第240話 小さな背中

『はうはうはう! 取ったのです! 【爆】!』

「グウッ!?」


 盾の向こう側から、呪符による爆発音と、中条シドの驚きの声が響いた。


「ヨーヘイ、これっテ……」

「ああ。見ての通り、[シン]ならこの【ガーディアン】の中と外を行き来できるし、一瞬で[デウス・エクス・マキナ]の背後を取ることだってできる」


 そう……[シン]の【神行法】なら、アイツの時間逆行スキルである【カイロス】を発動させることなく、先手を打つことができる。しかも。


『はう! 戻ったのです!』

「ああ、よくやった!」


 攻撃を加えた直後に、そのまま【ガーディアン】の中へと離脱すれば、ダメージを食らうこともない。


 もちろん、立花の[伏犠ふっき]がクラス代表選考会で見せたように、無理やり【ガーディアン】をこじ開けて盾の裏側に侵入されちまったら、それはそれでなすすべがなくなるけどな。


「とはいえ……こんな攻撃も焼け石に水・・・・・ではあるんだけどな」

「エ……?」

「ちょっと盾に隙間を開けて見てみろよ」


 そう言うと、サンドラは訝し気な表情で盾に隙間を開けてのぞくと。


「……何とも厄介な精霊ガイストだな」


 中条シドは忌々し気にコッチを睨みつけているが、呪符によってダメージを受けたはずの[デウス・エクス・マキナ]が、みるみるうちに元通りになっていった。


 もちろん、【カイロス】の時間逆行の力によって。


「……このままじゃ、ジリ貧じゃありませんノ……?」

「だよなあ……」


 いや、それは俺も分かってはいるんだよ。


 一応、『まとめサイト』の中条シドの攻略については、高火力の精霊ガイストで一気に畳みかけるっていうのが正解らしいんだけど、立花には生徒会長を、プラーミャには土御門さんを相手してもらってるせいで、完全に火力不足だ。


 だからこうやって、【ガーディアン】で[デウス・エクス・マキナ]の攻撃をしのぎつつ、[シン]がチマチマと攻撃を仕掛け続けることによって時間稼ぎをしているんだ。


 で、その間に立花とプラーミャに生徒会長と土御門さんを倒してもらって、コッチに合流してもらってから一気にカタをつけるってのが、俺が考えた作戦なんだけど……。


 ハア……ここに先輩がいてくれたらなあ……って、なんで俺は、ないものねだりなんかしてるんだよ。


 確かに先輩がいれば、[関聖帝君]の【一刀両断】で下手をしたら一撃でケリがつくかもしれない。

 だけど、俺は先輩と氷室先輩に昨日の夜、頼んだんだ。


 俺達が学園長室への侵入を食い止めるから、先輩達は、残っているメイザース学園の他の連中が何かしでかさないように監視して欲しい、と。


 だから。


「……サンドラ、今の俺達は厳しい状況にあるってことは間違いない。だけど、絶対に俺達だけで食い止めるんだ。これ以上、うちの学園で好き勝手やらせられるかよ」

「フフ……それでこそヨーヘイですワ。ワタクシも、アイツの攻撃なんて、全部防ぎ切ってみせますとモ」


 俺とサンドラはお互い顔を見合わせると、クスリ、と微笑んだ。

 はは……全く、サンドラは先輩にも並ぶ、最高の仲間だよ。


「よっし!」


 俺は今以上に気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩く。


「さあて……それじゃ、いっちょやるかあ!」

『はう! この[シン]に任せるのです! アレク姉さまとペルおじさまが全部防ぐなら、[シン]はあんな奴の攻撃、全部かわしてみせるのです!』

「はは! おう!」


 [シン]が俺とハイタッチを交わし、【ガーディアン】の隙間からキッ、と[デウス・エクス・マキナ]を睨みつけた。


 そして。


『はう! 【神行法・瞬】!』


 [シン]は再び、[デウス・エクス・マキナ]へと挑む。


 あんな小さな身体を、奮い立たせて。

 あんな小さな背中に、俺達の意志を乗せて。


「クク! ただこもるのではなく、姿を見せて[デウス・エクス・マキナ]に挑む、その心意気やよし! 我と[デウス・エクス・マキナ]も、全力をもって相手しよう!」


 中条シドは口の端を吊り上げて高らかに笑うと、[デウス・エクス・マキナ]はその両手を大きく広げて迎え撃つ体勢を取った。


『はう! また後ろを取ったの……ですっ!?』

「甘い! 【カイロス】!」


 [シン]が『敏捷』“SSS+”を活かして[デウス・エクス・マキナ]に肉薄するが、いつの間にか[シン]の頭上に金属の歯車が浮遊しており、一瞬にしてその直前に巻き戻される・・・・・・

 そしてそこには、[デウス・エクス・マキナ]によってあらかじめ配置された、【ツァーンラート】が高速回転しながら待ち構えていた。


『はうはうはう! 【神行法・転】!』


 だけど、[シン]も負けじとその身体を[デウス・エクス・マキナ]と入れ替え、自滅を誘う。


「ククッ! 【カイロス】!」


 まさに自身の身体を金属の歯車がえぐろうとした瞬間、[デウス・エクス・マキナ]が【ツァーンラート】を巻き戻した。


「クッ……木崎め……適当なことをぬかしたこと、恨むぞ……!」


 終始余裕の表情を浮かべていた中条シドだったが、思うように【ガーディアン】を攻略できないいら立ちと、[シン]のスピードとスキルを活かした息を吐かせぬ猛攻に、顔をしかめる。


『はうはうはうはう! まだまだ行くのです!』

「クッ! このおおおおおおおお!」


 とうとう感情をあらわにした中条シドが、[シン]に向かって吠えた。


「サンドラ……中条シドが[シン]に気を取られているうちに、俺達はアイツに気づかれないように少しずつ近づくぞ」

「エエ……分かりましたけド、近づいてどうするんですノ?」


 サンドラはアクアマリンの瞳で俺を見つめながら、おずおずと尋ねる。


「決まってる。[ペルーン]の【裁きの鉄槌】の一撃で、あの[デウス・エクス・マキナ]を沈黙させるんだよ」

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