第192話 クラス代表選考会 予選⑤

『【神行法・跳】!』


 遥か頭上の大空へ向け、[シン]が発射・・した。


「フフ、ひょっとして上からだったら[スヴァローグ]に近づけル……そう思ってるノ?」

「ああ、そうだけど?」


 俺の答えに、サンドラが腹を抱えてクスクスと笑った。


「フフフフフ!【ヴァルカン】の火柱の高さは最長百メートル! いくら[シン]でも、それを超えるなんて不可能ヨ!」


 その言葉を受け、[スヴァローグ]は火柱をさらに上へと伸ばした。

 学園の校舎のさらに上まで……それこそ、思わず見上げてしまうほどに。


「……ははっ」

「……何がおかしいノ?」


 俺が笑ったことが気に入らないのか、プラーミャは眉根を寄せて不愉快そうに尋ねる。

 だけど、笑っちまったのは仕方ないよな。


 だって。


「お前こそ、俺の[シン]を舐めすぎだろ。百メートル? それがどうした」

「なんですっテ!?」


 俺は人差し指をピン、と立て、ひたすら上昇し続ける[シン]を差した。

 それにつられ、プラーミャも見上げると。


「ッ!?」


 [シン]は空中を軽やかに蹴り、更なる上へと昇り続けていく。

 まるで、同じように伸ばし続ける【ヴァルカン】を嘲笑あざわらうかのように。


 [シン]はとうとう【ヴァルカン】のその先へと到達すると、その中心の空洞へと一気に飛び込んだ。


『はうはうはうはう! いっけー! なのです!』


 右の拳を突き出し、変身ヒーローのように突き進んでいく[シン]の姿は、その速さゆえに、まるで夜空を駆ける“彗星”のようだった。


 そして。


『! とらえたのです!』


 目と鼻の先まで[シン]が迫った、その時。


「フフ、バーカ♪」

「っ!?」


 ニタア、とわらうプラーミャと[スヴァローグ]。


 っ!? まさか!?


「アハハハハ!  ヤーも[シン]のそのスキルを一度見ているのヨ!警戒しているに決まってるじゃない!」

「あ……」


 プラーミャのその言葉に、俺は呆けた声を漏らす。

 そうだ……“アトランティス”領域エリアで、領域エリアボスのクロケル公爵の位置確認のために、プラーミャの前で確実に見せていた、な。


「アハハハハ! 食らいなさイ! 【ブラヴァー】!」


 そう叫ぶと、[スヴァローグ]は左手の先を向かってくる[シン]に合わせ、ハルバートを上空へと投てき・・・した。

 ハルバートは紅蓮の渦をまといながら、まさに無防備な[シン]の額へと迫る。


 だけど。


「[シン]! 今だあああああ!」

『はう! 【神行法・瞬】!』


 俺の合図で、[シン]の身体が一瞬にして掻き消える。


「ッ!? ど、どういうこト!?」

「忘れたのか? これは、立花の[ジークフリート]との戦いの時に見せたスキルだぞ?」


 そう……闇堕ちした立花と戦った時に見せた、【神行法】の中の一つ、【神行法・瞬】。

 スピードという概念を超え、一瞬にして有効範囲内へと移動することができる、まさに世界最速・・・・の[シン]のためのスキル。


『取ったのです!』

『ッ!?』


 ハルバートを投げ、素手のみとなった[スヴァローグ]だが、それでもなお闘争本能は衰えずに背後に肉薄した[シン]へと裏拳を放つ。

 まあ、[シン]にそんな攻撃、当たらないけどな。


『【凍】』

『アアアアアアアアアアアアアッッ!?』


 呪符の貼られた箇所から、徐々に凍りついていく[スヴァローグ]の身体。

【方術】はスキル攻撃であるため、[スヴァローグ]の持つ【氷属性反射】も何の役にも立たない。


「ッ! こうなったラ!」

「っ!? ほ、本気かよ!?」


 このままだと負けになると悟ったプラーミャは、まだ凍っていない右半身を振り絞ると、自分の身体もろとも素手で槍衾やりぶすまを展開した。


「アアアアアアアアッッッ! 【絨毯じゅうたん爆撃】!」

「[シン]!」


 俺は思わず[シン]に向かって叫ぶ。


『大丈夫なのですマスター! [シン]は……[シン]は、史上最速・・・・なのです!』

「なあっ!?」

「エエッ!?」


 俺とプラーミャは、同時に驚きの声を上げる。

 だって……まさか、[スヴァローグ]の槍衾やりぶすまを、全弾かわすなんてあり得ないだろ!?

 オマケにその動きがあまりにも速すぎて、[シン]の身体が残像でいくつにも見えるし!?


『はう!』


 [スヴァローグ]の攻撃の全てを、何事もなかったかのようにすり抜けると、[シン]はクルリ、と反転して呪符を貼り付けた。


『【爆】』

『キャアアアアアアアアアッッッ!?』


 全身が氷で覆われた[スヴァローグ]は、呪符の爆発によって吹き飛ばされ、その身体が舞台に叩きつけられる。

 すると、凍っていることが仇となってその勢いのまま舞台の上を滑り、場外へと飛び出てしまった。


「っ! それまで!」


 ふう……勝った、な……。


『マスタアアアアアアアアアア!』

「っ! ははっ! [シン]!」


 俺は満面の笑みで飛び込んでくる[シン]を受け止め、抱きしめてやる。


 そして。


「勝者、“プラーミャ=レイフテンベルクスカヤ”!」


 …………………………は?

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