第361話 お父さんのプレッシャー
「ふう……さあ、始めようか」
そう言うと、お父さんの瞳がギラリ、と輝いた。
「え、ええと……何を、でしょうか……?」
俺はあえてとぼけながらそう尋ねる。
だって本題に触れた瞬間、
「ああ……そのことについて君は一切気にする必要はない。君はただ、この私の質問に答え続ければいい」
「は、はあ……」
質問? しかも、『答え続ければ』ということは、いくつも質問があるってことか?
「まず……君はどうやって、そこまでサクヤと仲良くなったのかな?」
「へ!?」
どうやってサクヤさんと仲良くなったかって……そんなの、お父さんも知ってるじゃん!?
「あ、あの……それについては学園長もご存知じゃ……」
「……今の私は学園長などではない。私は、サクヤの父として尋ねている」
「っ!?」
お父さんにギロリ、と睨まれ、俺は思わず息を飲む。
うう……こ、これは下手に答えるわけにはいかないぞ……!
「そ、その……サクヤさんは、俺が初心者用の
入学した次の日のあの出来事を、俺は
あの日、俺はサクヤさんに出逢って、俺と[ゴブ美]を認めてもらって、そして、サクヤさんの優しさに触れて……。
「……ははっ」
「……何がおかしいのかな?」
「はえ!?」
ヤベ、あの時のことを思い出しながら説明してるうちに、無意識に笑ってた……。
「ふふ……そうだったな。もう、あの出逢いから九か月も経ったのだな……」
一緒に話を聞いていたサクヤさんも、思い出しながらクスクスと笑う。
でも、そんなサクヤさんの態度も気に入らないのか、お父さんは眉根を寄せた。
「旦那様、ビールをお持ちしました」
「う、うむ、ありがとう」
ちょうど苦虫を噛み潰した表情のお父さんの空気を変えるように、カナエさんがビールを持って来た。
おかげで、お父さんの表情が若干和らいでくれた。カナエさん、ナイス。
「……コホン、まあいい。では次の質問だ。きっかけはそうだったとして、君は何故、今もサクヤと行動を共にするのかな? わざわざ生徒会に押し掛けてまで」
「そ、それは……」
そんなの、理由なんて一つしかない。
俺が、ずっとサクヤさんの傍にいたいからだ。
でも……それを言ったらこの人、キレるんだろうなあ……。
そしてサクヤさん、そんな期待に満ちた瞳で答えを待つのはやめてください。
「……あ、まあ、サクヤさんは俺にとって、尊敬する憧れの
ど、どうだ? これなら、俺がサクヤさんを追っかていても不思議じゃないし、嘘は一切吐いてないからな……?
なのに。
「く、くう……! た、確かに君の言う通り、サクヤは学園の生徒の誰よりも優れた、自慢の娘だが……!」
シレッとサクヤさんをベタ褒めしつつ、どうしてそんなに悔しそうにしてるんですかね?
「む、むう……その言葉は素直に嬉しいが、そ、その……他には……?」
いやいやサクヤさん、余計なことを言って今後サクヤさんと一緒にいることを禁止されたらどうするんですか?
なので、そのおねだりについてはまた別の機会で。
「な、なら! サクヤによれば、君は一年生なのに既に学園でも優れた
うぐう!? ここにきて、サクヤさんが俺のことをベタ褒めしてくれていたことが
だが! 俺はくじけない!
「そ、そんなことはありません! 俺は今でもサクヤさんがいなければ全然です! この前の賀茂の起こした事件でも、決め手となったのはサクヤさんでしたから!」
「むう!? た、確かに君の言う通り、サクヤは二年生になってから急激な成長を遂げているからな……!」
「はい! そして俺も、そんなサクヤさんのおかげで、ここまで強くなれたんです! そして、それはこれからも!」
「むむむむむむむむ……!」
ふふ……ここまでサクヤさんを持ち上げれば、お父さんも何も言えまい。
その証拠に見ろ。お父さんの顔、メッチャゆるっゆるだ。
そして。
「あうあうあうあうあうあうあうあう……まま、全く、ヨーヘイくんは加減というものをだな……」
顔を真っ赤にした先輩が何か言ってるが、嬉しそうだからよしとしとこう。
「くうう……! サクヤが褒められるのは嬉しいが、あの表情を見てしまうとやり切れん……!」
悔しそうにするお父さんは、コップを手に取ってビールを一気にあおった。
「つ、次だ! なら、君はサクヤを……」
それから、お父さんと押し問答を続けること十数分。
「ほ、ほほう? サクヤにそんな一面があったとはな……」
「そうなんですよ! それが、その……すごく可愛いというか……」
「うむうむ! そうだろうそうだろう!」
ビールが回ってきたのか、お父さんは俺がサクヤさんを手放しに褒めるたびに、上機嫌に笑顔を見せた。ふふ、チョロイ。
「あうあうあう!? ヨヨ、ヨーヘイくん、もう……もう……!」
当然サクヤさんもサクヤさんで、その表情が最高にゆるっゆるになっていたりもするんだけど。
「うふふ……望月様、
「カナエさん!?」
背後からそっと告げられ、俺は思わず仰け反ってしまった。というか心臓に悪い。
「ふむ……だが、私はどうやら君を誤解していたようだ」
腕組みをしながらウンウンと頷くお父さん。
どうやら、俺のことを認めてくれたみたい……「だが!」……え!? まだ何かあるの!?
「娘は……サクヤは、絶対に誰にもやらん! たとえ君であってもだ!」
顔を真っ赤にしたお父さんは、ムフー! と鼻息荒くそう告げると。
「そういうことだから……な……!」
――コテン。
……どうやら酔っぱらったみたいで、ソファーに倒れ込んで寝てしまった……。
「お、お父様……」
そしてそんなお父さんを、サクヤさんは残念なものを見るかのような視線を向ける。
「……とりあえず、毛布でも取ってくる」
「は、はい……」
こめかみを押さえ、サクヤさんは席を立ってリビングを出た。
それを見送った後、俺は視線をお父さんへと戻す。
「……そんなに可愛いくせに、大切なくせに、なんで……なんで、
俺は拳をギュ、と握りしめながら、眠るお父さんを……藤堂マサシゲを、ただ睨んでいた。
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