第229話 阻止のための布石

「よっし!」


 いよいよメイザース学園との団体戦を迎えた朝、俺は窓から外を眺めながら、気合いを入れるためにパシン、と両頬を叩いていると。


『はう! なのです!』


 珍しく早起きの[シン]が、俺の隣に並んで同じように両頬を叩いた。

 はは、[シン]も気合い充分ってことか。


『それで……昨日、マスターから教えてもらったことは理解したのですが、肝心の[シン]達はどうすればいいのです?』

「ああ、それはだな……」


 俺はコテン、と首を傾けた[シン]に耳打ちをする。


『! はう! 了解なのです!』

「おう! 頼りにしてるぞ、[シン]!」

『任せるのです!』


 [シン]は胸を張ってドン、と叩いた。

 はは、見た目は小学生みたいなのに、本当に頼もしい。


「さて……んじゃ、支度して行くかー」

『ハイなのです!』


 俺と[シン]は、朝食と準備を済ませると。


「行ってきます」

『はう! 行ってきますなのです!』

「あらあら、二人共今日は何だかキリッとしてるわね」


 玄関まで見送りに来てくれた母さんが、俺達を見てそんなことを言った。

 まあ……確かに母さんの言う通り、今日はいつも以上に気合いが入っている。


 だって……今日を乗り切れば、少なくとも陰謀の一つ・・・・・は叩き潰せるからな。


「うふふ、息子の成長が見れた気がして、嬉しいわね」

「な!? か、母さん、茶化すなよ……」


 恥ずかしさのあまり、にこやかに微笑みながらそんなことを言う母さんに思わず抗議する。


『はう! マスターが照れてるのです!』

「ウ、ウルセー! と、とにかく! 行ってきます!」

「いってらっしゃい」


 母さんに見送られ、俺達は先輩の待つ十字路に……って。


「えへへ! おはよ、望月くん!」

「おう! おはよう!」


 その前に、待ち構えていた立花に取っつかまり、並んで歩く。


「それで……昨日のメッセージ・・・・・・・・のことだけど……」

「ああ……立花にはちょっと面倒を押しつけることになって、悪いな」

「ううん、それは全然大丈夫だけど……望月くん、また無茶なことでもしそうな気がするから……」


 おおう……立花め、結構鋭いな……。


「はは……でも、俺だって自分が可愛いから、ちゃんとわきまえてるよ」

「あはは、だったらいいんだけどね」


 スマン、立花……ちょっとだけ無茶するかもしれない。


「オッス! 立花! ヨーヘイ!」

「げ」


 そして、こちらも待ち構えていたかのように現れた加隈。だけど立花、さすがにその返しはないんじゃないか?


「はは! 今日は俺のスゲーところ、バッチリ見せてやるぜ!」

「あー……うん、そうだねー……」


 その翡翠ひすいの瞳に光もなく、無表情でそう答える立花。ま、まあ……チョットは見てやれよ……。


 そして、加隈に散々ウザ絡みされながら、いつもの十字路に差し掛かると。


「ふふ……望月くん、みんな、おはよう」

「先輩! おはようございます!」

「あ! 望月くん待ってよー!」


 俺は立花と加隈を置き去りにして、先輩の元に全力で駆け寄った。


「コラコラ、そんなに慌てて走ったら、つまづいて転んでしまうぞ?」

「はは、大丈夫ですよ!」

「ふふ、仕方ないな」


 そう言って苦笑する先輩。

 だけど、その口元はやっぱり緩んでいて……とにかく、こんな先輩を拝めた俺の一日が、最高のものになることが確定した。


「今日の団体戦、望月くんの活躍を期待しているぞ」

「はは、当然ですよ! 何といっても、先輩が応援してくれるんですから!」

「あう!? まま、まあ……それは当然だが……」


 そう言うと、先輩が頬を赤らめてちょっと視線を落とした。こういう照れたところも、可愛くて仕方がない。


「と、とりあえず私も勝つから、その……は、離れていても・・・・・・、応援、してくれると……」


 はは……! 先輩は、本当に何を言ってるんだか!


「そんなの当たり前じゃないですか! 俺はいつだって、どこでだって先輩を応援してますよ!」

「あう……う、うん……知っているが、それでも……ふふ、やっぱり言葉にしてもらうと嬉しいな……」


 ああもう! そんな表情反則だろ! なんで先輩は、こんなに可愛すぎるんだよ!


 そして、俺と先輩は立花達をそっちのけで、ある意味二人だけの世界にひたりながら、学園へと向かった。


 ◇


「ヨーヘイ! おはようございますワ!」

「おう! おはよう!」


 教室に入るなり、サンドラが笑顔で駆け寄ってきた。


「フフ……今日は任せてくださいまシ!」

「ああ……本当に、頼りにしてる」


 微笑むサンドラに、俺は頭を下げた。

 立花もそうだけど、サンドラは俺のメッセージに対して、無条件に引き受けてくれたんだ。

 本当に、俺は仲間に恵まれた。


マッタク……サンドラとヤーに感謝しなさいヨ?」

「はは、もちろんだとも。今日の団体戦が終わったら、みんなに俺からルフランのスイーツをおごらせてもらうから」

「ヘエ……だったラ、ヤーは三つにしようかしラ」

「おう! 任せろ!」


 こんなに手伝ってもらうのに、スイーツ三つくらいなら安いもんだ。


「……ネエ、ヨーヘイ。念のための確認ですけド、昨日・・約束したのとはモチロン別、ですわよネ……?」


 サンドラが、不安そうに上目遣いでおずおずと尋ねる。


「当然! ソッチはちゃんと、サンドラだけだって!」

「ア……フフ、だったらいいですワ……」


 そう言って、サンドラが嬉しそうにはにかんだ。


 その時。


 ――キーンコーン。


 朝の始業のチャイムが校舎内に鳴り響く。


「さあ……行こうか」

「エエ!」


 俺達は教室を出て、団体戦の舞台となるグラウンドへと向かった。

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