第311話 不幸な目に遭わせないために

「では、今日のところはこれで解散としようか」


 施設を出た俺達は、カナエさんの運転で駅前まで戻ってきた。

 みんなは俺をおもんばかってか、誰一人として会話をしたりしなかった。


「クク……だが結局のところ、我は別に必要なかったのではないか?」

「それを言うなら、ヤーも同じネ」


 そう言うと、中条とプラーミャがチラリ、と俺を見る。


「そうだな……あの施設に行って、みんなと伊藤アスカと面会したこと自体には、あまり意味がないかもしれないな」


 でも、施設に行ったことについては意味があるけどな。


「とにかく、サ……先輩が言ったように、今日はもう解散だ。みんな、付き合ってくれてありがとう」

「ふむ……まあ、それはいいとして、貴様は何故、サ……藤堂殿のことを、わざわざ先輩・・などと言い直すのだ?」


 うぐう!? 中条め、今それを言うか!?


「そうネ。今さらだと思うけド?」

「プラーミャまで!?」

「だってヨーヘイ、気が動転してたのか知らないけど、先輩のことをずっと“サクヤさん”って言ってたわヨ?」

「何っ!?」


 うああああ!? 俺、なにしてんだよ!?


「全ク……ファーストネームで呼ぶくらいで大袈裟ネ。それだったらヤーやサンドラだって同じでしょうニ」

「そ、それはそうだけど……」


 呆れた表情でプラーミャは言うけど、それでサンドラはメッチャキレたんだからな?


「ふふ……ま、まあ、私も言いづらいから、その……これからはいつも“ヨーヘイくん”と呼ぶようにするよ……」

「はは……そ、そうですね……」


 俺とサクヤさんはお互い顔を見合わせ、苦笑した。


「それじゃ、ヤーは先に帰るわネ」

「クク……我も、まだ引っ越ししたばかりで部屋が片づいておらんのでな。これで失礼するぞ」


 そう言って、プラーミャと中条は帰って行った。


「それでヨーヘイ、今日も“ぱらいそ”領域エリアに行くんですわよネ?」

「ん? ああ、そのつもりだけど」

「フフ、でしたら早く行きまショ」


 サンドラは微笑みながら俺の手を引っ張る。


「むむ! そ、そうだな! 早く行こうじゃないか!」


 すると、何故か妙に対抗意識を燃やしたサクヤさんも、俺の手を引っ張った。


「あ、あはは……じゃ、行くか」


 そんな二人を見て苦笑しつつ、俺達は学園へと向かった。


 ◇


「これで終わりだあああああああああッッッ!」


 ――斬ッッッ!


 サクヤさんが“ぱらいそ”領域エリアの第二階層にいる七十二の幽鬼レブナントの一体、“オセ”を一刀両断にすると、その姿を幽子とマテリアルに変えた。


「フウ……ですけド、今回の幽鬼レブナントも厄介でしたわネ……」

「うむ……まさか、突然二体に分かれる・・・・・・・とはな……」


 地面に転がる大量のマテリアルを眺めながら、二人が呟く

 だけど、今サクヤさんが言ったそのスキルこそ、小森先輩の精霊ガイストである[フィアラル]の持つ特殊スキル、【ダブル】だ。


 これから小森先輩と戦うかもしれないことを考えると、あらかじめスキルに対応できるようになったので良かったと思っている。


「よし! それじゃ、戻ろうぜ!」

「うむ!」

「エエ!」

『ハイなのです!』


 三人に声をかけ、俺達は“ぱらいそ”領域エリアを後にする。


「あ、そうだ……二人共、この後って時間あるかな?」

「ん? 私は大丈夫だが……」

「ワタクシもですワ」


 そう尋ねると、二人は少し期待に満ちた瞳で答えた。

 はは、まあ期待通りでもあるんだけど。


「それじゃ、ルフランでスイーツを食べてから帰りましょうか」

「! うむ!」

「そうしましょウ!」

『わあい! なのです!』


 嬉しそうにはしゃぐ三人を見て、俺も思わず顔をほころばせる。


「うん、それじゃ行こう」


 ということで、俺達は一路ルフランへと向かう。


 その途中。


「ん? 望月じゃないか」


 路地から現れたのは、賀茂だった。

 それも、自身の精霊ガイスト、“瀬織津姫せおりつひめ”と一緒に。


「賀茂……」

「藤堂先輩とサンドラさんも一緒ということは、これからルフランに行くのか?」

「そうだけど……というか賀茂は、精霊ガイストなんて召喚してどこに行くんだ?」

「ああ……ちょっと・・・・、な」


 ふうん、ちょっと・・・・、ねえ。


「ま、俺達は行くから」

「ああ、またな・・・


 賀茂は手をヒラヒラさせると、俺達とは反対の方向へと去って行った。


「……ヨーヘイくん、血が……」

「え……?」


 すると先輩はハンカチを取り出し、俺の口をぬぐってくれた。

 どうやら俺は、賀茂に対する怒りで唇を強く噛んだせいで切れてしまっていたみたいだ。


「ヨーヘイ……ワタクシは、先輩みたいにまだ事情をあまり把握してませんノ。だから、詳しく教えてくださいまシ」


 サンドラがサクヤさんと入れ替わるように正面に立ち、アクアマリンの瞳で俺の顔を見つめる。


「ああ……そのことを話したくて、俺は二人をルフランに誘ったんだ。二人にも、一緒に戦ってもらうために」

『はうはう! [シン]だってマスターと一緒に戦うのです! 悪い奴は、やっつけてやるのです!』


 すると、仲間外れにされたとでも思ったのか、[シン]が会話に割り込んで手を挙げながらピョンピョンと飛び跳ねた。


「バッカ、当然だろ? だって[シン]は、俺の大切な相棒なんだから」

『えへへー、なのです』


 俺はその綺麗な黒髪をくしゃ、と撫でると、[シン]は嬉しそうに目を細める。


「さあ、行こう」


 この後、ルフランに行った俺達は、賀茂カズマに対する今後の対応について、時間の許す限り話し合った。


 俺の大切な人達を、絶対に不幸な目に遭わせないために。

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