第206話 クラス代表選考会 決勝戦⑥

「さあ……行くよ!」

「っ!」


 そして、[女媧]の元から【窮奇きゅうき】が放たれた。


 その速さは、当然ながら[シン]ほどではないものの、かなりのスピードで飛翔しながら[シン]に迫る。

 だけど、その様子を見る限り、広範囲攻撃じゃなさそうだな……。


「[シン]!」

『ハイなのです! 【神行法・跳】!』


 [シン]はその場でかがむと、一気に上空へと飛び上がる。

 プラーミャ戦での教訓を活かし、あらかじめ審判である先生達にルールを確認しておいたから、いくら高く飛んだところで失格にはならない。


『はうはうはうはうはうー!』


 勢いが落ちると、その都度[シン]は空中を蹴って加速し、追尾する【窮奇きゅうき】を遥か下方へと置き去りにした。


 その時、【窮奇きゅうき】がその巨大な口を開き、牙を剥き出しにする。


「オイオイ……ひょっとして、【竜の息吹】みたいなヤツをぶっ放すつもりなのか……?」

「ウーン、ちょっと違うかな。だって……【窮奇きゅうき】の存在こそが、[女媧]の攻撃そのものなんだから」

「っ!?」


 立花の説明を聞いて息を飲んだ瞬間、【窮奇きゅうき】は[シン]を見据えてきりもみ・・・・しながら襲い掛かった。


「[シン]! かわせ!」


 俺はそう叫ぶが、[シン]は何故かモジモジするばかりで、一向に今いるところから動こうとしない。


「何してるんだよ!」

『はうはう!? マ、マスター……身動きができないのです!?』

「はあ!? なんだって!?」

「あはは……」


 クスクスと嗤う声が聞こえ、そちらへ振り向くと、立花は口の端を吊り上げていた。


「無理だよ、望月くん。【窮奇きゅうき】があの状態・・・・に入ったら、脱出は不可能だもん」

「……どういうことだ?」

「あはは、見てごらんよ」


 そう言って立花は[シン]を指差した。


「ホラ……[シン]の髪や服が、【窮奇きゅうき】が巻き起こす風で乱れているのが分かるかなあ?」

「っ!?」


 確かに立花の言う通り、[シン]の髪や道袍どうほうが乱れているのは分かるけど、それが[シン]が身動きできないことと何の関係が……って!?


「まさか!?」

「そう……【窮奇きゅうき】は、風を自在に操ることができるんだ。もちろん、風属性魔法の類とは違って純粋なスキルだから、スキルで無効化や反射をしたりすることはできないよ」

「……チッ、そうかよ……!」


 俺は思わず舌打ちするが、そうこうしている間にも、【窮奇きゅうき】は[シン]へと迫りくる。


『はううううううう……!』


 とうとう[シン]の元へとたどり着いた【窮奇きゅうき】が、その牙と前足の爪を[シン]へと襲……わせねえよっ!


「[シン]! 今だあああああ!」

『はう! 【神行法・瞬】!』


 すると[シン]は【窮奇きゅうき】の眼前からき消え、一瞬のうちに【窮奇きゅうき】の背後を取った。

 広範囲攻撃や追尾型の攻撃であることはあらかじめ想定していたから、いざという時は【神行法・瞬】でかわすよう[シン]とあらかじめ打ち合わせ済みだ。


 それに……【窮奇きゅうき】から逃れた今、[女媧]は無防備なはず……っ!?


「あはは! そうやってかわすことも想定済みだよ! ボクも一度味わってるからね!」


 いつの間にか[女媧]は、その口を大きく開けて【竜の息吹】の体勢に入っていた。


「食らえええええ! 【竜の息吹】ッッッ!」


 [女媧]の口から、渾身の一撃が[シン]に向かって放たれる。


 真下からは[女媧]の【竜の息吹】、頭上には【窮奇きゅうき】……まさに、八方塞がりってヤツだな。


 だけど。


「この時を待ってたッッッ!」

「ええ!?」

「[シイイイイイイイイイン]!」


 俺は口の端を持ち上げ、[シン]の名を叫んだ。


『はうはうはうはう! 【神行法・転】!』

「『ッ!?』」


 その瞬間、立花と[女媧]は[シン]の姿を見失い、そして。


『ッッッ!?』


 【窮奇きゅうき】の目の前に[女媧]が突然現れた。


「なっ!? ま、間に合……!?」


 [女媧]の【竜の息吹】と【窮奇きゅうき】の牙と爪が、超至近距離で交錯する。


「『アアアアアアアアアアアアアッッ!?』」


 [女媧]は自身の最大の攻撃である【窮奇きゅうき】の牙と爪をその全身に受け、【窮奇きゅうき】もまた、【竜の息吹】を食らって消滅した。


『はう! マスター!』

「[シン]!」


 一気に駆け寄ってきた[シン]を、俺は両手を広げて待ち構えると、[シン]は勢いよくジャンプして、最高の笑顔を浮かべながら俺の胸に飛び込んできた。


「はは! やったぞ!」

『はう! やっぱりマスターはすごいのです! カッコいいのです!』


 [シン]の頭をガシガシと乱暴に撫でると、[シン]は口元を緩めながら嬉しそうに目を細める。


 そして。


「それまで! 勝者、“望月ヨーヘイ”!」


 葛西先生が、俺達の勝ちを宣言した。

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