第269話 最強のスキル

『はうううう……やっぱり不味いのです……』


 今日五個目の疾走丸を飲み込み、[シン]が舌を出して顔をしかめる。


「いやあ……しっかしその疾風丸って、本当に不味いのか?」

「はう! マスターは食べたことがないからそんなこと言えるのです! 一度その口にねじ込んでやりたいのです!」


 俺が皮肉交じりに言うと、[シン]は顔を真っ赤にしてプンスカ怒り出した。はは、からかい甲斐のある奴。


「ふむ……だが、確かに疾風丸もそうだが、他の丸薬を含め、そこまで不味いものなのかな?」


 そう言って、先輩は隣にいる[関聖帝君]をチラリ、と見やると……あ、[関聖帝君]が青ざめてる。これは相当不味いみたいだな。


「フフ、ならせめてヨーヘイは、この後[シン]にジェラートを食べさせてあげませんとネ」

『はう! そうなのです! ちゃんと[シン]を労ってほしいのです!』


 嬉しそうにクスクスと笑うサンドラの言葉にここぞとばかりに同調し、[シン]は俺の腰に抱きついて上目遣いでおねだりをしてきた。


「はは、んじゃ、今日のノルマが終わったら、みんなでルフランに行くか」

「う、うむ! 行こう! ぜひ行こう!」

「モチロンですワ!」


 ということで、俺達はいつもよりも速いペースでノルマであるクイーン・オブ・フロストとキング・オブ・フレイムの撃破と疾走丸の入手を行う。


「あ……」


 十回目のキング・オブ・フレイムを終えたところで、先輩が声を漏らした。


「? 先輩、どうかしました?」

「う、うむ! これを見てくれ!」


 先輩は手に持つガイストリーダーを俺とサンドラへと向ける。


 —————————————————————

 名前 :関聖帝君

 属性 :軍神(♀)

 LV :75

 力  :SS

 魔力 :B+

 耐久 :SS

 敏捷 :A+

 知力 :S

 運  :B

 スキル:【一刀両断】【乱戦】【大喝】【統率】

【物理攻撃耐性】【状態異常無効】【火属性反射】

【水属性反射】【氷属性反射】【闇属性反射】

千里行・・・

 —————————————————————


「あ……!」


 そこには、レベルやステータスと一緒に、新たに加わったスキルがあった。


 〝【千里行】〟


 [関聖帝君]の……いや、『ガイスト×レブナント』における、最強スキル。


「ふふ……! とうとうレベルが七十五になったと思ったら、まさか新たなスキルが手に入るなんて思いもしなかったよ!」


 先輩の声が歓喜に震える。

 だけど……【千里行】のすごさを知っている俺は、先輩以上に打ち震えていた。


 はは……! こんなの、ますます最強じゃねーか!


「先輩! やりましたね!」

「おめでとうございますワ!」

「うむ……うむ……! 二人共、ありがとう……!」


 俺とサンドラが祝福の言葉を告げると、先輩ときたら、少し涙ぐんでるんじゃないか?

 見ると、[関聖帝君]も同じように瞳に溜まった涙を指ですくっていた。


「よっし! 今日はお祝いしようぜ! ケーキでもなんでも、全部俺が奢る! もちろんいくつでもだ!」

「ヤッター!」

『はうはうはうはう! わあい! なのです!』


 俺の言葉に、サンドラと[シン]が、ぱあ、と表情を明るくする。


 そして。


「あう……そ、それほどのことでは……」

「何言ってるんですか! ここにきての新スキルですよ! というか先輩のそのスキルは、この世界で・・・・・絶対最強・・・・ですから! 俺が保証します!」


 照れる先輩に俺は詰め寄り、全力で推す。


 そうとも! 俺は嬉しいんだ!

 あの【千里行】を手に入れたことも、そして、このスキルが“ウルズの泥水”に頼ったまがい物なんかじゃなく、先輩の本当の力・・・・だったことも!


