第53話 思い出した
――ピピピ。
朝になり、スマホのアラームがけたたましくなる。
俺はまどろみながら、手探りでスマホを探すと……お、これだな。
スマホを手に取ってアラームの停止ボタンをタップし、ムクリ、と起き上が……れねえ。
「[シン]……」
『すぴー……』
チクショウ、気持ちよさそうに寝やがって。お前が俺の上に思いっ切り乗っかってるから、俺が起き上がれないんだよ。
仕方なく[シン]を起こさないようにしながら、その身体をゆっくりとベッドの上へと下ろし、俺はベッドから出た。
「くあ……」
大きく
うあー……今日も暑そうだなあ……。
俺は制服に着替え、[シン]を置き去りにしたままリビングへと向かう。
「おはよう」
「あら、おはよう」
母さんと朝の挨拶を交わしてテーブルの席に着くと、既に用意されている朝食に箸をつける。うん、美味い。
「早いもので、今日で一学期も終わりねえ」
「そうだなー」
味噌汁をすすりながら、母さんの呟きに返事した。
入学した当初は、ヒロインや仲間キャラ達に散々馬鹿にされて、嫌がらせを受けたりしたモンだけど、あの『まとめサイト』のおかげで、今じゃこんなに強くなれたし、それに……桐崎先輩と出逢って、助けてもらって、支えてもらって……。
そう考えると、クソザコモブな俺のこれまでの短い人生は結果的に勝ち組だったなあ。
「ごちそうさま」
朝食を終え、俺は手を合わせてから食器をシンクに置くと、洗面台へ向かって歯磨きをする。
その時。
『はうはうはう~! ね、寝坊したのです~!』
ドタドタと走りながら、泣きそうな声で[シン]が部屋から飛び出してきた。
『あ! マスターおはようなのです!』
「おう、おはよう」
ビシッと敬礼ポーズをする[シン]に、俺は朝の挨拶をした。
「というか、顔を洗ったら学園に行くぞー」
『ハイなのです!』
ということで。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
俺と[シン]は家を出ると、先輩が待つ十字路へと急ぐ。
「先輩! おはようございます!」
「あ……う、うむ、おはよう」
先輩はいつものように俺の姿を見つけると、ぱあ、と嬉しそうに微笑んだ後、照れ隠しとばかりに眉根を寄せる。この一連の流れを含め、今朝も先輩は尊い。
「それにしても、今日は終業式だな」
「ですねー。といっても、明日以降も先輩とは毎日逢うので、それについて特に思うことはないですけどねー」
「あう!? ま、全く君はいつもそうやって……(ゴニョゴニョ)」
あはは、先輩照れてる。まあ、分かっていてそう言ったんだけど。
「それにしても、“アルカトラズ”
「む? その“アルカトラズ”
あ、ヤベ。あの
「あ、あはは……ホ、ホラ! あそこって何だか刑務所みたいじゃないですか! ちょうどテレビで、そのアルカトラズをテーマにした映画が放映されていたので!」
「そ、そうか……確かに、刑務所のイメージは強いな」
「で、でしょ?」
ふう、危ない……慎重に話さないと、だな……。
その後も先輩と談笑しながら登校していると、あっという間に学園に着いてしまった。
ウーム……できれば遠回りしたい気分だ。
「ふふ……それでは終業式が終わったらまた」
「はい!」
俺は先輩の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。
先輩も、何度も振り返っては俺に手を振り返してくれた。
で、教室に入ると。
「ヨーヘイ! おはようなのですワ!」
「おう、サンドラおはよう」
パタパタと俺の元へとやって来たサンドラとハイタッチする。
例の件で吹っ切れたこともあるのか、サンドラは俺に願い事をした日からずっとテンションが高いのだ。
「それで、今日もあの
「ああ。最低でも二学期が始まる前までには踏破したいからなあ」
「フフ……そうそう、ワタクシの[イヴァン]も、とうとうレベル四十になったんですのヨ!」
「おお! すごいじゃん!」
「なのですワ!」
よしよし、これで[イヴァン]もクラスチェンジに必要なレベルに到達したな。
あとはもう一つの条件であるイベントクリアだけど、それも八月に入ったらサンドラの双子の妹の“プラーミャ”がやって来て、順調に進む……はず。多分。
――キーンコーン。
「お、朝のチャイムだ」
「じゃあネ、ヨーヘイ!」
「おう」
◇
終業式を終え、夏休みについての連絡事項を先生から受けると、いよいよ夏休みに突入する。
“アルカトラズ”
「ヨーヘイ! 行きますわよ!」
「望月くん、迎えに来たぞ!」
おっと、二人が呼んでいる。
サッサと帰る支度をしないと…………………………アレ?
「む、どうした?」
俺の席まで来た先輩が、不思議そうな顔で尋ねる。
「ああいえ……何か忘れてるような気がするんですよねー……」
「フフ、ヨーヘイのことだから、未来の夏休みの宿題忘れでもしているんじゃありませんノ?」
「ウルセー……って、いやそうじゃなくてさあ、何というかこう……」
その時。
「ネーネー、このクラスに“望月ヨーヘイ”って子、いる?」
俺のクラスに誰かが俺を尋ねてきた……って。
「あー……先輩、俺、忘れてたこと思い出しましたー……」
「……奇遇だな、私もたった今思い出したところだ」
「?」
何も知らないサンドラはキョトンとしているが、俺と先輩の顔はこれ以上ないほど、すん、としているに違いない。
「チョット! 忘れたフリして逃げようたって、そうはいかないからね!」
だって……教室に現れたのは、二年の“夏目ハルカ”なのだから。
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