第310話 伊藤アスカ
「な、なによ……っ!? い、今さら私に何の用!?」
面会室に入ると、俺達を見た途端、怯える伊藤アスカがいた。
というか施設に入ってる以上、俺達がどうこうできることなんてないことくらい、分かりそうなモンだけどな……。
「ふむ……この反応を見るに、どうやら“
サクヤさんはそう言うと、ジロリ、と伊藤アスカを
だけど、サクヤさんの言う通りなら、逆に話が早いかも。
「ええと……あえて
「きき、聞きたいこと!? わ、私には話すことなんてないから! 帰って!」
見るからに怯えた様子で、俺達から遠ざかろうとする伊藤アスカ。
「ハア……別に俺達は先生に何かしようなんて考えてませんよ。むしろ俺達は、
「ど……どういう意味……?」
俺の言葉を受け、伊藤アスカは少しだけ興味を持ち始めたみたいで、その身体が少し前に出てきた。
「先生……単刀直入に言います。ひょっとして、“賀茂カズマ”の奴に何か弱みでも握られていたりしませんか?」
「っ!?」
そう告げた途端、伊藤アスカの表情が引きつる。
だけどこの反応を見る限り、間違いなさそうだな……。
「先生……俺達は今、賀茂と一緒にいる生徒達について調べてるんです。先生と同じように、賀茂に弱みを握られて、嫌な目に遭わされてるんじゃないかって……ですから先生、俺達に協力してもらえませんか?」
真正面から攻めてみたんだけど……どうだ?
「…………………………」
……無言、か。
ひょっとしたら、警戒をしているのかもしれないな。
「先生もご存知かもしれませんが、この施設は名だたる
俺は少しでも安心させるため、そう告げた。
「…………………………」
しばらく、沈黙が続く。
すると。
「……あなた達には、
「え……?」
突然、伊藤アスカがポツリ、と呟く。
だけど今、コイツは
……ひょっとして!?
「まさか、先生が大切にしてる
俺は思わず立ち上がり、伊藤アスカに問い
ハッキリとは言わなかったけど、伊藤アスカが大切にしてるものっていったら、
ヒロイン攻略のためのキーアイテム……伊藤アスカなら、『古ぼけた本』がまさにソレだ。
「つまり先生は、賀茂カズマにその
「…………………………(コクリ)」
顔をくしゃくしゃにした伊藤アスカは、俺の質問に対しゆっくりと頷く。
それを見た瞬間、俺の腹の底から、とてつもないほどの怒りがこみ上げてきた。
――ガアンッッッ!
「アノヤロオオオオオオオ! 絶対に……絶対に許さねえッッッ!」
「ヨ、ヨーヘイくん!?」
「「ヨーヘイ!?」」
あまりの怒りに目の前のテーブルを殴りつけた俺に驚き、先輩とサンドラ、プラーミャが思わず俺の名前を叫んだ。
「ふむ……貴様がこんなに怒りをあらわにするとは……それほどのものなのか?」
「当たり前だろッッッ!」
ヒロインや仲間キャラにとってのキーアイテムっていうのは、ソイツ等のこれまでの生き様そのものって言っても間違いじゃない。
そんな大切なものを一方的に奪って、それを脅しに使って従わせやがるなんて……マジでクソじゃねーか!
「……サクヤさん、調査に当たっている“
「う、うむ……すぐにでも伝えよう」
そう言うと、サクヤさんは面会室を飛び出した。
多分、学園長に電話しに行ったんだろう。
「
するとサンドラが、何か考え込むような仕草をした。
「サンドラ、どうしたノ?」
「……ワタクシにも、
プラーミャの問いかけに、サンドラがおずおずと答える。
そう……サンドラが今告げたものこそ、彼女のキーアイテムだ。
「サンドラ……もし、その『思い出の写真』が奪われて、
「ッ! 決まってますワ! 何としても取り返しますわヨ!」
「だけど下手な真似をしたら、アッサリ処分されちまうんだぞ? それで、どうやって取り返すんだ?」
「ソ、ソレハ……し、従うフリをして、隙を
どうやらサンドラも気づいたみたいだ。
なんでヒロイン達が、あの賀茂に従っているのかを。
「そうだよ! あのクズは、彼女達から大切なモンを奪って、いいように操ってやがるんだよ! そんなの……そんなの、許してたまるか!」
「エエ……エエ……! ヨーヘイの言う通りですワ! そんな、人の心を踏みにじるようなことト、絶対に許してはいけませんノ!」
俺とサンドラは、ここが面会室だということも忘れて憤慨する。
「ヨーヘイくん、学園長に伝えた。すぐにでも聞き取りをするとのことだ」
電話を終えて戻ってきたサクヤさんが、険しい表情でそう告げた。
すると。
「……ねえ」
伊藤アスカが、
「……なんですか?」
「……あなた達、“賀茂カズマ”をやっつけるんでしょ……? だ、だったら、その……」
「約束はできませんけど……アイツが持っている先生の
「っ! あ、りがとう……ありがとう……っ!」
おずおずと尋ねる伊藤アスカにそう告げると、彼女は何度も礼を言いながらぽろぽろと涙を
「……みんな、行こう」
「クク……もう聞かなくてもいいのか?」
「ああ、充分だ」
中条にそう告げると、俺はみんなよりも真っ先に面会室を出た。
そして。
――ガンッッッ!
俺は、廊下の壁を拳で思い切り叩いた。
賀茂カズマへの怒りで。
そして、たった今伊藤アスカと交わした、
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