第239話 絶対防御

「さて……それじゃあ第二ラウンドといこうか」


 そう告げると、俺はサンドラと共に中条シドと対峙した。


「クク……ひょっとして、二人掛かりなら我の[デウス・エクス・マキナ]に勝てるとでも思っているのか?」


 そんな俺達を、中条シドは嘲笑あざわらう。


「ああ。俺とサンドラなら、オマエを倒せると思ってるよ。なあ、サンドラ?」

「フフ……エエ。ワタクシとヨーヘイで、倒せない敵などおりませんワ!」


 実際、俺があの[デウス・エクス・マキナ]を倒すためには、サンドラの力が必要不可欠だ。


【絶対防御】を持つ、[ペルーン]の最高の盾が。


「クク、まあいい。我の前に立ったこと、二人仲良く後悔するがいい!」


 その言葉を合図に、[デウス・エクス・マキナ]が金属の歯車を次々と投げてきた。


「っ! [シン]! サンドラ! 来るぞ!」

『ハイなのです!』

「エエ! 【ガーディアン】!」


 俺と[シン]は[ペルーン]が展開する盾の陰に隠れると、盾は歯車を全て弾き落と……せない!?


「クク……!」


 なんと歯車は、高速に回転しながら盾にまとわりつくかのように、縦横無尽に盾の表面を駆け巡った。


「チイッ! 【ガーディアン】、全方位展開!」


 サンドラは、盾の端まで到達して裏側へと侵入しようとした歯車を阻止するため、無数の盾をドーム状に展開した。


「っ! ……へえ、我の【ツァーンラート】を寄せつけないとは、なかなかの盾だな……」

「フフ、当然ですワ。それニ」


 そう言うと、サンドラが俺のほうへと振り返り、ニコリ、と微笑む。


「ワタクシの後ろには、世界で一番・・・・・守りたい人・・・・・がいるんですもノ」


 い、いやサンドラ、その言葉はメッチャ嬉しくはあるんだけど、その……恥ずかしい……。

 ああもう! 顔が熱くて仕方ないんだけど!


『はう……これはアレク姉さま、もう手遅れかもなのです……』


 いや、[シン]!? 手遅れ・・・ってどういうこと!?


「クク……なるほどな。だが、[デウス・エクス・マキナ]の前に、そのような防御など無意味だ。【カイロス】」


 中条シドがそう告げると、[デウス・エクス・マキナ]のいる方向から歯車が回転しながら空気を切り裂く音が迫る。おそらく、さっきの土御門さんの時と同じように、俺達の頭上で静止して、時を巻き戻す・・・・・・つもりなんだろう。


 だけど。


「ん……? どういうことだ?」


 一向に状況が変化しない様子に、中条シドが疑問の声を上げた。


 だけど、これこそ俺がサンドラをパートナーに選んだ理由。

 [ペルーン]の【ガーディアン】が持つ【絶対防御】のスキルは、物理や属性による攻撃だけじゃなく、状態異常やスキル効果すら弾き返す、まさに鉄壁の守りなんだ。


 だから、[デウス・エクス・マキナ]の持つデタラメなスキルさえも防げると踏んだんだけど……期待以上、だな。


「ははっ! やっぱりサンドラはすごいな!」

「フフ……当然ですワ」


 俺が手放しに賞賛の言葉を告げると、サンドラが微笑みを返してくれた。


「ほう……まさか、【カイロス】すら受け付けない盾が存在するとは……それに、その精霊ガイストも、木崎から聞いていた話とは違う」


 ……またここで、あのクソ女の名前が出てくるのか。というかクソ女の奴、一体どうやって情報を仕入れてるんだ?

 普通に考えて、うちの学園の誰かをスパイにして情報収集しているというなら、サンドラや立花の精霊ガイストについて把握しているはず。


 それに、どうにも俺達の行動を読んでいるふしがあるのに、中途半端にずれてるんだよなあ……。


「なあ、オマエに聞きたいんだけどさあ……」

「……なんだ?」


 お、ダメ元で尋ねてみたら、意外にも話を聞いてくれるみたいだぞ。

 じゃあこの際だし、聞いてみるか。


「クソ女……木崎は、なんで俺達のことをそんなに詳しく知ってるんだ?」

「クク、何を聞いてくるかと思えば……そんなもの、アレイスター学園の生徒なのだから、その程度の情報は知っていてもおかしくないだろう?」


 そう言って、まるで馬鹿にするかのように笑う中条シド。

 だけど、そうか……コイツも詳しくは分かってないんだな。


「はは……まあ、助かったよ」

「クク、それは何よりだ」


 俺が礼を言うと、中条シドは嬉しそうに返事した。

 アレ? コイツってこじらせてはいるけど、意外と悪い奴じゃないかも?


 とはいえ、コイツ等の目的が『ユグドラシル計画』である以上、全力で排除させてもらうけどな。


「ところで、そのように盾にこもりきりだと、いくら攻撃を防いだところで我を倒すことはできないぞ? まあ、我としてはオマエ達がそうやってこもっている間に、学園長室に入って必要なものを手に入れるだけだがな」


 嬉しそうにクスクスと笑う中条シドだけど、俺達をあおって誘い出そうとしている魂胆が見え見えなんだよなあ。

 それに……攻撃手段だってないわけじゃないんだぞ?


「[シン]」

『了解なのです!』


 俺が声を掛けると、[シン]は力強く頷いた。


「ヨーヘイ……【ガーディアン】の隙間、少し開けまス?」

「いや、このままで問題ない・・・・


 サンドラの問い掛けに、俺は口の端を持ち上げながらそう答えた。

 だって、仲間が内側から通り抜ける場合・・・・・・・は、【絶対防御】の対象外だからな。


『はう! 【神行法・瞬】!』


 そう告げた瞬間、[シン]が目の前から消える。


 そして。


『はうはうはう! 取ったのです! 【爆】!』

「グウッ!?」


 盾の向こう側から、呪符による爆発音と、中条シドの驚きの声が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る