第109話 主人公対クソザコモブ②

「っ! 立花!」

「立花クン……」


 歯噛みする俺を立花がわらっている、その時、どういう訳か加隈とプラーミャがこの場に現れた。


『ヘエ……望月クン、桐崎先輩トサンドラサンダケジャナク、加隈クントプラーミャサンニモ声ヲカケテタンダ……』

「いや!? 俺は声かけてないんだけど!?」

『アハハ、自分ヲ馬鹿ニシタ奴ナノニ、望月クンハドウシヨウモナイネ』

「だから呼んでないって言ってるだろ! 俺の話を聞けよ!?」


 チクショウ! 全然会話がかみ合わない!

 というかプラーミャも加隈も、なんでここにいるんだよ!?


「……俺達は望月に呼ばれたわけじゃねえ。俺達が勝手に、望月達の後をつけてきただけだっつーの」

「本当に、ヤーを除け者にするなんて、いい度胸ネ」


 そう言って、加隈とプラーミャは俺を睨んだ。なんで!?


「それよりよー……立花、オマエ何やってんの? 望月はオマエの一番の友達ダチじゃねーのかよ!」

『アハハハハ! 違ウネ! ダッテ、望月クンハコノボクヲ裏切ッタンダ! ソンナ奴、友達デモナンデモナイヨ!』


 加隈の呼びかけに、立花は高笑いする。

 でも……俺には、立花が泣いているようにしか見えなかった。

 信じていたものに裏切られ、居場所もなくして、ただ泣き叫んでいるように。


「……それより、アオイも闇堕ちしたのネ」

『闇堕チ? マサカ。ボクハ今、清々シイ気分ダヨ! コノ姿コソ、本当ノボクダッタンダヨ!』

「嘘」


 立花は嬉しそうに語るが、プラーミャはたった一言でそれを否定した。


『オ、オマエニ何ガ分カルンダヨ!』

「分かル……だって、ヤーもアナタと同じで、闇堕ちしたもノ」

『ッ!?』


 プラーミャの告白に、立花は息を飲んだ。

 まあ、驚くよな。だって、とてもそんな奴には見えないもんなあ。


「……ヤーにとっては、たった一人の姉……サンドラこそが全てで、ヤーから離れようとするサンドラと、そのサンドラを連れて行こうとするヨーヘイを恨んだワ」

『…………………………』

「デモ、ただ心のままに叫んだヤーを、サンドラが受け止めて、サンドラが心の内を語ってくれて、諭してくれたおかげで、ヤー戻れた・・・。」

『ソ、ソレトコノボクト、何ノ関係ガアルンダヨ!』


 プラーミャの言葉に、立花が動揺している。

 多分、闇堕ちした奴にしか分からない、動機や想いみたいなものがあるんだろう。それが、見事に立花の心に突き刺さってる、ってことか……。


「アナタが闇堕ちしたのは、ただ単に、そこのヨーヘイに裏切られたって思い込んだからでショ? だったラ……ヨーヘイが本当にそんな奴なのか、戦って確かめなさイ。それト」


 プラーミャは、すう、と息を吸う。

 そして。


ヤーは、アナタ達の戦いを見届けるワ……アナタと、この“グラハム塔”領域エリアを一緒に踏破した仲間・・としテ」

『ア……』


 立花の漆黒の瞳に、僅かに光が宿る。


「そ、そうだぜ! 確かに俺は、そこにいる望月に酷いことをした! おちょくって、馬鹿にして……そして、今度は俺が同じ目に遭ったよ……」

『加隈クン……』

「俺は腐っちまって、全部望月のせいにして、お前に突っかかって……で、俺はコテンパンにされて、耳を塞いじまった」


 ああ、そうだ。

 加隈は『まとめサイト』に載っている、俺になっちまったんだったな。


「でも……コイツは、こんな俺の胸倉をつかんで叫びやがった。『このままでいいのか』って、発破をかけて……ハハ、今まで散々馬鹿にしてきた俺に、そんなこと言うんだぜ?」


 そう言って、加隈は自嘲気味に笑うと、真剣な表情に戻り、立花を見据えた。


「だから俺は、望月みたいになりたいと思った。立花……お前もそうじゃないのか?」

『…………………………』

「とにかく! 俺はお前達の戦いを見届ける! 同じ男を目指す、仲間・・として!」


 いや加隈!? おま、何言ってんの!?

 というか、俺を目指すとか勘弁しろよ! 本気マジでキモチワルイぞ!


『…………………………プ』


 すると、立花が突然吹き出した。


『アハハハハ! プラーミャサンモ、加隈クンモ、馬鹿ジャナイノ?』

「ハア!? ユーイチはともかく、ヤーに向かって馬鹿とはナニヨ!」

「いや待て!? なんで俺は馬鹿確定なんだよ!? 仲間に対して扱い酷くね!?」


 立花の言葉を皮切りに、三人が痴話ゲンカを始めた。

 何だかなあ……。


『アハハハハ! ……ハア、モウ面倒ダナア……イイヨ、サッサト戦オウヨ』


 散々馬鹿笑いしたかと思うと、立花は冷めた表情で急に溜息を吐き、俺を見やった。


「オイオイ、そんな舐めた態度で、俺に勝てると思ってるのか?」

『思ッテルヨ。加隈クンハ、ボクガキミニ憧レテルナンテ言ッテルケド、ソンナコトナイカラ。ダッテ』

「っ!?」

『キミ、モウスグコノ世カラ消エチャウンダモン。【チェンジ】』


 立花がそう告げると、[ジークフリート]の身体が、突然幽子の渦に包まれた。

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