第146話 一方通行

 氷室先輩の家を出た後、俺は急いで学園へとやって来ると……。


「…………………………」

「…………………………」


 はい、先輩とサンドラが腕組みしながら憮然とした表情で待ち構えておりました。

 アレー、おかしいなあ……俺、二人には先に“ぱらいそ”領域エリアに入っていてもらうように、メッセージを送ったんだけどなあ……。


「……それで、遅れた理由は何なのだ?」

「……まさカ、誰か他の女の子と会ってたりしてたんじゃないでしょうネ……?」

「っ!?」


 先輩の詰問とサンドラの言葉に、俺は一瞬心臓が止まりそうになった。

 いや、特にサンドラ、なんで分かるんだよ!?


「望月くん?」

「ヨーヘイ?」

「あ、あははー……実は……」


 俺は険しい表情のままの二人に経緯いきさつを話した。


 学園に向かう途中、少年とぶつかってしまい、怪我をさせてしまったこと。

 で、少年を背負って家まで運ぶと、なんとそこ氷室先輩の家で、少年は氷室先輩の弟さんであったこと。

 その後、お礼ということでお茶と[シン]のアイスをご馳走になったこと。


「な、なので、ちょっと遅れてしまいまし……てっ!?」


 ヒイイ! なんで二人共、余計に怒ってるんだよ!? 俺、ちゃんと説明したじゃん!?


「ハア……全く、油断も隙もない……」

「フウ……本当に、ヨーヘイのバカ……」


 二人に盛大に溜息を吐かれた後、残念なものでも見るかのようにジト目で睨まれた。

 うう……俺が何したっていうんだよお……。


『はう! マスターが所かまわずフラグを立てるのは、もうどうしようもないのです……って、関姉さまとペルおじさま、なんで怒ってるのです!? しかも藤姉さまとアレク姉さままで!?』


 気がつくと、何故か[シン]が二人と[関聖帝君]、[ペルーン]に囲まれ、プレッシャーを受けていた。いや、それこそなんで!?


「……まあいい。望月くんがこういう男の子だということは、理解している」

「……ですわネ。デモ、そういう優しいところガ……(ゴニョゴニョ)」

「? サンドラ?」

「フエ!? なな、何でもありませんワ!」

「?」


 ……まあいいか。


 その後、俺達は夕方までひたすらキング=オブ=フレイムとクイーン=オブ=フロストを狩り続けた。


 ……その時の先輩とサンドラのすさまじさは、[シン]がトラウマになりそうなほど苛烈なものだったとだけ、言っておこう。


 ◇


「ふふ♪ やはり和栗のモンブランは最高だな!」

「アラ? こちらのプラーガも美味しいですわヨ?」


 などと、先輩とサンドラは満面の笑顔でスイーツを楽しんでいる。

 まあ、要は俺が氷室先輩と会って集合に遅れたことに対する罰として、二人にルフランでスイーツを奢らされてるってわけだ。


『んふふー! ウマウマなのです!』


 そしてちゃっかりとジェラートを食べてご満悦の[シン]。

 とはいえ、“ぱらいそ”領域エリアでは先輩達からのプレッシャーにさらされ、つらい思いをしていた姿を見てしまったので、ついつい俺も甘やかしてしまった……。


「あ、そうだ。先輩、少し聞きたいことがあるんですけど」

「ん? なんだ?」


 すっかりご機嫌になった先輩は、笑顔で返事をする。チョロイ。

 でも……こんなこと聞いたら、先輩はまた怒るだろうなあ……聞くけど。


「先輩と氷室先輩……その、どうして仲が悪いんですか?」

「むむ……! ま、またストレートな聞き方をするな……」


 俺の質問に、先輩が露骨に顔をしかめた。

 いや、やっぱり何かあるんだな。


「……私自身は、氷室くんのことを嫌ったりしたことはない。むしろ、彼女は優秀だし、人柄も悪くない。どちらかといえば好感すら持っているよ」

「あー……やっぱり……」

「む? やっぱりとはどういうことだ?」


 先輩の答えを受けて俺が納得していると、先輩が怪訝な表情で聞き返した。


「はは、俺だって先輩の態度とか表情を見てたら分かりますよ。というか、そもそも先輩は、誰かを嫌ったりするのが苦手な人ですからね」

「あう!?」


 あはは、先輩が驚いてる。

 でも、入学してから今まで、ずっと先輩のことを見続けてきた俺には分かる。

 本当の先輩は優しくて、人懐っこくて、学園の生徒達が抱いているような印象とはかけ離れた、素敵な女性ひとなんだって。


「だけど……じゃあ氷室先輩が、一方的に先輩のことをライバル視してるってことかあ……」

「? だけどヨーヘイ、急にどうしたんですノ?」


 サンドラが不思議そうに尋ねる。


「ああ、今日氷室先輩と話をした時に、どこか思いつめているようにも感じたし、できるなら何とかしてあげたいかなー……って、サンドラも先輩もどうしたの?」

「「ハア……」」


 いや、なんで俺、溜息吐かれてるの!?


「……まあ、望月くんだから仕方ない、か」

「……エエ、ヨーヘイですもノ」


 そう言って、二人は俺を見ながら苦笑した。

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