第207話 クラス代表選考会 一年生代表決定!

「う……うう……」

「っ! 立花!」


 先生の勝ち名乗りの直後、俺はダメージを受けて倒れ込む立花へと、[シン]を抱えながら慌てて駆け寄る。


「あう……い、今の、って……?」

「あれは……三つある[シン]の【神行法】の最後の一つ、【神行法・転】。対象となる相手と自分の位置を一瞬で入れ替わるスキルだ」

「あ、あはは……そっか……」

「おい! 立花!」


 俺は立花を抱きかかえ、声を掛ける。


「あは……大丈夫、だよ……何と言っても、【竜の恩恵】はまだ発動中だったからね……それに……【饕餮とうてつ】」


 いつの間にかそばに控えていた羊の魔物、【饕餮とうてつ】が、立花の身体にすり寄った。

 すると、【饕餮とうてつ】の身体を覆う羊毛が抜け落ち、それに合わせて立花の怪我が癒されていく。


「これが……【饕餮とうてつ】の能力、か……」

「ふう……うん。【饕餮とうてつ】の羊毛は治癒効果があるだけじゃなくて、その柔らかさで相手の攻撃を弾く効果もあるんだ。当然、その鋭い牙で攻撃だってできるよ」


饕餮とうてつ】による治療が終わり、すっかり元気になった立花が立ち上がった。


「あはは……また、負けちゃったね……」

「ああ……本当の意味で、紙一重でな。しかも、【神行法・転】もお前にバレちまったし、次は通用しないだろうからなあ……」


 そう言うと、俺は苦笑しながら肩をすくめる。

 だけど実際そうだし、【神行法】も三つで打ち止めだからなあ……。


 立花に確実に勝てるようになるには、やっぱり二年生の春の[神行太保しんこうたいほう]限定イベントをこなすまでは無理かあ……。


 といっても、立花は立花で、主人公限定の最終決戦用のスキル・・・・・・・・・を二年で取得するだろうし、いたちごっこ感が半端ない。


 などと思いを巡らせていると。


「望月くん!」

「ヨーヘイ!」

「望月さん!」


 先輩、サンドラ、氷室先輩が、観客席から笑顔で俺の名前を叫んでいた。


「あはは! ホラホラ、みんなの声援に応えないと!」

「わっと!?」


 立花にバシン、と背中を叩かれ、俺は思わずよろめいてしまう。

 でも……そうだな、ずっと俺を応援してくれた三人には、本当に感謝しかない。


 サンドラと戦えなかったのは残念だけど、この交流戦イベはまた来年にも開催される。

 その時こそ、サンドラと……!


 俺は、三人に応えるように両の拳を高々と突き上げると。


「みんなあああああ! やったぞおおおおお!」

『はうはうはう! やったのです! やったのです!』


 最高の相棒、[シン]と一緒に、この喜びと感謝を込めて、大声で叫んだ


 ◇


「それでは、ただ今から表彰式を行います」


 各クラスを勝ち抜いて代表の座を手に入れた三人が、舞台の上で学園長の前に並ぶ。


「くうう……ヨーヘイが代表に選ばれたのは素直に嬉しいけどよー……立花とは一緒になれなかったんだよなー……」

「ハア……お前、まだそんなこと言ってるのかよ……」


 拳を握りしめながらある意味悔しそうにする加隈に対し、俺は溜息しか出ない。


 すると。


「ふふ……二人共面白い奴だな」


 加隈の隣にいる一―一の代表、“賀茂カズマ”が、俺達を見てクスクスと笑う。


「いや、俺を加隈と一緒にするなよ! 三枚目キャラはコイツ! コイツだからな!」

「ヒデエ!?お 前、裏切るのかよ!?」

「うるせー!」


 などと加隈とわちゃわちゃしていると、賀茂はますます笑い出した。


「ハハハハハ! 本当に面白いな! 二週間後の交流戦が今から楽しみになってきた!」

「「そ、そう……?」」


 俺と加隈はお互い手を止め、腹を抱えて笑う賀茂を見てキョトン、としてしまう。


「ま、まあだけど、賀茂の精霊ガイスト、ええと……」

「ハハハ……ん? オレの[瀬織津姫せおりつひめ]のことか?」

「そうそれ! あの薙刀なぎなたの攻防一体のスタイル、なかなかすごかったよ」

「ハハハ! そうだろう! オレもかなり修練を重ねてきたからな!」


 そう言うと、嬉しそうに笑う賀茂。

 立花が中性的なイケメンであるのに対し、この賀茂は眼鏡をかけていることもあって、理性的なイケメンって感じだな。

 というか、この容姿と精霊ガイストだと、『ガイスト×レブナント』の主要キャラでもおかしくないと思うんだけど。


「コホン」

「「「あ……」」」


 見ると、咳払いをしながら学園長が苦笑している。


「ハハハ……優勝者同士で仲が良いのはいいが、まずは表彰式を済ませてからにしてくれるかな?」

「「「は、はい……」」」


 こうして、俺達三人は学園長からお祝いの言葉と小さなトロフィーを受け取り、無事に表彰式を終えた。

 ……まあ、トロフィーを渡された時に『トロフィーはいくらでもくれてやるが、サクヤはやらん』と、真顔で言われた時には本気で困ったけど。


 これは……いずれ学園長と決着をつけないといけない時がきそうだな。


 などと余計なことを考えながら、俺は舞台から降りた。


 微笑みながら惜しみない拍手を送ってくれる、先輩を見つめながら。

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