第116話 絡めた指
「いやー、疲れたなあ……」
“アトランティス”
だけど、“アルカトラズ”
『はうはうはう! お風呂上りのアイスは美味しいのです!』
などと
「さて……次はどうするかなあ……」
スマホの画面を眺めながら、俺は思案する。
とりあえず、最重要事案だった“アルカトラズ”
少なくとも、これで
「あー……立花と加隈は、まだ【水属性反射】は取得してないんだったなー……」
じゃあ、プラーミャを引率係にして、鍛錬がてら三人には“アルカトラズ”
で、俺、先輩、サンドラは、早めに“カタコンベ”
といっても、“カタコンベ”
うん、みんなの育成計画は大体こんなところかな。
「で、次は俺だけど……」
左手でスマホを操作し、『まとめサイト』にある育成方法のページを眺める。
“SSS”になった[シン]にこれ以上の効果があるのかは分からないけど、疾走丸による『敏捷』ステータスアップは毎日こなしてるし、[シン]に用意されてる限定イベントは、二年になってからだしなあ。
……やっぱり、地道にレベル上げするしかないかあ。
『はう……マスターがしょんぼりしてるのです……』
見ると、[シン]がアイスを食べる手を止め、悲しそうな表情で俺を見つめていた。
おっと……変に心配させてしまったな……。
「はは。いや、別に落ち込んだりしてるわけじゃないよ。ただ……明日から半年間、苦行が続くだけで……」
俺は[シン]の頭を撫でながらサッと目を逸らした。
『はうはう!? 嫌な予感しかしないのです!? マスター、一体何があるのですか!?』
「あ、あははー……」
思いっ切り俺の身体を揺さぶる[シン]に、俺は薄ら笑いを浮かべ続けていた。
◇
「望月くん、おはよ!」
「おう、おはよう」
朝の通学路、いつものように待ち構えていた立花が、嬉しそうに挨拶をしながら駆け寄ってきた。うん、こんな立花の態度にも、そろそろ慣れてきたな。
「えへへー……ねえねえ、今日は……「オーッス!」」
すると後ろから、俺と立花の間に割り込むように加隈が入って来やがった。
「わ!? ちょっと加隈くん!?」
「ハハ、よう!」
何か言おうとした立花を無視するかのように、立花に笑顔を振りまく加隈。いや、どうしたんだよ。
「イヤイヤ、俺と立花って、“レムリア”
いや、プラーミャもいるし。何なら俺達も一緒に攻略してるし。
「もー! 加隈くんやめてよ!」
「う……ス、スマン……」
あまりにも馴れ馴れしく絡んでくるため、とうとう立花に怒られた加隈は一転、シュン、となってしまった。本当に、残念な奴だ。
とはいえ、本音を言えば加隈がここまで立花に懐くとは思ってもみなかった。
確かに、加隈は元々主人公の友人キャラで、主人公が転校してきた時に真っ先に絡んで一人目の仲間になる設定だから、そうなってもおかしくはない。
だけど今の加隈は、主人公の友人キャラじゃなくて、俺の本来のキャラ……クソザコモブを引き継いでるはずなんだよなあ。
「ホラホラ! 望月くん、置いてっちゃうよー!」
などと考えごとをしている間に、立花は俺よりも先に行って笑顔で手を振っていた。
ウーム、立花のヒロイン力が右肩上がりなのは一体どういうことだ?
「な、なあ、望月……」
加隈が先を行く立花を見据えながら、真剣な表情で声を掛けてきた。
「なんだよ?」
「立花ってさ……その、なんかいいよな……」
「っ!?」
頬を赤らめ、静かにそう告げる加隈を見て、俺は思わず息を飲んだ。
コイツ、何言ってんの!?
「な、なあ加隈よ……分かってるとは思うが、立花は
「そそそ、そんなの俺だって分かってるよ! も、もちろん
俺は若干引きながら、あえてそう問い質すと、加隈は動揺しながら否定した。
いや、じゃあなんでそんなにチラチラと立花を見てんだよ……。
「あ! 先輩!」
「ふふ、おはよう望月くん」
俺は立花に熱い視線を送っている加隈を無視し、いつもの十字路で待ってくれている先輩の元へと駆け寄ると、先輩はワインレッドの髪を耳にかき上げながら微笑んでくれた。
その右手の薬指に、“エリネドの指輪”をはめながら。
「望月くん、ところで……あの二人はその……どうしたんだ……?」
そう言って先輩はおずおずと指を差す、その先では。
「もー! コッチ来ないでよー!」
「いや立花違う! ただ俺は、お前と一緒に学園に行きたいだけで……!」
加隈に追いかけられ、立花が困った顔をしながら逃げていた。
アイツ……そのうち捕まるんじゃないか?
「あ、あははー……な、何でしょうねー……」
「う、うむ……仲が良いのはいいのだが……」
アレは仲が良い……のか?
ま、まあいいや……それよりも。
「先輩」
「ん、どうしたんだ?」
俺は先輩の真紅の瞳をジッと見つめると、先輩は少し頬を赤らめた。
「はは……いえ、何でもないです……」
「ふふ、おかしな望月くんだな……」
その時。
――チョン。
「「っ!?」」
偶然にもお互いの指が触れ、俺も先輩も、思わず息を飲む。
だけど……俺は、もっとつながっていたくて。
「あ……」
俺は、先輩の左手の指に、自分の指を絡めた。
すると先輩も、同じように絡め、そして……潤んだ瞳で俺を見つめていた。
「こ、このまま……行きましょう、か……」
「…………………………うん」
先輩は消え入りそうな声で、答えてくれた。
俺は……この指も、先輩の笑顔も、絶対に手放しません。
だから先輩……絶対に、最高のエンディングを迎えましょうね。
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