第199話 クラス代表選考会 決勝トーナメント⑤

「行きますわヨ! [ペルーン]!」

「あは……[伏犠ふっき]!」


 サンドラ立花は、自身の精霊ガイストを召喚すると。


「サア!覚悟してくださいまシ!」


 案の定、[ペルーン]が先手必勝とばかりにメイスを構えて突撃した。

 いや、並みの奴ならそのプレッシャーで効果的かもしれないけど、相手はあの立花……『ガイスト×レブナント』の真の主人公・・・・・なんだ。当然、プレッシャーなんて微塵も感じていない。


「あはは! 相変わらずサンドラさんはそれ一辺倒だよね! [伏犠]!」


 すると[伏犠]は、口を大きく開けて[ペルーン]を見据える。

 マズイ!? あれは……!


「【竜の息吹】」

『カアッ!』


 立花の呟きと共に[伏犠]が【竜の息吹】を放ち、[ペルーン]へと迫る。

 あの攻撃には【全防御貫通】の効果があることはサンドラも知っているはずだから、さすがに避け……「【ガーディアン】!」……って、はああああ!?


 なんとサンドラは、避けるどころか前方に盾を展開し、【竜の息吹】を真っ向から受け止めるつもりでいやがる!?


「バカヤロウ! かわせえええええ!」


 思わず叫んだ俺だが、サンドラはまるで意に介さず、口の端を持ち上げた。


 そして。


 ――ギイイイイイイイインンン……ッ!


「う、受け止めた……?」


 オイオイ、本気マジかよ……。

 なんで【全防御貫通】の効果を無視して、あのは【竜の息吹】を受け止めることができるんだ……?


「……まさに矛盾・・、ですね」

「氷室、先輩……?」


 ポツリ、と呟いた氷室先輩へと、俺は視線を向ける。


「サンドラさんの精霊ガイスト……[ペルーン]のあの盾には、【絶対防御】のスキル効果がついています」

「はあ!?」


 氷室先輩の説明に、俺は驚きの声を上げた。

【絶対防御】!? そんなスキル効果が存在するのか!?


「……私も解析した瞬間、自分の目を疑いました。そして、[ペルーン]のあの盾は、最強とも言える【全防御貫通】というを見事に防ぎ切ってみせました」

「ですね……」

「望月さん……先程の予想は撤回します。この戦い、どちらが勝つか、もはや予測不可です」


 そう言うと、氷室先輩はジッと二人の戦いを見据える。

 というかサンドラの奴、こんな隠し玉を持ってたなんて、先に教えとけよ!


 俺は心の中でそんな悪態を吐くと、口元を緩めながら二人の戦いに集中した。


「ふうん……サンドラさんの盾が、まさかボクの【竜の息吹】を防ぐほどのものだったなんて、思わなかったよ」

「フフ、ですわよネ。だっテ、ヨーヘイにも言ってないんですもノ」


 サンドラは口の端を持ち上げると、ジリ、ジリ、と[伏犠]との距離を詰めていく。


「このメイスの射程に入ったら、あとは一撃で仕留めて差し上げますワ」

「あはは。だけどサンドラさん、キミにその盾があるように、ボクにもアレ・・があるのを忘れてない?」


 立花はニヤリ、と笑いながら、すう、と息を吸い込んだ。


「【竜の恩恵】」


 立花はそう告げるが、[伏犠]には変化は見られない。

 だけど……あのスキルこそが、この主人公を最強たらしめているんだ。


「フ、フフ……全ステータスが二段階上昇しテ、【物理耐性】、【全属性耐性】、【状態異常無効】、でしたかしラ?」

「そうだよ! それに、[伏犠]になったことで[ジークフリート]にはあった背中の隙間もなくなった! これでもう、キミの攻撃じゃ有効なダメージを与えるのはほとんど無理だよ!」


 そうか! 背中の隙間は、[ジークフリート]特有の弱点だったけど、[伏犠]になったことでそれも解消されちまったのか!


 どうする、サンドラ……!


「フフ……」


 すると、サンドラは何故か微笑んだかと思うと、右手でそっと左手に触れた。

 そこには、“レムリア”領域エリアで入手した、あの“リネットの指輪”がある。


「立花クン……アナタが【竜の恩恵】で上昇するステータスは二段階まで、ですわよネ?」

「うん、キミの言う通りだよ」

「そうするト、今のステータスはオール“SS”ってところかしラ?」

「今さら隠すつもりもないから言うけど、[伏犠]の元々のステータスはオール“S”だから、二段階上昇で“SS”になっているよ」


 その言葉を聞いた瞬間、サンドラの笑みはさらに色濃くなった。


「フフフ! でしたら、ワタクシも包み隠さずお教えいたしますワ! ワタクシの[ペルーン]もレベル六十を超えたことで、『耐久』が“SS”に到達しましたノ!」

「へえー、おめでとう。でも、それが何の関係があるの?」

「フフ、決まってますワ! アナタの【竜の恩恵】の効果は十分間! そして[ペルーン]の『耐久』ステータスは元々の“SS”に加えて、ワタクシの“リネットの指輪”の効果でさらに一段階引き上げられ、限界突破の“SS+”ですのヨ! つまり!」


 [ペルーン]が、メイスの先端を[伏犠]の眉間へと突きつける。


「この【絶対防御】の【ガーディアン】と合わせて、十分間アナタの攻撃を耐え切ったその時、アナタはこのメイスの餌食となるのですワ!」


 サンドラは確信に満ちた表情で、立花の奴に向けて宣言した。


「……あはは」

「フフ……絶望的なこの状況を理解して、とうとう笑うしかなくなったんですノ?」


 どうやらサンドラは、立花のその笑いを諦めによるものだと思ったらしい。

 だけど、俺は……俺だけは知っている。


 この『ガイスト×レブナント』において、真の主人公のその力を。


「後悔、しないでね?」


 そう言うと、立花はその中性的で端正な顔に似つかわしくないほどの、獰猛どうもうな笑みを浮かべた。

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