第205話 クラス代表選考会 決勝戦⑤

「もちろん分かってるよ。でも……勝つのはボクだ! 【饕餮とうてつ】!」


 立花がそう叫ぶと同時に、新たな魔獣が召喚された。

 その姿は、人の顔をした羊の魔獣で、曲がった角と肉食獣のような牙があった。


「……これも、さっきの【檮杌とうごつ】ってヤツと同じようなモンか……?」

「ウーン、ちょっと違うかな。といっても、確かに攻撃力も高いけどね」

「へえ……とりあえず【四凶】って言うくらいだから、もう一匹いる・・・・・・ってことだろ?」


 俺は情報を聞き出すため、あえてカマをかける。

 そして残りの一匹が、サンドラを倒した時と同じ、アイツの最大火力の攻撃だったら、その時は・・・・……!


「あはは、じゃあボクも、あえて・・・望月くんの思惑に乗せられてあげるね。キミの言う通り、【四凶】の魔獣はあと一体いるよ。だけど……できれば使いたくはない、かなあ……」

「? それはどういう意味だ?」

「うん……だって、それを使っちゃったら、望月くんは絶対に大怪我しちゃうもん……」


 そう言うと、立花は少し悲しそうな表情を見せた。

 それだけ、その残りの一匹がヤバイ・・・ってことか……。


「はは、なんだよ。それは、あの【朱雀】とかいうヤツや【竜の息吹】よりも、ってことか?」

「! それはそうだよ! サンドラさんは最高の防御力があったから、【朱雀】を受けてもあれくらいで済んだけど、[シン]が【窮奇きゅうき】の一撃を受けちゃったら……!」


 立花がここまで躊躇ちゅうちょするほどの威力、なのか……だけど、その口ぶりだと、【朱雀】と同等程度って考えておいて間違いないみたいだな。


「……だから、あらかじめ回復スキルを持つ【饕餮とうてつ】を召喚しておいたんだ」

「オイオイ!? それじゃ結局のところ、その【窮奇きゅうき】ってヤツを使う気満々じゃねーか!?」


 立花の説明に、俺は思わずツッコむ。とはいえ、俺達にとってはそのほうが好都合だ。


 だって……立花に勝つには、今の俺達・・・・じゃこの方法しか思いつかないから。


「あはは……ゴメンね。でも、ボクの全部を、望月くんに見て欲しいんだ! 受け止めて欲しいんだ! ボクは……キミのおかげで、ここまで強くなれたんだって!」


 立花はその翡翠ひすいの瞳で俺を見つめながら、思いのたけをぶつけてくる。

 なら……俺も受け止めるしかないよな!


「分かった……俺も、お前の想いに全力で応えてやる! だから……かかってこい!」

「あはは! それでこそ望月くん! ボクの……一番大切な人・・・・・・だよ!」


 いや、最後の台詞セリフ!? 誤解されるような言い方するなよ!?


「行くよ……【窮奇きゅうき】!」


 とうとう立花は、【四凶】の最後の一体、【窮奇きゅうき】を召喚すると、その姿はまさに銀色の翼の生えた巨大な虎だった。


「望月くん……今のうちに謝っておくね。できればこの【窮奇きゅうき】を放つ前に降参して欲しいけど、キミは絶対にそんな人じゃないから……」


 はは……なんだよ……そんな、今にも泣きそうな表情でそんなこと言われたら、さすがの俺もビビッちまうだろ……。


「……[シン]」

『ハイ……なのです……』


 【窮奇きゅうき】を眺め、額から一滴の汗を零す[シン]を手招きし、俺はそっと耳打ちする。


『っ! ……分かったのです。とうとうここで、使うのですね・・・・・・

「すまん、[シン]……もう、これ・・しかない」

『はう……[シン]は、マスターを信じてるのです』


 [シン]はそのオニキスの瞳に決意を込め、キッ、と【窮奇きゅうき】を見据えた。

 さあ……あとは、タイミング・・・・・覚悟・・だけだ。


「あはは……立花くん、もう相談は終わったかな?」

「ああ……だけど、そんな律儀に俺を待っててもよかったのか? お前だって、[シン]のスピードは知っているだろう? それに、そのスキルも」

「もちろん理解してる。でも」


 立花はすう、と息を吸うと、翡翠の瞳で俺を見つめた。


「でも……それでも、キミ達は【窮奇きゅうき】から逃れることはできない」

「そっか……」


 さて……今の立花の口振りからすると、あの【窮奇きゅうき】の攻撃方法について少し予想できた。


 あれほど自信ありげに言ったってことは、逃げ場がないような広範囲な攻撃か、もしくは追尾型の攻撃かのどちらかだ。


 攻撃スピードが[シン]に匹敵するのかとも考えたが、[シン]はプラーミャの精霊ガイスト、[スヴァローグ]の【絨毯じゅうたん爆撃】さえもかわしてしまうスピードなんだ。当然、立花もそのことを知っているからな。


「さあ……行くよ!」

「っ!」


 そして、[女媧]の元から【窮奇きゅうき】が放たれた。

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