第209話 代表揃い踏み?
「それまで! 勝者、“氷室カズラ”」
クラス代表選考会の二日目の最終試合。
審判の先生が、氷室先輩の勝ち名乗りを上げる。
「よっし! さすが氷室先輩だ!」
いや、もちろん氷室先輩の勝ちを疑ったことはないけど、それでも、勝負っていうのは最後まで分からないからな。
といってもここまでの全試合、氷室先輩は全て秒殺だけどな。
「これで、私も望月さんは桐崎さんと同じ、クラス代表ですね」
「はは、そうですね! 今から二週間後が楽しみです!」
「はい」
氷室先輩が無表情で頷くけど、その口元が一瞬緩んだ。
うん……やっぱり氷室先輩って、ギャップが半端ないなあ。
「むうううううう! わ、私だって、試合さえできれば氷室くんのように全試合秒殺で……!」
「一体何の勝負なんですノ……」
氷室先輩に妙に対抗意識を燃やし、先輩がそんなことをいうのを見て、サンドラが額を押さえながらかぶりを振る。
ま、まあ先輩も、クラス全員から敬遠されて自動的にクラス代表になったモンだから、フラストレーションが溜まっててもしょうがないかあ……。
「だけど……これで二年生のクラス代表も出揃いましたね」
「ええ……二―一は夏目さん、二―二が桐崎さん、そして、二―三の私」
氷室先輩がそう告げると、俺達は全員頷いた。
だけど、結局は準ラスボスの先輩と、ヒロイン候補の氷室先輩に夏目先輩という、至極順当な結果に終わったなあ。
俺達一年のほうは、加隈を除いてクソザコモブとモブ以下だっていうのに。
すると。
『それでは、ただ今から表彰式を行いますので、二年の各クラス代表者は舞台の上にお集まりください』
「お、二人共呼ばれましたよ」
グラウンド内にアナウンスが流れ、俺は二人を見る。
「ふふ、私は少し場違いな気がするが……氷室くん、行こうか」
「はい」
そう言うと、二人は舞台に上がった。
「フフ……ワタクシも、アナタと一緒に戦いたかったですワ……」
サンドラが寂しそうに微笑みながら、ポツリと呟く。
「ああ……俺だってそうだよ。サンドラが隣にいることが、俺にとってどれだけ心強いか……まあ、そうは言っても同じクラスだから絶対にあり得ないんだけどなあ……」
「そうですわネ……ですけド、もし二年生になって同じクラスじゃなかったら、その時は一緒に戦えますわヨ?」
ウーン……確かにサンドラの言う通り、別のクラスになればサンドラと一緒にクラス代表にはなれるんだけど……。
「……俺は、それは嫌かなあ」
「? どうしてですノ?」
俺の言葉に、サンドラはきょとんとした表情で尋ねる。
「俺としては、サンドラとは同じクラスになりたいぞ? サンドラと一緒に戦えるのは魅力だけど、そもそも交流戦なんてほんの二日で終わるわけだし、団体戦だけだったら、たった一日だ。それなら同じクラスになって、サンドラと一緒の時間を共有したいなあ……」
「ッ!」
それに、同じクラスのほうがイベント目白押しだし、特に修学旅行イベだと同じクラスじゃなきゃ一緒の班にすらなれないもんな。
「まあ、そういうことで……って、サンドラ?」
「フ、フエエエエエエエエ……」
サンドラは真っ赤な顔を両手で押さえながら、
『はうー……マスターは相変わらず無自覚にサラッとそういうことを言っちゃうのです……[シン]は、マスターがいつか刺されるんじゃないかと心配なのです……』
「[シン]!?」
いつの間にか俺の隣にいる[シン]が、残念なものでも見るかのような視線を送ってきやがった!?
