第142話 意外な遭遇

「あはは……先輩、俺……もう大丈夫です」

「ふふ、そうか」


 すると先輩は、少し名残惜しそうに俺から離れた。

 でも、そんな先輩の表情は、吸い込まれそうなほどに綺麗で……。


「ん? どうした?」

「あ、ああいえ……その、俺……先輩と出逢えて、本当に幸せです」

「あう!? う、うむ、そそ、そうか……」


 今度は、俺の言葉で先輩がその綺麗な顔を真っ赤に染めてしまった。

 はは、こんなところも、先輩の魅力の一つだよな。


「よっし!」


 俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩いた。


「先輩、ありがとうございます」

「うむ、いい表情だ」


 先輩が、俺の顔を見て力強く頷いた。


「じゃあ、今から各部活との調整に行ってきます!」

「ああ! 望月くん、頑張れ!」

「はい!」


 先輩の最高の激励を受け、俺は胸を弾ませながら生徒会の仕事に勤しんだ。


 ◇


「ふいー……今戻りましたー……」


 各部活との調整を終え、生徒会室に戻って来ると、みんなが忙しそうに仕事をしていた。

 うむ、よきよき。


「ア! ヨーヘイ!」

「おお、サンドラ」


 俺を見るなりサンドラが駆け寄ってきた……けど、なんだか様子が……。


「どうした?」

「ソ、ソノ……ヨーヘイこそ大丈夫ですノ……?」

「へ? 俺?」


 サンドラの心配そうな表情に、俺は思わずキョトン、としてしまった。


「ダッテ……生徒会室を出て行く時、その……様子ガ……」

「あー……」


 何だよ……先輩だけじゃなくて、サンドラにもバッチリ気づかれてんじゃん……。

 本当に、先輩も、サンドラも……!


「ワッ!」

「はは! もう大丈夫! 心配かけて悪かったな!」

「ア……フフ……」


 俺はサンドラの頭を少し乱暴に撫でると、俺の表情を確認してから、嬉しそうに目を細めた。

 全く……俺って奴は、何勝手に嫉妬して落ち込んでたんだよ。


 俺のこと、こんなに見てくれる女性ひとが、二人もいてるってのに……。


 そうだな……俺はもう、クソザコモブな俺じゃない。

『ガイスト×レブナント』っていうゲームの主人公になれないけど、それでも俺は……“望月ヨーヘイ”は、確かにここにいるんだ。


「あ! 望月くん!」

「おう!」


 立花が嬉しそうにパタパタとこちらへやって来たので、俺も手を挙げた。


「えへへー、氷室先輩が上手に指示してくれるおかげで、コッチも順調だよ!」

「お! そりゃよかった! 氷室先輩、すごいだろ!」

「うん! まさに『仕事がデキル女性』って感じだよね!」

「うむうむ……って、ハッ!?」


 俺は殺気を感じ、恐る恐る振り返ると……。


「むううううううううううううううう!」


 はい、桐崎先輩が頬をプクーと膨らませて、拗ねておりました……。


 ◇


 土曜日になり、俺は家を出て学園へと向かう。

 今日は、“ぱらいそ”領域エリアで先輩とサンドラの三人でレベル上げをする予定なのだ。


『はう! 今日は狩って狩って狩りまくるのです!』

「はは、そうだな!」


 うん、[シン]も張り切ってる様子。

 さてさて、早く行かないと二人が待って……って!?


「うお!?」

「わっ!?」


 十字路の角から、少年が勢いよく飛び出してきて、俺とぶつかるなり倒れてしまった。

 というか俺、立花の時といい、よく誰かとぶつかるなあ……。


「すまん、大丈夫か?」

「イテテー……」


 痛そうにお尻を押さえている少年に、手を差し伸ばす。


「兄ちゃん、気をつけろよな!」

「お、おお、悪い……」


 何故か少年にすごまれてしまった……。

 で、少年は俺の手を取ると、そのまま立ち上がる……んだけど。


「イタッ!」

「どうした?」

「足が……」


 ひょっとして、ぶつかった時に足でもくじいたか?


「ちょっと見せてみろ」

「う、うん……イタッ!」


 少し足首を動かしてみると、少年は顔をしかめて痛そうにした。

 ああ……やっぱり。完全に足くじいてるじゃん。


「なあ、少年の家はこの近くなのか?」

「え? 俺の家? う、うん……」

「そうか」


 そう言うと、俺は少年の前でしゃがんだ。


「ホレ。家まで運ぶから背中に乗れ」

「え? い、いいよ!」

「バーカ、下手に歩いたりしたら、余計に酷くなるかもしれないだろ。それに、ぶつかったのは俺なんだし、ここは大人しく乗っとけ」


 少年は躊躇ちゅうちょするも、俺に促されておずおずと背中に乗った。


「よし。じゃあ少年の家の場所、教えてくれるか?」

「うん! アッチだよ!」


 俺は少年を背負いながら、指示通りに進む。

 すると、ものの五分で少年の家に着いた。


「ここが俺の家だよ」

「そうかー、じゃあ……」


 俺はインターホンを押そうと手を伸ばそうとすると。


「あれ? タカシと……望月さん、ですか?」

「へ? 氷室先輩?」


 買い物袋を持った氷室先輩と、少年の家の前でバッタリと出会ってしまった……って。


「な、なあ少年。ひょっとして……」

「あ! 姉ちゃん!」


 はい、ここは氷室先輩の家で、この少年は氷室先輩の弟さんでした。

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