第201話 クラス代表選考会 決勝戦①

「それまで! 勝者、“立花アオイ”!」


 審判の葛西先生が勝ち名乗りを挙げた瞬間、俺はたまらず舞台へと駆け出した。


「サンドラ! しっかりしろ!」

「ウウ……ヨ、ヨーヘイ……ッ!?」


 倒れるサンドラを抱え上げて声を掛けると、サンドラはうっすらと目を開けて俺の姿を見た瞬間、そのアクアマリンの瞳を見開いた。


「望月くん、サンドラは!?」

「サンドラさんは無事ですか!?」


 俺に遅れて桐崎先輩と氷室先輩が駆けつける。


「っ! 氷室先輩! サンドラの手当てを!」

「はい! 【リリノエ】!」


 ナースのコスプレをした[ポリアフ]が召喚され、サンドラの負傷した箇所に手を触れた瞬間、あっという間にサンドラのあの白く珠のような肌が戻った。


「サンドラ……」

「フフ……負けて、しまいましたワ……」


 そう言うと、サンドラが寂しそうに微笑む。


「だけど……やっぱりサンドラはすごかったよ。俺は、お前の戦う姿から、一瞬たりとも目が離せなかった。惹き込まれた」

「そっカ……」


 サンドラは立ち上がり、軽く伸びを……って!?


「サ、サンドラ!」


 立花の攻撃を受けて制服の破れてしまった箇所から、サンドラの白い肌が覗いていたので、俺は慌てて自分の制服を脱ぐと。


「ア……」


 そっと、サンドラの身体に制服をかけてやった。


「サンドラさん」


 立花がサンドラの前に来ると、ス、と右手を差し出す。


「うん……すごく強かったよ。しかも、あの【ガーディアン】には本当に驚いた」

「フフ、ワタクシも立花クンの強さには驚きですワ。決勝、頑張ってくださいましネ」


 サンドラがニコリ、と微笑み、立花の手を取り、握手を交わした。


「さーテ……ワタクシも疲れましたので、チョット休んできますワ」

「お、おう……」


 サンドラの奴はそう言って、手をヒラヒラさせながら舞台を降りて校舎のほうへ歩いて行くと、プラーミャがその後を追いかけた


「……望月さん、サンドラさんを追いかけなくていいんですか?」


 氷室先輩が、おずおずと俺に尋ねる。

 だけど。


「はは……今は、それは止めときます」


 俺は氷室先輩にそう返事して苦笑する。

 だって……今のサンドラは、絶対俺にその顔を見られたくないと思うから。

 だから。


「俺の知ってるサンドラなら大丈夫ですよ……それに、戻ってきたら全力であの金髪を撫でまわしてやります」

「ふふ……そうだな」


 俺達は、サンドラの背中が見えなくなるまで、舞台の上からずっと見守っていた。


 ◇


「それでは、ただ今からクラス代表選考会一年生の部、決勝戦第一試合を行う!」


 舞台の中央に立つ学年主任の先生が、高らかに宣言する。

 さあ……あと一つ勝てば、俺はクラス代表に選ばれ、そして……二週間後に行われるメイザース学園との団体戦に挑むことになる。


「ふふ、この後の決勝の勝者が、交流戦を一緒に戦う仲間となるのか」

「あー、そうですね」

「む……望月くん、なんだその気の抜けた返事は……」


 俺の返事がお気に召さなかったのか、先輩は口を尖らせながらたしなめた。


「はは……その前に、俺は立花を倒さないといけませんから」

「むむ、それはその通りだが……」


 俺の答えに納得できない先輩が、プイ、と顔を逸らしてしまった。

 まあ、先輩がどんな答えを聞きたがっているのか、本当は分かっている。

 だから。


「……俺だって先輩と一緒に交流戦を戦いたいですから、立花との決勝戦、もちろん全力で勝ちに行きます」

「あう……な、ならいい……」


 ホラ、先輩は顔を真っ赤にしながら口元を緩めている。

 といっても、今の言葉だって俺の本心だし、先輩のいるところにはどこだって一緒にいたい。


 でも……だからこそ、今度の交流戦イベは気を抜けない。

 だって、これは先輩のこれから先・・・・・に影響する大事なイベントなんだから。


「ハア……本当は、サンドラやプラーミャ、立花と一緒に団体戦を戦えたらいいんだけどなあ……」


 今まさに一―一のクラス代表を決める決勝戦が目の前で始まろうとしているのに、俺はうわの空でそんなことを呟いた。


 そして。


「では、始め!」


 開始の合図と共に、決勝戦に残った両者が互いに精霊ガイストを召喚した。


 一方は、朱色の甲冑に朱槍という、まるで戦国武将のような出で立ちをした精霊ガイストで、いかにも強そうな印象を与える。


 もう一方は……長い黒髪を垂髪すいはつにして目の縁にべにを引いた美女が巫女装束を身にまとい、金で装飾された薙刀なぎなたを持っており、どこか妖艶な雰囲気のある精霊ガイストだった。


「うおおおお!俺の精霊ガイスト、[鬼小島おにこじま]の一撃を食らええええッッッ!」


 そう叫ぶと、戦国武将スタイルの精霊ガイストが巫女姿の精霊ガイストに槍の切っ先を向けて突進する。


 すると。


「【真利込まりこみ】」


 そんな透き通るような声と共に、巫女姿の精霊ガイストが流れるような動きで槍を弾き、そのまま槍の柄へ薙刀を滑らせて相手の精霊ガイストの胴に叩き込んだ。


『グオオオオッッ!?』


 戦国武将の精霊ガイストはうめき声を上げながら後ろによろめくけど、その甲冑のおかげでダメージはさほどでもないみたい……っ!?


「【一文字】」


 そんな相手の隙を見逃さなかった巫女姿の精霊ガイストが、八相の構えから戦国武将の精霊ガイストの懐に飛び込み、まさに脳天から真下に切り落とした。


「あのというかスキル・・・というか……[関聖帝君]の【一刀両断】に似てる……」

「うむ、確かにな。だが、向こうは今のような連続攻撃を主眼に置いているためか、一撃の威力はそれほど高くない」


 先輩が、その顎に手を添えながら冷静に分析する。


「ですけど、これで決まりみたいですね」

「ああ……団体戦の代表、二人目・・・が決定したな」

「はい」


 そして。


「勝負あり! 勝者、“賀茂カズマ”!」


 審判の勝ち名乗りを受け、代表となった“賀茂カズマ”は声援に応えるように手を挙げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る