第294話 日常パートのアイテム

「アイツ……!」

「む、望月くんどうした?」


 俺の雰囲気が変わったことに気づいた先輩が、心配そうに尋ねるけど……俺は、それどころじゃなかった。


 だって。


 賀茂の奴は、『学力』パラメータアップのためのアイテムの一つ、『超実践学術理論』を持っていたんだから。


「ア! ヨ、ヨーヘイ!」

「望月くん!」


 サンドラと先輩の制止も聞かず、俺は教室を飛び出した。


「賀茂!」

「ん? 望月、どうした?」


 仲間である“大谷カスミ”と“佐々木キョウカ”の二人と談笑しながら歩いている賀茂を呼び止めると、賀茂は不思議そうな表情を浮かべながらこちらへと振り向いた。


「お前……その左手に持ってる本……それ、どうしたんだ?」

「ああ、コレ・・? この前、本屋で偶然・・・・・見つけたんだよ」


 そう言うと、賀茂は本を軽く持ち上げる。


 すると。


「か、賀茂くん、早く教室に戻ろ?」

「そ、そうだよ!」


 大谷カスミと佐々木キョウカは、何故か賀茂の奴の腕を引っ張って、俺との会話を打ち切るように促す。

 まるで、俺から逃げようとしているかのように。


「はは、悪い。そういうことらしいから、俺はもう行くぞ」

「あ、ああ……」


 そう言って賀茂はきびすを返し、教室へと戻ろうとした瞬間。


「あ、そうそう。オレ、今回の期末テスト、学年一位・・・・だったぜ」


 急にクルリ、とこちらを向いてそう告げると、嬉しそうに口の端を持ち上げた。


「んじゃ」


 そして、手をヒラヒラさせながら、賀茂は今度こそ教室に戻って行った。

 だけど、賀茂もそうだけど、それ以上に俺にはあのヒロイン二人が気になった。


 去り際に見せた、まるで俺に何かを訴えるかのような目。


「望月くん……」

「ヨーヘイ……どうしたんですノ……?」


 いつの間にか、先輩とサンドラが心配そうに俺を見つめていた。


「ああいや、何でもない……」


 そう告げると、俺はゆっくりとかぶりを振った。


 ◇


「はああああああああああああッッッ!」


 放課後、“ぱらいそ”領域エリアの第二階層に来た俺達は、七十二の幽鬼レブナントの一体、“ムルムル”と交戦していた。


「二人共、来るぞ!」

「分かった!」

「了解ですワ!」


 俺の言葉に反応した[ペルーン]が【ガーディアン】を展開し、その陰に隠れて先輩とサンドラ、二体の精霊ガイストが、すぐさま耳を塞ぐ。

 もちろん、俺と[シン]も。


『アアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!』


 その瞬間、ムルムルが絶叫すると、地面が、壁が、一斉に震えた。

 これこそ、特殊スキルの一つである【スクリーム】。音の衝撃波によってダメージを与えるだけじゃなく、聴覚破壊と恐慌状態のデバフを付与する。


「クッソ! 騒音は立派な迷惑行為だろ! ちょっとはマナーを守れよ!」

『はうはうはう! うるさいのです! うるさいのです!』


 などと大声で抗議するけど、この絶叫のせいで聞こえてないだろうなー……って、音が止んだぞ!


「みんな! 今だ!」

「一気に叩き斬る!」

「食らうのですワ! 【裁きの鉄槌】!」

『はうはうはうはう! 【神行法・瞬】からのー、【爆】! 【雷】!』


 [関聖帝君]、[ペルーン]、そして[シン]による一斉攻撃を受け、ムルムルは身を守る甲冑はおろか、またがっているハゲワシの魔獣もろともメチャクチャに攻撃を受ける。

 だけど、さすがは“ぱらいそ”領域エリア第二階層の幽鬼レブナント。並の領域エリアボスやあの“柱”であっても、ここまでダメージを受けたら倒せるのに、まだ耐え続けていた。


 だけど。


「トドメだッッッ!」


 ――斬ッッッ!


 [関聖帝君]の青龍偃月刀がうなりを上げ、とうとうムルムルを一刀両断に斬り伏せた。


「ハッ……ハアッ……やったか……!」


 肩で息をする先輩の目の前で、ムルムルが幽子とマテリアルに姿を変える。


「フウ……やっぱり、第一階層の敵とは比べものにならないくらい強いですわネ……」


 サンドラが大量のマテリアルを眺めながら、そう呟いた。


「ああ……単純に強いだけじゃなく、昨日の幽鬼レブナントにも言えることだけど、とにかくコイツ等の持つスキルがかなり厄介だ。もし、同じスキルを持った精霊ガイスト使いがいたら、それこそ面倒だな……」

「ふむ……冗談にしては笑えないな」


 俺の言葉に先輩が神妙な面持ちになる。

 だけど、印象付ける意味でも、ここで二人にはしっかりと言っておかないと。


「さて……とりあえず今日も無事に一体倒したが、第一階層のようにまた出現したりするんだろうか?」

「サア……どうなんですノ?」


 先輩とサンドラが、コッチを見るけど……イヤ、これ答えづらいな。


「は、はは……さすがにこんな特殊なスキルを持つ幽鬼レブナントが雑魚扱いってことはさすがにないと思うんですけど……」


 俺は苦笑しながら頭をいた。


「まあそうだろうな。第一階層の幽鬼レブナントは確かに強いが、それでも使用するスキルは各属性魔法だけで、あとは平凡な物理攻撃しかないからな」

「そうですわネ」


 ホッ……どうやら俺の説明に納得してくれたみたいだ。


「うん? だがそうすると、この第二階層の特殊スキル持ちの幽鬼レブナントは何体いるんだ?」

「さ、さすがに十体もいればいいところじゃないかしラ……」

「そ、そうだなー……」


 うぐう……第二階層には、あと七十体いるだなんて到底言えない……。


 眉根を寄せる二人を見やりながら、俺はただ乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

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