第320話 わらわの認めた男

「さあて……」


 加隈からメッセージが届いた後、俺達はサクヤさん、中条と合流し、授業をサボって“バベル”領域エリアの扉の前に来ている。


 もちろん、賀茂カズマとケリをつけるために。


「クク……こちらが六人・・であるのに対し、向こうは土御門達を含めて十六人。倍以上の戦力差だな」

「ああ……」


 くつくつと笑う中条に、俺は静かに頷く。

 確かに、数の上ではこちらが圧倒的に不利だ。しかも、賀茂の奴も『攻略サイト』か、それに近いナニカ・・・を持っている。

 当然、自分自身とヒロイン達の強化はしてあるはずだ。


 だけど。


「……コッチには、サクヤさんと中条が……サンドラが、プラーミャが、そして、アオイがいる」


 そう。俺達には、『ガイスト×レブナント』における最強の精霊ガイスト使いと、その次に強い奴、さらには主人公・・・だっているんだ。

 それだけじゃない。サンドラだって、ゲームに名前しか登場しないプラーミャだって、本来のゲームの仕様とは違う強さがあるんだ。


 そして……『ガイスト×レブナント』最弱だった俺には、最速・・最高・・の相棒がいる。


 だから。


「賀茂……オマエが“バベル”領域エリアで手ぐすね引いて待ち構えていようが、俺達は絶対に負けない……いや、俺がこの最高の人達と一緒に、返り討ちにしやるよッッッ!」

「「「「「おー!」」」」」


 俺達は気勢を上げると、いよいよ“バベル”領域エリアの扉をくぐる。


「……誰もいませんわネ」

「そうだな……だけど、階層を進んで行けば絶対にいるはずだから、警戒は怠らないようにしよう」


 俺達はいつも以上に慎重に、そして、最短距離で各階層を進んでいく。

 途中、わらわらとヘリオガバルスが現れるのは鬱陶うっとうしかったけど、今じゃ賀茂よりもこの幽鬼レブナントのほうが可愛く見えるってんだから、いよいよ憎さ極まれりって感じだ。


「ふむ……次で第十階層、か……」


 上へと続く階段に足を掛けたところで、サクヤさんがポツリ、と呟く。


「そうですね……キリがいいですし、ひょっとしたら第十階層で待ち構えているかもしれません」

「そうだな……それに、さすがに賀茂カズマや他の連中も、それほど上の階層まで進んでいるとも思えん」

「ええ」


 サクヤさんの言葉に、俺は頷いた。


「だけど……どうしてアイツは、この領域エリアに逃げ込んだんだろう?」


 アオイが誰ともなく尋ねるけど、俺からすればアイツがここを選んだことに、少しだけ頷ける。


 まず、この“バベル”領域エリアは、二周目特典の五つの領域エリアの一つであること。これは、少なくとも『攻略サイト』でその存在を知っている俺を除けば、普通なら誰も知らない領域エリアだってことだ。


 オマケに、ここの幽鬼レブナントもゲーム本編の領域エリアと比べれば難易度が高く、おいそれと賀茂を追いかけることもできない。


 じゃあ残る四つの領域エリアのどれかでもいいじゃないかって話もあるけど、“アルカトラズ”、“アトランティス”、“葦原中国あしのはらなかつくに”の三つに関しては、既に俺達が踏破済みだから、仮にその三つのどれかに逃げ込んだとしたら、領域エリアを知り尽くしている俺達に分がある。


 残る一つの領域エリア、“金剛界”領域エリアって可能性もあったけど、『ガイスト×レブナント』最長の領域エリアであるここ・・を選んだほうが、時間が稼げるからな。


 で、俺達をここで倒した上で、全部の責任を俺になすりつける……ってところまでが賀茂のシナリオなんだろうけど。


「……まあ、俺達がやることは、賀茂の野郎をぶちのめして、サッサと退場してもらう・・・・・・・だけだ」


 この、『ガイスト×レブナント』っていうゲームのシナリオから、な。


「あはは、そうだね。じゃあもちろん、その役目はヨーヘイくんがしてくれるんだよね?」


 アオイは、俺の顔をのぞき込みながらそう尋ねる。


 だから。


「ああ! 俺と[シン]で、必ずな!」

『はう! なのです!』


 俺と[シン]は、みんなに向けてガッツポーズをしてみせた。


「ふふ……露払いは、この私達に任せてくれ」

「エエ! どんな相手でも、このワタクシが全て防いでみせますワ!」


 そうして最高の雰囲気のまま、俺達は第十階層の階段を昇り切ると。


「ホホ……こんなところまで、わざわざご苦労じゃのう?」


 現れたのは、土御門さんとヒロイン達……全部で九人かな。


「……土御門さん、君が最初に相手してくれるのか?」

「ホ、異なことを。そんなことは、見れば分かるえ? [導摩法師]」


 土御門さんは[導摩法師]を召喚すると、紙片をばらまいて何体もの【式神】を出した。

 相変わらず、厄介なスキルだな……。


「ホホホホホ! こうなっては、圧倒的に戦力に差があるのう! ……さて、望月……どうする・・・・のじゃ?」


 勝ち誇るように高笑いをしたかと思うと、急に真剣な表情になった土御門さんが、アメジストの瞳でジッと見つめる。


 どうするって? そんなの、決まってる!


「もちろん、俺達は賀茂のところへと向かう。そして、俺達がアイツをブッ倒す! たとえ、君が邪魔をしてもだ!」

「ホホ! それでこそ、望月ヨーヘイ! わらわが認めた男じゃ!」


 嬉しそうにそう叫ぶと、土御門さんは突然クルリ、とひるがえり、残る八人のヒロイン達を見据えた。

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