「あう……ふふ、本当に君は……」


 うつむきながらそう呟くと、先輩は口元を緩めながら自分の左手をそっと撫でた。


「さあ! それじゃ行こうぜ!」

「エエ!」

『はう!』

「ふふ……ああ! 行こう!」


 俺達は、意気揚々と“ぱらいそ”領域エリア、そして、初心者用の領域エリアを出てルフランへと向かった。


 ◇


『んふふー! ウマウマなのです!』


 [シン]が嬉しそうににぱー、と笑顔を浮かべながら、五段重ねのジェラートを頬張る。


「むむ……! こちらのフォンダンショコラにするか、それともレアチーズケーキにするか……!」

「あはは! だったら両方食べればいいじゃないですか!」

「う、うむ! そうだな!」


 悩む先輩の背中を押すと、むふー、鼻息荒く頷く先輩。こういうたまに見せる子どもっぽいところも魅力的でたまらない。


「フフ……ではワタクシは、レニングラーツキーにしますワ」

「オイオイ、一個と言わずもっと食べろよ」

「何をおっしゃいますノ。晩ご飯も食べないといけませんのに、そんなに食べれませんわヨ」


 俺がもっともっとと勧めるが、サンドラに苦笑しながらやんわりと断られた。

 ま、まあ、無理強いはよくないか……。


「んじゃ、俺はミルクレープにしようかな。すいませーん!」


 店員さんを呼び、それぞれ注文を済ませる。


「そういえば今さらだけど、[関聖帝君]にも味が分かるみたいだし、ひょっとしてここのスイーツ食べられたりするのかな……?」

「どうだろうか?」

「そうですわネ……」


 俺達三人は首を傾げた後、チラリ、と[シン]を見やる。


『んふふー! アイスをおかわりなのです! 次も五段重ねなのです!』


 あっという間にジェラートを食べ終えた[シン]は、マスターである俺そっちのけで店員を呼び、追加注文をしている。コイツ、本当に精霊ガイストかよ……。


 ま、まあ、店員さんも慣れたもので、今じゃ一切気にすることなく応対してるし、いいか……。


「た、試しに[関聖帝君]と[ペルーン]を呼び出して試してみませんこト……?」

「あー……そうだな」


 ということで、先輩とサンドラがそれぞれ精霊ガイストを召喚し、椅子を二脚追加して座らせる。


「だ、だが、さすがに[関聖帝君]と[ペルーン]では、店内が狭く感じてしまうな……」


 先輩は気まずそうに呟いた。

 だけど、確かに[ペルーン]は言わずもがなだし、[関聖帝君]は青龍偃月えんげつ刀が邪魔だ。とはいえ、さすがに傘立てにても置いてくるわけにもいかないからなあ。


「お待たせしました」


 ということで、店員さんに持ってきてもらったケーキを[関聖帝君]と[ペルーン]の前に持ってくると……お、[関聖帝君]も[ペルーン]も、瞳をキラキラさせてるぞ?


「さ、さあ、食べてみてくれ」


 先輩が勧めると、[関聖帝君]はおずおずとフォークを手に取り、一口サイズに切って口へと運んだ。


 すると。


『……! ……!』


 はは……[関聖帝君]、いつもの凛とした表情とは打って変わって、頬っぺたを押さえながら最高にゆるっゆるの顔になってるよ。

 というか、[ペルーン]に至っては一口でケーキを食っちまうなんて、豪快すぎるだろ……。


「は、はは……今度から、精霊ガイストも一緒に食べたほうがよさそうだな……」

『『! (コクコク!)』』


 俺は苦笑しながらそう呟いた瞬間、[関聖帝君]と[ペルーン]が激しく首を縦に振った。


『はう……二人も追加になると、[シン]の取り分が減ってしまうので……え、えへへー、冗談なのです……』


 [シン]のぼやきを耳聡く聞いていた[関聖帝君]と[ペルーン]が鬼の形相で睨みつけると、[シン]は顔を真っ青にしながら縮こまってしまった……。


「も、望月くん! わ、私のケーキを[関聖帝君]が食べてしまったから、そ、その……」


 ああ、俺のミルクレープが食べたいんですね? 分かります。


 俺は、ス、と無言でミルクレープを差し出すと。


「むむ! い、いいのか……?」


 おずおずと尋ねる先輩に、俺は無言で頷く。


「う、うむ! ではいただこう!」


 そんな感じで、俺達はルフランで楽しく過ごした。

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