第245話 いつだって、主人公が

「ふふ……みんな、よく頑張ったな」


 団体戦の真っ最中であるはずの、桐崎先輩が俺達の前に現れた。


「せ、先輩、どうしてここに? というか、団体戦はどうなったですか!?」

「ん? ああ……うむ、抜けてきた!」


 腕を組み、先輩が凛とした表情でそう告げる……って!?


「イヤイヤ!? そんな、抜けちゃって大丈夫なんですか!?」

「もちろんだ。それに、今は氷室くんが戦っているからな」

「氷室先輩が!?」


 チョ、チョット待って!? 近衛スミの話だと、あのクソ女が加隈との試合を延々と引き延ばしてるんじゃないのか!?


「……おかしいですね。うちの木崎さんとそちらの一年男子との試合だったのでは?」

「ん? 加隈くんとあの女・・・の試合だったら、貴様があの場から離れた後、すぐに終わったぞ? あの女の棄権・・でな」

「何ですって!?」


 先輩の言葉に、近衛スミも驚きの声を上げる。

 ど、どういうことだよ!? もう訳が分からなくなってきてるぞ!?


「驚いたところで、それが事実だ。そして、今は氷室くんがメイザース学園の副生徒会長の、ええと……」

「……鷲尾さん、ですか?」

「そうそう、その男と戦っているぞ。ただし、氷室くんの[ポリアフ]によって、ずっと膠着状態・・・・になっているがな」


 そうか……あのクソ女に関してはよく分からないが、とりあえずは氷室先輩が向こうの副生徒会長と……って。


「ひょっとして氷室先輩、その副生徒会長に手こずっているんですか?」

「いや? むしろ氷室くんが強すぎて、向こうの男が一方的にいたぶられていた・・・・・・・・な」

「うわあ……」


 いや、確かに氷室先輩の精霊ガイストは、俺達の中でも最高レベルの七十九。負けるなんてことはあり得ないとは思っていたけど……それにしても、相手をいたぶるって……。


「まあ……彼女もかなり怒っていたからな。あの女と、加隈くんの試合に」

「ああー……」


 なるほど……つまりは意趣返し、ってことですか……


「それで氷室くんからも目配せをされて、私は席を外してこちらへとやって来たというわけだ。彼女の分も・・・・・託されて・・・・、な」

「そうだったんですか……」


 かたや平気で仲間を切り捨てようとする生徒会長がいるってのに、先輩も氷室先輩も、後輩に甘いというか、何というか……。


「ははっ」


 そんな二人の想いに、俺は思わずクスリ、と笑った。


「そういうことで、立花くん。君は存分にこの女を倒すがいい。なあに、この女が下手な真似をするなら、その時は青龍偃月えんげつ刀で一刀の下に斬り伏せてくれる」


 そう告げると、先輩は近衛スミを、殺気を込めた真紅の瞳でギロリ、と睨みつけた。

 はは、先輩の強さはさすがに理解してるのか、あの近衛スミもひるんでやがる。


「……つまり私は、目の前の彼を倒したところで倒される運命にある、ということですか」

「どうした? 大人しくする、とでも言うのか?」


 近衛スミの呟きに、先輩が問いかけると。


「ふふ、まさか……それよりも、私と取引をしませんか?」

「取引?」

「ええ……私が彼に勝った場合は、このまま私を見逃してもらえませんか?」

「はあ!?」


 コイツ、言うに事欠いて、何抜かしてんだよ!?


「もちろん、私が負けた場合は大人しくあなた達に従いますし、私の知っていることは全てお話ししますよ? それに、仮に私が勝ったとしても、そこにいる役立たずの・・・・・ガラクタ・・・・没落華族・・・・は好きにして構いませんので」

「っ! この……「よし、いいだろう」……って、先輩!?」


 近衛スミに食って掛かろうとした矢先に、先輩が向こうの提案を受け入れてしまい、俺は思わず先輩を見る。


「ふふ……心配するな、望月くん。そもそも君は、彼がこの女に負けるとでも思っているのか?」

「い、いや、それに関しては立花の勝ちを疑ってませんけど……それでも! アイツの仲間を仲間とも思ってない態度が……!」


 ニコリ、と微笑む先輩に、それでも納得いかない俺は、つい先輩に詰め寄ってしまった。


「それに関しても心配はいらない。そうだろう?」


 そう言って、先輩は立花を見やると。


「あはは、もちろんだよ。だから望月くん……このボクに任せてよ! ボクが必ず、コイツに分からせて・・・・・やるから・・・・!」


 そう叫ぶと、立花は獰猛どうもうな笑みを浮かべた。

 はは、そうだよな……こういう悪党ってヤツを倒すのは、いつだって主人公・・・の役目だったな。


 だったら。


「ああ……立花、お前に全部任せた! だから……そのクズをぶちのめせ!」


 俺は立花に向けて、精一杯の激励を込めて、その右手を高々と突き上げると。


「うん!」


 立花は、ただ力強く頷いた。

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