第230話 団体戦、開始

「……では、両学園の代表のみなさんの健闘を称え、開会の挨拶とします」


 グラウンドの中央に設置された、今日の団体戦の舞台の中央で、うちの学園長とメイザース学園の学園長、“麻岡あさおかマキ”が開会の挨拶をした。


 でも、うちの学園長……先輩のお父さんはイケオジだけど、メイザース学園の学園長は、ある意味詐欺だと思う。

 だって、『まとめサイト』のプロフィールでは、あの学園長、三十六歳ってなってるのに、どう考えても大学生のお姉さんくらいにしか見えない。


 まあ、ゲームのビジュアルを考慮した仕様ってことなのかもしれないけど、俺にとっての現実リアルであるこの世界では、違和感しかないんだけど。


「むむ! 望月くん、何を見とれているのだ!」

「せ、先輩!? そ、そんなことないですから!」


 先輩にジト目で睨まれ、俺は猛抗議する。

 全く、人聞きが悪いですよ……。


『では、ただ今から交流戦二日目、両学園の代表による団体戦を行います。なお、団体戦は一対一の試合を合計九試合行い、最も勝利数の多い学園の勝ちとなります。また……』


 今日の団体戦のルールについて、審判を務める教頭先生から説明された。

 なお、俺達代表は、既に舞台袖の待機場所で腰かけており、それ以外の生徒達は、舞台を囲むように用意された観客席で、団体戦の開始を今か今かと待ちわびている。


「それにしても……賀茂、無理言って悪かったな」

「ああ、それは別に構わないが……」


 俺は隣に座る賀茂に一言謝ると、賀茂はほんの少し怪訝な表情を浮かべた。

 まあ、本来なら一―一から順番に出場することになっていたんだが、さっき賀茂に頼み込んで順番を替わってもらったのだ。


「はは……ホラ、やっぱり俺の[シン]はスピードが売りだろ? だったら、切り込み隊長的なポジは、俺達にうってつけだと思ってな」

「ウーン……そういうものか?」

「そういうモンだよ」


 首をかしげる賀茂を押し切るかのように俺はそう言うと。


「よっし!」


 気合いを入れるために両頬をパシン、と叩き、俺は席を立ちあがった。


「ヨーヘイ! ガツン、とかましてやれ!」

「望月さん、期待してます」

「アハハ! モッチー、オーエンしてるし!」

「フン……無様に負けたりしたら駄目よ?」


 同じ代表のみんなが、次々と激励の言葉をかけてくれる。

 はは……これがあのクソザコモブ・・・・・・の今の姿だなんて、入学したての頃の俺が見たら、なんて言うかなあ……。


 そして。


「…………………………(コクリ)」


 先輩は、その真紅の瞳で俺をジッと見つめながら、力強く頷いた。それこそ、俺の勝利を微塵も疑っていないと言わんばかりに。


 先輩……見ていてください。


 俺がゆっくりと舞台に上がると、アレイスター学園側の観客席から、一斉に声援が上がった。

 その中には、サンドラや立花、プラーミャの姿も。


「さあて……[シン]、始めるとするか」

『ハイなのです! [シン]の力、ここにいるみんなに見せつけてやるのです!』

「はは! だな!」


 そして、俺はメイザース学園側へと視線を向ける。


「ホホ、これはこれは、願ってもない対戦相手じゃのう?」


 扇で口元を隠しながら、優雅に舞台に上がってきたのは、“土御門シキ”。

 悠木やクソ女がいなければ、間違いなくメイザース学園最強の一角の精霊ガイスト使いだろう。


「しかし、あれほど対戦を熱望しておったのに、木崎もついておらぬのう?」


 そう言って嬉しそうに土御門さんはカラカラと笑うと、クソ女が顔をしかめた。


「はは……俺としては、アイツとは格付けが済んでると思ってるんで、今さら対戦したいとは思ってないんだけど?」

「ホホホ! これは辛辣しんらつじゃ! ……さて、ではお主は、このわらわをどれだけ楽しませてくれるのかえ?」

「さあ? 楽しむ間もないうちに、試合終了してたりして?」


 俺はあおるように、肩を竦めておどけてみせる。


「ホ、これは楽しみなことじゃ。じゃが、わらわの[導摩法師どうまほうし]をあなどるでないぞ?」

「はは、当然。だけど、それはコッチも同じだけど?」

「ホホホ、言いよるのう!」

「コホン」


 楽し気に会話を続ける俺と土御門さんを見かね、教頭先生が咳払いをする。

 おっと、それじゃ俺も、まずは・・・この試合に集中するとしようか。


「では、団体戦第一試合、アレイスター学園一年、“望月ヨーヘイ”とメイザース学園一年、“土御門シキ”の試合を始めます」


 教頭先生がゆっくりと右手を上げ、俺と土御門さんに……会場全体に、緊張が走る。


 そして。


「では、始め!」

「[シン]!」

『ハイなのです!』

「ホホ、[導摩法師]」


 土御門さんが自身の精霊ガイストを召喚すると、その姿は白と紫を基調とした男性用の公家装束を着た、黒髪の絶世の美女が姿を現わした。

 あれこそが、最強の【闇属性魔法】の使い手であり、特殊スキル【式神】を持つ、[導摩法師]だ。


 いや、『まとめサイト』でそのビジュアルを見てはいるけど、それでも、綺麗な精霊ガイストだなあ……。


『……はう。この[シン]がありながら、その目はなんなのです!』

「へ? あ、も、もちろん[シン]は可愛いぞ?」


 ジト目で指摘され、俺は取り繕うように言葉を返した。


「では……行くとするかえ」


 土御門さんがそう言うと、[導摩法師]がス、と右手を差し出す。


「【アサルトクロウ】」


 これが、俺と土御門さんの戦いの合図となった。

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