第285話 期末テストの存在

「ヨーヘイ! おはようなのですワ!」


 先輩と下駄箱で別れて教室に入るなり、サンドラは元気に挨拶してきた……って!?


「え? え? なんで!?」


 先輩の話では、サンドラも無視を決め込むって言ってたのに!?


「フフ……その顔は、先輩にしてやられたんですわネ?」

「そ、そうだけど……サ、サンドラはどうして……?」

「……最初は先輩と同じように、ヨーヘイを懲らしめてやろうって考えてたんですけド……」


 サンドラはチラリ、と席に座るプラーミャを見やると。


「プラーミャがネ? 『ヨーヘイはヤー達を気遣ってるだけで何も悪くないんだかラ、そんなことしたら駄目ヨ』だっテ」


 そう言ってサンドラがペロリ、と舌を出した。


 だけど、あのプラーミャが俺のフォローをするだなんてなあ……。

 そう思いながらプラーミャをしげしげと眺めていると、視線に気づいたプラーミャがギロリ、と睨んできた。

 俺がサンドラから話を聞いたって知ったらキレそうだから、勘繰られる前に眺めるのをやめよう……。


「と、ところで、サンドラ達は“カタコンベ”領域エリアは今日にでも踏破できそうなのか?」


 俺は話題を逸らすため、そんなことを聞いてみる。


「エエ。地下第二十九階層も攻略しましたし、あとは領域エリアボスだけですワ」

「そっかー」


 いや、本当にタッチの差だな。

 こんなことなら、昨日打ち上げするんじゃなくて一緒にすればよかったかも……。


「あ、あははー……望月くん、無事だった……?」


 すると、立花の奴が苦笑しながら会話に加わってきた。

 だけど立花よ。俺はさっきの仕打ちを忘れてないからな?


「とりあえず立花、覚えてろよ」

「ヒイイ」


 ――キーンコーン。


「あ! 朝のHRが始まっちゃう!」


 立花はわざとらしくそう言うと、そそくさと自分の席に座った。逃げ足早いな。


「じゃあ、ワタクシも席に戻りますわネ」

「おう」


 ヒラヒラと手を振るサンドラも自分の席に戻り、俺も席に着いた。


 ◇


「ホ、しかし昨日の打ち上げは楽しかったの」


 昼休みになり、俺達は食堂で席に着くなり、土御門さんがポロッとそんなことを言い出した!?

 いや、初手からなんで燃料投下してんの!?


「ふふ……ええ、またしたいですね」

「ソウネ」


 そして、それに乗っかる形で氷室先輩とプラーミャが追随する。いやもう何なの?


「ヘ、ヘエ……!」


 あ、もう許してくれてるはずなのに、サンドラの奴、怒りが再燃してるっぽい。


「むうううう! いいもん! 次は絶対に望月くんと同じチームになるし!」


 そして頬をパンパンに膨らませながら拗ねる立花。だけど、次、なあ……。


「ホラ! 先輩も何か言ってくださいまシ!」

「あう!? うう、うむ、そうだな……」


 サンドラに話を振られ、先輩がしどろもどろになる。

 というか先輩、顔も赤いし一体どうしたんだろう……。


「ヨーヘイ、それで次はどうするノ?」

「ウーン……」


 昨日と同様、プラーミャにまた尋ねられたけど、やっぱり二周目特典の五つの領域エリアに行くのが妥当だよなあ……。

 そう考えていると。


「いや……領域エリア攻略は、明日から最低一週間は止めておこう」

「「「「「「「え……?」」」」」」」


 先輩の言葉に、俺達は気の抜けた声を出してしまった。


「え、ええと、どうして……」

「決まっている。一週間後は期末テストだぞ?」

「「「「「「「あ……」」」」」」」


 先輩にそう告げられ、俺達は気づく。

 期末テストのこと、すっかり忘れてた……。


「ふふ……なあに、心配するな。勉強についてはこの私がバッチリ教えてあげるとも! ということで、明日からはみんな私の家に集合だ!」


 そう言って張り切る先輩。


「ホホ……わらわはメイザース学園では、座学トップであったぞ?」


 そう言うと、土御門さんは俺を見てクスクスと笑う。

 アレ? ひょっとして俺、あおられてる?


「フフ……マア、授業をちゃんと受けていれば、楽勝よネ?」

「ええ、そうですね」


 プラーミャと氷室先輩も、余裕の表情で相槌を打った。


「ボクも勉強得意だから、教えてあげるね!」


 立花はフンス! と小さく気合いを入れるけど、俺が頭悪いの確定みたいに言うの、やめろよな。


「お、俺も勉強に関しては一切問題ねーからな!」


 まるでツッコミを待つ若手芸人みたいなリアクションをしてる加隈。

 だけど、コイツが言ったように、実は『ガイスト×レブナント』ではコッソリ勉強ができるタイプなのを俺は知っている。


 つまり……コイツは俺の敵だ!


「ホホ……ということなので、わらわとしては勉強もするが、今攻略中の“アルカトラズ”領域エリアと、その後の“アトランティス”領域エリアは引き続き攻略させてほしいのう」

「ふむ……確かに、学力が備わっている土御門くんにとっては、属性反射スキルを取得するほうが重要か……」


 土御門さんの言葉に、先輩は顎をさすりながら考え込む。


「モチロン、シキの領域エリア攻略にはヤーも行くわヨ」

「そうだねー、ボク達もチームだし」

「だな!」


 プラーミャ、立花、そして加隈も、土御門さんとの攻略を選択したみたいだ。


「うむ、分かった。では、四人は引き続き領域エリア攻略を優先してくれ。ただし、勉強も怠るんじゃないぞ?」

「「「「はい!」」」」


 先輩が微笑みながら釘を刺すと、四人は気合いの入ったいい返事をした。


「私も、少し家事を優先させていただけると助かります」


 あ、そっか……氷室先輩は家のこともあるもんなあ……。


「もちろんだ。タカシ君達にもよろしくな」

「ええ」


 ということで。


「ふふ……望月くん、一緒に頑張ろう!」

「は、はいい……」


 結局、テスト勉強については、明日から俺と先輩、サンドラの三人だけで行うことになった。

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