第200話 クラス代表選考会 決勝トーナメント⑥

「後悔、しないでね?」


 そう言うと、立花はその中性的で端正な顔に似つかわしくないほどの、獰猛どうもうな笑みを浮かべた。


「ッ!?」


 立花のまとう空気が変わったことに気づいたんだろう。

 サンドラはほんの少し前までの笑みは鳴りを潜め、今はただ、立花の一挙手一投足を見逃すまいと、神経を張り巡らしていた。


「行くよ……【青龍】」


 立花が予選のバトルロイヤルで見せた【四神】のうちの一つ、【青龍】を唱えると、クレイモアに一匹の龍がまとわりつく。


 そして、[ペルーン]に向かってダッシュした。


「ッ! 【ガーディアン】!」


 サンドラは全方位に【ガーディアン】を展開し、立花を待ち構える。


 ――ガイイイイイイイインン……!


 [伏犠]がクレイモアを盾に打ちつけると、会場中に鈍い金属音が響いた。


「フッ!」


 その後も、[伏犠]は何度も攻撃するが、盾はピクリとも動かない。


「フフ……やみくもに攻撃をしても、この【ガーディアン】を破ることなんてできませんわヨ?」

「あはは、もちろん分かってるよ。そして、その盾にも隙があるってことも」

「……何ですっテ?」


 そう言うと、[伏犠]はまたもクレイモアで打ち続けた。


 すると。


「……あの盾、少し動いてないか?」

「うむ、よく気づいたな。そうだ、立花くんは盾に何度も打ちつけることで、盾と盾の間にある隙間をこじ開けているみたいだな。あの、【青龍】によって」

「っ!?」


 先輩の説明を受け、俺は改めて【ガーディアン】を見ると……いつの間にか【青龍】が盾と盾の間に食い込んでる!?


「あはは、今だよ!」


 そう叫んだ瞬間、【青龍】の身体から突風が吹き出し、少しずつ盾の隙間を広げていく。


『グ……ググ……!』


 だけど、[ペルーン]も負けじと渾身の力で盾の隙間を閉じようとする。


「[ペルーン]! 頑張ってくださいまシ! このまま十分間耐え抜けば、その時こそワタクシ達の勝ちですワ!」

『……(コクリ!)』


 そんなサンドラの声に呼応するかのように[ペルーン]は頷くと、その太くたくましいかいなにさらに力を込めた。


 そして。


 ――ガキイイイイイイインンンッッッ!


 なんと、[ペルーン]はその怪力で【青龍】を押し潰してしまった。


「フフ、頼みの綱の【青龍】はもういませんワ! こうなった以上、アナタに【ガーディアン】を攻略することは不可能ですわヨ!」


 確かに、サンドラの言う通りだ。

 また一から隙間をこじ開けるにしても、結局は同じことの繰り返しになる可能性が高いし、何より、そんなことをしている間に【竜の恩恵】の効果持続時間である十分を経過してしまう。


 さて……立花、お前はどうする……?


「ウーン……これじゃあ、隙間をこじ開けて【ガーディアン】を攻略するのは無理っぽいなあ……」

「アラ? もう降参ですノ?」


 立花の言葉に拍子抜けしたのか、サンドラは不思議そうな表情を浮かべて尋ねる。


「まさか! 確かに[ペルーン]の【ガーディアン】を攻略するのは無理だってことは認めるけど、だからってサンドラさんを倒せないってことじゃないから」

「……ヘエ、面白いことを言いますのネ……?」


 今の台詞セリフにカチン、ときたサンドラが、立花をキッ、と睨みつけた。

 だけど、俺から見ても難攻不落の【ガーディアン】を攻略するのは至難の業だ。

 じゃあ一体、立花はどうやって倒すつもりなんだ……?


「あはは……そもそも、【ガーディアン】はその鉄壁の守りで外からの攻撃は寄せつけなさそうだけど、例えば、中からの攻撃・・・・・・はどうやって防ぐのかなあ?」

「なんですっテ!? ……キャアアアアアアアアアッッッ!?」

「っ!? サンドラ!?」


 クスクスと嗤いながら立花がそう告げると、突然、ドーム状に展開していた【ガーディアン】が、放射状にはじけ飛んだ・・・・・・

 い、一体何が起こったんだよ!? そ、それにサンドラは無事なのか!?


 俺は慌ててサンドラを見ると……彼女の制服がズタズタに引き裂かれてその妖精のように白い素肌があらわになり、そこからうっすらと血がにじみ出ていた。


「っ! サンドラアアアアアアアア!」


 俺はサンドラが心配でたまらなくなり、思わず大声で叫ぶ。

 だけど、何でサンドラがあんなに傷ついてるんだよ!? ちゃんと【ガーディアン】で守ってたんじゃないのかよ!?


「サ……「望月くん、落ち着け! 審判の先生もいるし、救護班だって控えている! サンドラに万が一はないから!」……せ、先輩! ですが!」


 俺は今にも舞台の上に駆け出そうとしたところを、先輩に制止される。

 だけど、このままじゃサンドラの奴が……!


「それに……見ろ! サンドラの瞳は、まだ光を失ってはいない!」

「っ!」


 サンドラは歯を食いしばりながら身体を起こすと、アクアマリンの瞳に力強い光をたたえ、立花をとらえ続けていた。


「マダ……マダですワ……!」

「……サンドラさんもすごいね。ひょっとして『耐久力』だったら、【竜の恩恵】でステータスが上昇した[伏犠]……いや、桐崎先輩の[関聖帝君]だってしのぐんじゃないかなあ」


 立花は感心しながらそう言うと、全く警戒を怠らずにサンドラを見据える。

 そこに、おごりは一切感じられなかった。


「と……当然ですワ……! ワタクシの盾は、世界一大切な人・・・・・・・を守る盾、ですもノ……!」

「うん……その気持ち、ボクも分かるよ……」


 二人はお互いの視線を合わせながら、ゆっくりと頷く。


「ワタクシは……ワタクシは、アナタに勝って決勝に行くノ……! そしテ、ヨーヘイ・・・・に強くなったこのワタクシを見てもらうノッ! 知ってもらうノッ! アナタのおかげで、強くなれたっテ!」

「っ!」


 サンドラ……。


「それは、ボクだって同じだよ……ボクだって、望月くんに見てもらうんだ! 一番大切な親友で、ライバルの望月くんにっ!」


 立花……。


「……だから、ボクの持つ最大のスキルで、キミを倒すね?」


 そう言うと、[伏犠]のクレイモアが激しく燃え盛り、その切っ先には一羽の鳥が……いや、あれは鳳凰……?


「……き、奇遇ですわネ……ワタクシも、次で決めるつもりでしたのヨ……?」


 その言葉を受け、[ペルーン]がメイスを高々と振りかぶった。


「【裁きの鉄槌】ッッッ!」

「【朱雀】!」


 お互いの最強のスキルが舞台の中央で激突し、轟音と光が舞台全体を包み込む。


 そして。


「それまで! 勝者、“立花アオイ”!」

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