第211話 先輩の逆鱗
「[フィヨルギュン]!!!」
伊藤アスカが自身の
だけど。
「うええ……」
そんな
いや、伊藤アスカの
「わ、私は、絶対にあんな女性にはならないぞ……!」
すると先輩が、俺の隣で何か決意めいた表情を浮かべていた。
というか、俺が先輩をあんな女みたいにさせるわけがないじゃないですか。
「ほ、本当に失礼なガキ共ね! 特にアンタ! ちょっと学園長の娘で可愛いからって、調子に乗ってんじゃねーよ!」
完全に教師の言葉とは思えないような汚い口調で、伊藤アスカは急に矛先を俺から先輩に切り替えて指差しながら罵る。
その姿に、俺は怒るどころか憐れに思えてきた。
「まあ、先輩が可愛いのは当然だろ? というか、今の自分と先輩を比べるなよ」
「っ! コロス! 絶対にコロス! 確実にコロス!」
すると、伊藤アスカの
「そんなの当たるかよ! [シン]!」
『はう!』
「あう!? ……っと、そんなもの、避けるまでもない! [関聖帝君]!」
[シン]はアッサリと茨を
「……コッチは二人、しかもそのうち一人は学園最強の桐崎先輩だぞ? アンタ一人で俺達に勝てると思ってるのか?」
俺は理性的に、そして威圧を込めてそう告げる。
だけど。
「ハッ! それがどうしたのよ! 私の[フィヨルギュン]だって、既にクラスチェンジ済みだし、そのレベルだって七十六なのよ! オマエ達みたいな生徒ごときが、それこそ教師である私に勝てるはずがないのよ!」
「っ!?」
伊藤アスカのその言葉に、俺は思わず息を飲んだ。
元々伊藤アスカは元々二年生になってから主人公の仲間になるヒロインだから、その時点でクラスチェンジ済みってのは『まとめサイト』通りだけど、なんでレベルがそんなに高いんだよ!?
そもそも、『まとめサイト』じゃレベル六十が精々だっただろ!?
「アハハハハ! 私の[フィヨルギュン]にビビったワケ? ホラホラ、土下座して命乞いするなら今のウチよ?」
急に自分が優位に立ったと勘違いした伊藤アスカは、顔を突き出して醜い
「別に? なんで俺達がアンタに謝らないといけねーんだよ? というか、俺からすればその程度のレベルで、なんでそんなに強気に出られるのか不思議でしょうがないんだけど?」
「
ハア……駄目だ、会話が全然かみ合わない……。
「先輩、どうします……?」
「む……さすがにこれは、な……」
俺は先輩に相談してみるものの、先輩も伊藤アスカを見やって眉根を寄せ、言葉を失くしてしまった。
「大体、オマエは
舌を出して下品な表情を見せる伊藤アスカに、俺は呆れてものも言えない。
その時。
「ふふ……望月くん、君も知っている通り、私はこのクラス代表選考会ではクラス全員が棄権したことによって、一度も戦っていないのだ」
「へ……?」
口の端を持ち上げ、急に先輩がそんなことを言い出した。
え、ええと……?
「だが、そこにいる教師の伊藤アスカは、
「ええ!?」
つ、つまりそれって、先輩が伊藤アスカと一対一で戦うってこと!?
「い、いや先輩!? ここは確実に俺と先輩で一緒に戦いましょうよ!?」
「む……なんだ? 君はこの私が、あのような
俺は慌てて
「……へえ、上等じゃない。
「ふ……
そう言うと、先輩は一歩前に出て忌々し気に凝視する伊藤アスカと対峙する。
「あ……」
そんな先輩を見て気づく。
先輩が、その白い肌の色が変わってしまうほど強く拳を握りしめていることに。
ひょっとして、先輩……。
そんな先輩の様子に、その背中に、俺はこれ以上何も言えなくなってしまった。
だって、先輩はあの伊藤アスカの言葉に怒っているんだから。
アイツが、俺のことを馬鹿にしたから。
そして。
「さあ……始めようか」
先輩はそう告げると、[関聖帝君]が青龍偃月刀の切っ先を[フィヨルギュン]へと向けた。
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