第248話 闇堕ち、土御門シキ

『ワラワハ……ワラワハアアアアアアアアアアアアアッッッ!』


 絶叫と共に、土御門さんの身体が幽子の渦に包まれた。


「も、望月くん!」

「ヨーヘイ!」


 先輩とサンドラが、俺の元に駆け寄る。


「これは、ひょっとして……」

「はい……闇堕ち、ですよ……」


 そう……『ガイスト×レブナント』本編の交流戦イベにおいても、中条シドから放たれた心ない言葉によって『土御門家』の再興が途絶えたことを悟った土御門さんは、団体戦の舞台の上で闇堕ちをする。


 それにしても……。


「近衛スミの奴……まるで狙ったかのように、土御門さんを揺さぶるような言葉を……」

「ヨーヘイ……?」


 そんな呟きを聞いたサンドラが、心配そうに俺の顔を覗き込む。


「あ、ああ、悪い……とにかく、闇堕ちした土御門さんを救うぞ!」

「エ、エエ!」


 俺達は改めて幽子の渦を見据えると、その渦が徐々に薄れていく。


 そして……アメジストの瞳を漆黒に変えた土御門さんが、その姿を現わした。


『……モウヨイ……『土御門家』ノ再興ガ潰エタ今、全テ無ニ帰シテシマエ……我ガ『土御門家』ト共ニ……』


 虚ろな表情でブツブツと呟く土御門さん。

 そのかたわらには、当然ながら九つの柱の一柱もいた。


 顔に立派な黒いひげをたくわえた、いかつい顔。

 身長は[シン]と同じくらいだが、その体躯は筋骨隆々で、腕も丸太のように太い。

 そして、その手には象徴的な手斧をたずさえていた。


 あれこそが、 “スヴァルトアルフヘイムの守護者”である“アンドヴァリ”だ。


『ホホホホホ! ソノ由緒アル名前スラ残スコトモデキヌ華族ナゾ……ソンナワラワナゾ、何ノ価値ガアロウカ! [導摩法師]!』


 そんな自暴自棄な言葉を吐きながら、土御門さんは次々と【式神】を出現させる。


 その数、百体以上。


「クソッ! このまま土御門さんの【式神】を校舎の外に出すとマズイ! 絶対にここで食い止めるぞ!」

「う、うむ!」

「分かりましたワ!」


 俺の言葉に、先輩とサンドラ、立花が頷く。


「クク……ならば、この我の力も使うがいい」

「っ! オマエ!?」


 なんと、まさかの中条シドまでもが、俺達に加勢すると言い出したぞ!?


「だ、だけど……いいのか?」

「クク、構わん。それに……さすがにあの姿は、不憫だ……」


 そう言って、中条シドは闇堕ちした土御門さんを見つめた。


「そうか……悪い」

「何を言う。元々、土御門は我の仲間・・・・だぞ。なら、我にはこれを収める義務がある。ただ、それだけだ」


 全く……ギャップがすごすぎて、調子狂うなあ……。


「分かった! じゃあ中条・・は、【式神】を全て破壊してくれ! 俺は土御門さんを……「何を言ってるノ。彼女は、ヤーの相手ヨ」」


 俺の言葉を遮ってそう告げると、プラーミャが俺を一瞥した。


ヤーは、彼女と戦ってるノ。ヨーヘイは邪魔しないデ」

「っ! だ、だけど状況が……「同じヨ。それニ……彼女を見ていると、イラつくのよネ」」


 プラーミャはなおも俺の言葉を遮り、今度は土御門さんを睨んだ。


「プ、プラーミャ……?」

「ねえヨーヘイ。華族・・って、要は貴族・・ってことよネ?」

「あ、ああ……そうだけど……」


 プラーミャの質問の意味が分からず、俺は呆けた表情で頷く。


「フフ……だったら、なおさらこのヤー が教えてあげないト」

「へ……? い、一体何を……?」

「決まっているワ。貴族の矜持・・・・・ってヤツをヨ」


 そう言うと、プラーミャの精霊ガイスト、[スヴァローグ]が巨大なハルバードを廊下に叩きつけた。


「ヨーヘイ! コッチはヤーに任せテ、アナタはサッサとあの幽鬼レブナントを倒すのヨ!」

「っ! あ、ああ!」


 プラーミャに発破をかけられ、俺はアンドヴァリと対峙する。

 さあ、まずはコイツを……って!?


「せ、先輩!?」

「ふふ……みんな、よくやってくれた。そして、プラーミャも見事な気迫だ。このような後輩達の姿を見せられては、生徒会長であり上級生でもある私として全力で応えるべきだろう」


 俺とアンドヴァリの間に立つ先輩が、俺に背中を見せながらそう告げる。


「[関聖帝君]」

『……(コクリ)』


 先輩に召喚された[関聖帝君]が先輩の隣に並び立つと、青龍偃月えんげつ刀の切っ先をアンドヴァリへと向けた。


「聞け! “柱”よ! 貴様はこの桐崎サクヤと[関聖帝君]が一刀の下に斬り伏せ、その全てを私達のかてとしてくれる!」

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