第228話 ワルイ男、望月ヨーヘイ

「おお……!」


 いよいよ交流戦一日目の最後の種目である対抗リレーとなり、各クラスで一番足の速い代表が姿を現わすと、俺は思わず声を漏らした。


 だって、その中には、うちのクラス代表である立花とプラーミャのほか、なんと先輩と氷室先輩も代表に選ばれていたのだ。

 というか、そうならそうと教えてくれてもよかったのに。


 あ、今、先輩と氷室先輩がコッチ向いて手を振ってくれた。


 すると今度は、メイザース学園側の代表選手が現れた。

 その中には、悠木の姿も。というか、『ガイスト×レブナント』のメインキャラ、全員足速くない?


 ま、まあ、ゲーム的には、メインキャラの出番がないことには盛り上がらないんだけど。


 そして。


「位置について……よーい」


 ――パアンッ!


 スタートを告げるピストル音が鳴り響き、まずは女子の部の第一走者が一気にスタートする。

 なお、対抗リレーは男女に分かれて各学年三人、合計九人の選手でリレーを行い、一年生から順に二年、三年へとバトンを繋げていくことになっている。


「行け―! プラーミャーッ!」


 第三走者のプラーミャが、悠木と並走しながら駆ける。

 ヤベ、二人共超速い。というかコレ、俺なんかより圧倒的に速いだろ……。


 そしてバトンが繋がり、次はいよいよ先輩の出番。ここは何としても、その姿を収めないと!


 ということで、俺はポケットからスマホを取り出し、先輩にカメラを合わせた。


「っ! 行くぞ!」


 先輩はバトンを受け取ると……は、速っ!?

 みるみるメイザース学園の走者を引き離し、かなりの距離が開いた。


 先輩って、水泳は苦手なのにおかに上がると完璧美少女なんだよなー……水泳は苦手なのに。


「氷室くん! 頼む!」

「はい」


 氷室先輩が桐崎先輩からバトンを受け取り、さらにメイザース学園との差を広げる。氷室先輩もメッチャ速い!


 そのままアレイスター学園はリードを保ち、終わってみれば圧勝だった。


「ヤ、ヤバイな……」

「エ、エエ……」


 俺とサンドラは、お互い目を丸くしながら頷き合った。


 ◇


「……ふふ、お疲れ様」


 交流戦一日目の全行程が終了し、みんながグラウンドから引き上げていく中。悠木がわざわざ挨拶に来てくれた。


「おう! お疲れ! そういや悠木は、今日はドッチ・・・に泊まるんだ?」


 メイザース学園は駅前のホテルで宿泊することは決まってるんだけど、元々はうちの学園の生徒だった悠木。実家は学園の近くにあるわけだからなあ。


「……もちろん、久しぶりに実家に帰ろうと思ってるの」

「はは、だよな」


 そう言うと、俺と悠木は顔を見合わせながら笑った。


「……それと」

「ん?」

「……明日の団体戦が終わっても、その次の日は学園から休息日ってことでお休みになっていて、その……」


 急に頬を赤らめながらモジモジしだした悠木。というか、こんな仕草をするなんて珍しい……でも、明後日もコッチにいるのかあ……。


「だったらさ、せっかくだしルフランに行ってみないか? ホラ、悠木ってガトーフレーズ好きだろ?」

「っ! ……う、うん!」


 俺の提案に、悠木は、ぱあ、と笑顔を見せた。

 はは、こんな表情を見せられると、やっぱり悠木ってメインヒロインなんだなあ……。


「……ふふ! じゃあ、私はこれで」

「おう! また明日な!」

「……ええ!」


 悠木は何度もこちらへと振り返っては手を振り、いよいよその姿が見えなくなる、その時。


「……望月くん!」

「おう!」

「……明日、覚悟しなさいよね!」

「はは! そっちこそ!」


 そして、今度こそ悠木の姿は見えなくなった。


「……ほう? 明後日、ルフランにな……」

「……フウン、それって二人きりで行くのかしラ」

「……もちろん、みんなで・・・・行くんですよね?」

「っ!?」


 背後に殺気を感じ、慌てて振り返ると……そこには険しい表情の先輩、サンドラ、氷室先輩がいた。


「ふふ……明後日、みんな一緒に・・・・・・ルフランで祝勝会をするのもいいな」

「エエ……モチロン、ヨーヘイもそう思うでショ?」

「そうですね……ここは望月さんのおごり、というのがいいのでは?」

「あ、あははー……」


 三人のプレッシャーを受け、俺は乾いた笑みを浮かべるのが精一杯だった……。


 ◇


『はう! マスターが所かまわず女の子に優しくするからいけないのです!』

「ええー……」


 家に帰るなり、俺は部屋で正座をしながら[シン]に説教をくらっている。

 いや、俺としては、単に旧交を温める的な感じで悠木を誘っただけなのに……。


『はうはう! 一体マスターにとって、誰が一番・・なのですか!』

「そんなの、先輩に決まってるだろ」


 [シン]の問い掛けに、俺は即答する。

 当然だ。俺にとって一番大切な女性ひとは、救われたあの日からずっと……いや、これから先の未来永劫、先輩だけなんだから。


『はうう……な、なら、[シン]はどうなのです……?』

「[シン]? そんなの、世界一大切な相棒・・だろ」


 不安な表情でおずおずと尋ねる[シン]に、これまた即答して返す。

 全く、そんな当たり前のこと聞いてどうすんだよ……って。


「[シン]?」

『はうはう……や、やっぱりマスターはワルイ男なのです……ズルイのです……』


 そう言うと、[シン]は真っ赤な顔を両手で隠してしまった。


『なな、なら! アレク姉さまやカズ姉さまはどうなのです!』

「サンドラ? サンドラはもちろん、先輩にだって負けないくらい、大切な仲間・・だよ。もちろん、それは氷室先輩も同じだ」

『はうううう……こ、これは、ますますこじれる未来しか見えないのです……』

「なんだよソレ……」


 ガックリと肩を落とす[シン]を見やりながら、俺は肩をすくめた。


「まあ、とりあえずこの話は置いといて……[シン]」

『ハイなのです』

「明日の団体戦では、一波乱……いや、二つも三つも問題が起きる・・・・・・ことになる・・・・・


 俺の雰囲気が変わったことを察した[シン]は、さっきまでとは打って変わり、真剣な表情で俺の言葉に耳を傾ける。


「[シン]、お前にはたくさん大変な思いをしてもらうことになるかもしれない……それでも、俺はこの『まとめサイト』を駆使して、それらを全部阻止したい。だから」


 ここで一拍置き、俺はすう、と息を吸う。


 そして。


「だから[シン]、俺と一緒に戦ってくれ。理不尽な未来・・・・・・を覆すために」

『当然なのです! [シン]は……[シン]は、いつだってマスターと共にあるのです! 想いも! 未来も!』


 [シン]はオニキスの瞳に覚悟と決意をたたえ、凛々しい表情を浮かべて強く頷いた。

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