第315話 待ち構える

「うう……寒いなあ……」


 ルフランで解散した後、俺は一旦家に帰って夕食を済ませた後、サンドラとプラーミャが住んでいるマンションの前に来ている。


 もちろん、賀茂達がサンドラの『思い出の写真』を奪いに来ないか、見張るために。


 とはいえ、さすがに十二月中旬ともなると、ちゃんと厚着をしていても寒くて仕方がない。


『はうはう! [シン]が絶対にやっつけてやるのです! お仕置きするのです!』


 妙にやる気を見せている[シン]が、ブンブンと両手を振り回す。

 しっかし、精霊ガイストは寒いって感じたりしないのかな……って、おっと、ちゃんと見張っておかないと。


 俺は曲がり角の陰に隠れ、改めてマンションの入口を見つめていると。


 ――ぴと。


「へ!?」


 急に頬に温かいものを感じ、俺は思わず飛び退くと。


「フフ……こんなところで何をしてるんですノ?」

「サ、サンドラ!?」


 なんと、現れたのは缶コーヒーを持ったサンドラだった。


「え、ええと……」

「フフ、こんなところにいてたら風邪を引いてしまいますワ。ですかラ」


 するとサンドラは、俺の手を取ると。


「ホラ、行きますわヨ」

「え、ええ!?」


 そのまま引っ張られ、俺はマンションの中に連れて行かれた。


 そして。


「……ハア、本当にヨーヘイって過保護よネ」


 玄関に入るなり、出迎えたプラーミャに呆れ顔で溜息を吐かれた。


「い、いや、その……た、たまたま通りかかったっていうか、何つーか……」

「ハイハイ、言い訳はいいかラ。そんなことより、早く中に入りなさいヨ」

「ええー……」


 プラーミャは苦笑しながら手招きし、それに合わせてサンドラに背中を押され、そのまま足崩し的に部屋の中に入った。


「それデ、ヨーヘイは缶コーヒーと紅茶でいいかしラ?」

「んお? お、おお……」


 サンドラに勧められるまま、俺は頷く。

 いや、この缶コーヒーも俺のなのかよ。


「だけド、こんな時間にマンションの前でウロウロしてたら、普通にストーカーに間違えられてもおかしくないわヨ?」

「うぐう!?」


 プラーミャにジト目で睨まれながら指摘され、俺は思わず変な声を出してしまう。

 チクショウ、何一つ反論できない……。


「……マア、そんなお節介なところがヨーヘイらしいけど……(ボソッ)」

「? 何か言ったか?」

「イイエ?」


 ポツリ、と呟いたプラーミャは、とぼけながらかぶりを振った。

 というか、ちゃんと聞こえてるんだよ。悪かったな、お節介で。


 俺は誤魔化すようにプルトップを開け、ぬるくなった缶コーヒーを口に含む。


「フフ……[シン]はアイスでいいですわよネ?」

『わあい! これは高いアイスなのです! ストロベリー味なのです!』


 コラコラ、あまりうちの[シン]を甘やかさないでくれ。次からハードルが上がる。


「ですけド、ヨーヘイったら一体いつまで見張っているつもりだったんですノ?」

「いつまでって……そりゃあ、アイツ等が現れる……「プ、ホラ、やっぱり過保護じゃなイ」」


 俺の話の途中でプラーミャが吹き出し、そんな指摘をしやがる……。


「フフ……でしたら、この暖かい部屋で待てばいいですワ」

「お、おう……だけど……」


 俺はチラリ、とサンドラとプラーミャを見やる。

 というか二人共、自分の家だからって、ちょっと無防備すぎるんじゃないですかね?


 一応、俺もなんだけど……。


「それデ……やっぱりヨーヘイは、今日にでも連中が来るって考えてるのよネ?」


 プラーミャの様子が一転し、真剣な表情で尋ねる。


「……ああ。さすがにあれだけ俺にあおられたら、何かしらの動きがあるはずだ。何といっても、加隈と土御門さんが速攻で大切なものを奪われてるんだからな」

「そうネ……ユーイチに・・・・・関しては・・・・、その通りヨ」


 ? プラーミャの奴、変な言い方するなあ……。


「ですけド、わざわざ家の中まで侵入して、しかもどれが大切なもの・・・・・かも分からないのに、そんなことが可能なんですノ?」


 そう言うと、サンドラは怪訝な表情を浮かべた。

 だけど、その質問に関しては、答えはイエスだ。


 まず、賀茂の仲間の一人である“吉川サヤ”の精霊ガイスト、[ウォルシンガム]の持つ隠密スキル、【スニークアップ】と【光学迷彩】があれば、誰にも気づかれずに侵入することも可能だろう。

 扉の鍵などはなんとかしないといけないけど、それだって警備室からマスターキーを入手すれば、別に不可能じゃない。


 キーアイテムの選別だって、そもそも賀茂には俺と同じ『攻略サイト』か、それに類するものを持ち合わせているんだから、始めからサンドラのキーアイテムだって把握してる。


「……いずれにしろ、賀茂には何人もの仲間……いや、操り人形の駒・・・・・・がいるんだ。侵入したり、大切なものを見つけるためのスキルを持ってる奴がいても、おかしくない」

「そ、そうですわネ……」


 せめて氷室先輩がいれば、[ポリアフ]の【オブザーバトリー】で隠蔽スキルを看破できるんだけど、そういうわけにはいかないしなあ……。


「とにかく……今日は俺、明日の朝まで監視してるから」

「フエエエエエエエエ!?」

「ニャアアアアアアア!?」


 俺の言葉に、サンドラとプラーミャが奇声を上げた。なんで?

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