは……この“アルカトラズ”領域エリアクリア報酬・・・・・を手に入れるだけだ。


「ふふ……さあて、あとどれくらいでこの領域エリアは踏破できるかな?」


 桐崎先輩が俺の右隣に並び、挑戦的な笑みを浮かべながらそんなことを呟く。

 だけど……すいません、ここでラストです。もう踏破なのです。


「大丈夫! ワ、ワタクシ達なら、どこまででも行けますわヨ! ネ……?」


 今度はサンドラが先輩と反対側……つまり、俺の左側に並ぶと、俺の様子をうかがいながら同意を求める。もちろん、サンドラの意見には完全同意だ。


「はは、まーな。というか、どうやら行き止まりみたいだぞ」


 俺は通路の先を指差すと、そこには小さなほこらがあった。

 あれこそが……俺が求めていたものの一つ・・だ。


「ふむ……あれは一体何なのだろうな……」

「トニカク、行ってみますわヨ」


 俺達はほこらそばへと寄ると、そこには……水色に輝く水晶の玉が鎮座ちんざしていた。


コレ・・って、何なんですかねー? [シン]、ちょっと触ってみて」

『ハイなのです!』


 などと知らないフリをして、[シン]にその水晶玉に触れさせると。


『はうはうはうはうはう!?』

「な、何だ!?」


 突然、水晶玉が輝き出し、[シン]の身体を幽子ゆうしの渦が包み込む。

 それは、まるでクラスチェンジをした時と同じ展開だった。


「こ、これは……!?」

「だ、大丈夫なんですノ!?」

「「…………………………」」


 先輩とサンドラが驚きの声を上げる中、俺とプラーミャは無言でただジッと幽子の渦を凝視していた。


 そして、その渦が消えると……うん、いつもの[シン]だ。


「[シン]、渦の中で一体何があったんだ?」

『はう……それが、特に何もなかったのです……』


 そう言うと、何故か[シン]はシュン、と落ち込んでしまった。

 まあ、クラスチェンジの時と同じようなことが起きたら、さすがに期待するよな。


 でも……その期待は裏切っちゃいない。


「とりあえず、ガイストリーダーで確認してみよう」


 俺はガイストリーダーを取り出し、[シン]のステータス画面を表示させると。


 —————————————————————

 名前 :シン(神行太保)

 属性 :神仙(♀)

 LV :51

 力  :E

 魔力 :S+

 耐久 :D

 敏捷 :SSS

 知力 :S

 運  :B+

 スキル:【方術】【神行法】【全属性耐性】

 【水属性反射】【状態異常無効】【物理弱点】

 【繁殖】

 —————————————————————


 よし! 予定通り【水属性反射】を手に入れたぞ!


『はうはうはう! すごいのです! すごいのです!』

「望月くん、どうだ……っ!?」


 喜ぶ[シン]のステータス画面を見た先輩が息を飲む。

 それはそうだろう。先輩の[関聖帝君]唯一の弱点である、【水属性弱点】を補うどころか、利点に変えるほどのスキルを手に入れたんだから。


「……どうやらこの水晶、精霊ガイストにスキルをくれるみたいですね」

「う、うむ……! これは……すごい!」

「あはは、じゃあ次は先輩の番ですね」

「ああ!」


 先輩は嬉しそうに[関聖帝君]を召喚すると、同じく水晶玉に触れさせた。

 幽子の渦に包まれ、現れた[関聖帝君]のステータスを眺める先輩はものすごく嬉しそうだった。


「ワ、ワタクシモ!」

ヤーモ!」


 サンドラとプラーミャも精霊ガイストを呼び出し、水晶玉に触れさせ……無事、【水属性反射】を手に入れたみたいだ。


 さて……。


「先輩、サンドラ、あとプラーミャ。それと……[シン]、おいで」


 俺は【水属性反射】のスキルを手に入れて喜び合う三人に向き直った。

 [シン]も、俺に寄り添うように立つ。


「俺……本当を言うと、こうやって誰かと一緒に領域エリア攻略をできるだなんて、思ってもみなかった。だって……俺達はクソザコモブ・・・・・・だったから」

「「「…………………………」」」


 先輩とサンドラ、それにプラーミャまで、俺の話を静かに聞いている。


「俺達はそんな自分から変わりたくて、だから必死で強くなろうって考えて、何度も初心者用の領域エリアに行って、気の遠くなるような作業をこなした」

「ああ……そうだな」


 先輩が口元を緩めながら目を閉じると、静かに頷いた。


「そして俺達は強くなって、今度は“グラハム塔”領域エリアを踏破した。これも、ずっとソロで攻略するものだと思ってた。だって、一年生の中で俺の仲間になろうなんて奴、いないと思ってたから」

「バカ……そんなワケ、ないでショ……」


 今度はサンドラが、口を尖らせながら否定する。


「はは、まあ聞いてくれ。それで、“グラハム塔”領域エリアの踏破どころか、とうとうこの“アルカトラズ”領域エリアも踏破した。あの、弱かった俺達が、だ」

「……フン、弱いとまでは言いませんけド」


 おっと、まさかプラーミャまでそんなこと言ってくれるとは思わなかったな。

 おかげで胸が少しくすぐったいじゃないか。


「いつも支えてくれた、見守ってくれた先輩が……いつも絡んできながらも、一緒に付き合ってくれたサンドラが……まあ趣旨や目的は違うだろうけど、本当なら“東方国”の観光をしたいだろうに、わざわざ同行してくれたプラーミャが……三人がいてくれたから、俺はここまで来れました」


 だから。


「本当に、ありがとう」


 俺と[シン]は、深々と頭を下げた。

 あのクソザコモブ・・・・・・でしかなかった俺達を、ここまで連れてきてくれた三人に向けて。


「ふふ……まさか、これで終わりだなんて言わないだろう?」

「そ、そうですワ! まだまだ攻略すべき領域エリアは、たくさんあるんですのヨ!」

「マ、マア……タマタマヨ、タマタマ……」


 はは……俺は本当に、仲間に恵まれた。

『まとめサイト』では、二周目から主人公の仲間になることができるとはいえ、一切需要もなくて、コテンパンにされた後は『ウルセーヨ、クソが……』しか台詞セリフが用意されてないこの俺が、だ。


 そして。


「[シン]……お前もだ。俺の精霊ガイストでいてくれて、本当に幸せだよ」

『マスタア……!』


 そう言うと、[シン]のオニキスの瞳からぽろぽろと涙があふれ出すと。


『マスタアアアアアアアアアアア!』

「はは、[ゴブ美・・・]……ありがとう」


 俺に向かって飛び込んできた[シン]を抱きしめ、俺は久しぶりに[ゴブ美]って名前を呼んだ。

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