第108話 主人公対クソザコモブ①

『ダッタラ! ……ダッタラ、キミモアイツ等ト同ジ目ニ遭ワセテヤル! ボクヲ……ボクヲ、裏切ッタ罰ダヨ!』


 そう叫ぶと、立花の瞳が……黒く染まった。


「っ!? これって……闇堕ちかよ!?」


 いや、立花は主人公だろうが! なんでそんな奴が、闇堕ちなんてしてやがるんだよ!?


「ネ、ネエ、ヨーヘイ……これ、プラーミャの時と同じ……っ!?」


 サンドラがおずおずと尋ねてきたタイミングで、立花が幽子の渦に包まれた。

 間違いない……立花は、闇堕ちしたんだ。


「望月くん、どうする?」


 桐崎先輩が、心配そうに俺を見つめながら尋ねる。

 どうするって? そんなの……決まってる!


「先輩……立花が闇堕ちしたきっかけは俺なんです。だったら……だったら、立花は俺が正気に戻して見せます!」

「……そうか。[関聖帝君]」


 俺がそう宣言すると、先輩は[関聖帝君]を召喚した。


「ならば、立花くんと存分に語り合うといい。アイツは……」


 少しずつ収まっていく幽子の渦を見据え、先輩は身構える。


 そして。


「アイツは、この私が倒す!」


 立花と共に姿を現した九つの柱の一柱、“ミズガルズ”の守護者である“ヨルムンガント”へ、青龍偃月刀の切っ先を向けた。

 だけど、あのヨルムンガントは“アルカトラズ”領域エリアのボス、リヴァイアサンよりもさらに巨大な幽鬼レブナントだ。

 それだけじゃない。ヨルムンガントは九つの柱の中でも、上位の強さを誇っている。

 さすがに、先輩だけじゃ……。


「フフ……先輩、ワタクシもちゃんと数に入れてくださいまシ」


 いつの間にか[ペルーン]を召喚したサンドラが、先輩の隣に並び立った。


「む……だが、望月くんのサポートも必要だろう?」

「まさカ。ヨーヘイが、立花クンに負けるはずがありませんワ。だって……ヨーヘイですもノ」

「ふふ……違いない」


 先輩とサンドラは微笑み合うと。


「ヨーヘイ! コッチもすぐに倒してしまいますかラ、ヨーヘイもサッサと終わらせるんですのヨ!」


 サンドラと先輩が、俺に向かって拳を突き出した。

 まるで、この俺を激励するかのように。


 はは……こんなの、燃えなきゃウソだろ!


「先輩! サンドラ! 任せたぞ!」

「ああ!」

「エエ!」


 そして俺は、既に[シークフリート]を召喚している立花を見据えた。


「よう、待たせたな」

『別ニ、ボクハキミナンテ待ッテナイヨ。裏切者ノキミナンテ』


 立花は、その漆黒の瞳に憎しみを宿し、この俺をただ睨みつける。

 絶対に許さない、そんな思いを込めて。


 はは……というか、逆恨みもいいとこなんだけど。

 まあいいや、だったら。


「だったら! 立花のバカに分からせてやるだけだ! [シン]!」

『ハイなのです!』


 俺の隣にいた[シン]が、[ジークフリート]目がけて一気に飛び出すと、あれだけ開いていた距離が一気に詰まった。


『それー! なのです!』


 仁王立ちする[ジークフリート]に、[シン]は何枚もの呪符を貼りつけていく。


『【縛】!』


 よし! これで[シークフリート]は身動きできないはず……っ!?


『アハハハハ! 望月クン、何ソレ? ソンナオ札、ボクノ[ジークフリート]ニ通用スルワケナイヨ!』


 [ジークフリート]は、何事もないかのようにその手に持つ大剣をひと振りした。

 クソッ! 立花の奴、さては召喚した時点で【竜の恩恵】を発動してやがったな!


 [ジークフリート]が持つ特殊スキル、【竜の恩恵】は、[ジークフリート]の全ステータスを二段階引き上げるばかりか、【物理耐性】【全属性耐性】【状態異常無効】の効果を得る。

 しかも、同じようなスキルであるプラーミャの[イリヤー]が持つ【スヴャトゴル】は、その効果持続時間が三分間であるのに対し、【竜の恩恵】は……十分間・・・


 ……どのタイミングで発動したのかは知らないが、それでも、九分は残ってると考えておいたほうが無難だな。


『アハハ! ソレデ、ドウスルノ? コノママボクト、ニラメッコデモスルツモリナノ?』

「ああ、そうだな。できれば、十分間・・・はにらめっこしたいんだけど?」

『ッ! ……ヘエ、望月クンニ教エテアゲタ覚エハナインダケドナ。マアイイヤ、ドッチニシテモ、ボクガソンナノ待ツワケナイシ!』


 そう言うと、[ジークフリート]は[シン]に向かって飛び出した。


「っ! [シン]!」

『大丈夫なのです!』


【竜の恩恵】によって、[ジークフリート]の『敏捷』ステータスも二段階アップしているが、それでも。


『ッ! クソ! 追イツケナイ!?』

『へへーん! なのです!』


 [シン]の『敏捷』ステータスは限界超えの“SSS”。[ジークフリート]がクラスチェンジして最大レベルまで引き上げて、さらに【竜の恩恵】を使っても、それでも追いつけないスピードだからな。


『……マアイイヤ。ダッタラ!』


 [ジークフリート]が、その口を大きく開く。

 あれは……【竜の息吹】かっ!


「[シン]! 来るぞ!」

『分かっているのです! 【堅】!』


 俺の言葉を聞く前に、[シン]は呪符を展開する。

 だけど。


「違う! そうじゃない! かわせええええええ!」

『っ!?』

『カアッ!』


 [ジークフリート]の口から、【竜の息吹】が放たれる。

 ただ、[シン]は俺の指示を聞いてすぐにその場を離れたため、かろうじて躱すことができた。


『マスター! どうしてアレを受け止めたらいけないのです!』


 ギリギリのタイミングでかわすことになったせいで、[シン]が抗議する。


「あの【竜の息吹】はな……【全防御貫通】の効果があるんだよ」

『っ!?』


 俺の説明を聞き、[シン]は息を飲んだ。

 そう……あのまま【竜の息吹】を受け止めていたら、【堅】の防御壁は貫通し、[シン]に直撃していたところだった。


 というか。


「クソッ! このチート野郎め……!」

『アハハハハ! ドウ? ボクハ強イデショ?』


 ギリ、と悔しそうに歯噛みする俺に向け、立花はニタア、とわらう。


 その時。


「っ! 立花!」

「立花クン……」


 どういう訳か、加隈とプラーミャがこの場に現れた。

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