結局、サンドラはアワアワしているわ、[シン]にジト目で見られるわで、表彰式をゆっくり見れる状況じゃなかった……。
◇
そして、クラス代表選考会の最終日。
三年の部では、当然ながら三年生最強の“鈴原カエデ”先輩と“和気チアキ”先輩が順当にクラス代表になった。
で、今は最後の一人を決める決勝戦を観戦しているんだけど……。
「「「「「…………………………」」」」」
ノーガードで殴り合う、舞台の上の二人。
そのあまりの凄絶さに、観客全員が声を失っていた。もちろん、あの先輩でさえだ。
というのも。
「チョット! よくもアタシの
「ソッチこそ! “シロー”はこの“ヒカリ”のことが好きって言ってくれんだもん! だもん!」
まるで悪霊のように長い髪を振り乱してヒステリックに怒り狂う女子生徒と、ピンクに髪を染めてツインテールにした、電波系の女子生徒が、
「せ、先輩……この場合、勝ったほうが代表になるんですか……?」
俺は
「あ、い、いや……ど、どうなんだろう……氷室くん?」
すると、答えに
「も、もうやめるんだ! この俺のために、二人が争うなんてやめてくれ!」
舞台の
しかも、中途半端にイケメンなのが気にくわない
「……あの男、叩き潰してきてもよろしくテ?」
「サ、サンドラ!?」
いつの間にか額に青筋を浮かべるサンドラが立ち上がりってあの男のところに行こうとしたので、俺は慌てて止める。
「ですけド! あんな女の気持ちをないがしろにするような男、絶対に許せませんワ!」
「分かる! お前の気持ちはメッチャ分かる! だけど、余計にややこしくなるからお願いヤメテ!」
「ふむ……だが、確かにサンドラの言う通り、斬り伏せても誰も文句は言うまい」
「先輩!?」
ヤバイ!? よくよく見たら、先輩も完全にブチ切れてるじゃねーか!?
「ふふ……私なら、ここから一撃で仕留められますよ?」
「ヒイイ!?」
氷室先輩がニタア、と口を三日月のように吊り上げているのを見て、俺の背筋が凍る。
あああああ……もう、どうすれば……!
「アハハハハ! あの二人、クソみたいな男に引っ掛かって、バカじゃだし!」
「そうね……まあ、普通はこんな目に遭ってるのに、ホイホイとなびいたりしないわよね……」
和気先輩が腹を抱えて大声で笑い、鈴原先輩は頬に手を当てながら呆れた表情で二人を見やる。
「「チョット! シローの悪口を言わないでよ!」」
いやこの二人、こんな時だけ仲がいいな!?
「アハハ! だけどアイツ、わざわざ陸上部に来てウチの一年口説いてたし! 完全にアンタ等、相手されてないじゃん!」
「え? あなたのところにも来たの? 実はうちの吹奏楽部にも……」
おおっと!? ここで新たな事実が!? こうなったらもう収集つかねーぞ!?
「……シロー、それってどういうこと? アタシ、
「ヒドーイ! シローはヒカリがいるのに、そんなことしてたの!?」
「い、いや違うんだ二人共! こ、これにはわけが……「ええ、してたわよ? というか、この学園じゃ有名なクズなのに、どうしてアンタ達は気づいてないワケ?」」
シローとかいう二股クズ野郎の言葉を遮り、鈴原先輩は諭すように二人に告げた。
「……ホントは薄々気づいてたけど、それでも……それでも! いつかその癖が治るって信じてたのにいいいいい!
「うわああああああああん! ヒドイ! ヒドイイイイイイイイイ!」
とうとうキレた二人は
「「死ねええええええええええええ!」」
「ひいいいいいいいいいいいいい!?」
「グス……もうイヤ……」
「ヒック……それはコッチの台詞ですう……」
「「うわあああああああああああああん!」」
そして二人は舞台の中央で抱き合い、大声で泣き出してしまった……。
◇
「「「「ハア……」」」」
クラス代表選考会の全日程が終了し、俺、先輩、サンドラ、氷室先輩はグラウンドの後片づけをしながら大きく溜息を吐いた。
あの試合の
「ま、まあ……とにかく、これでクラス代表が全員出揃ったな」
「先輩……そ、そうなんですけどね……」
あー……あの最後のグダグダ感さえなければなあ……って?
その時、グラウンドの端にたたずむ一人の教師が俺の視界に入る。もちろん、その教師っていうのは“伊藤アスカ”。
伊藤アスカは、しばらくこの俺を睨んだ後、ス、とその場を離れていった。
まるで、俺を誘うかのように。
「……ちょっと俺、持ち場を離れます」
「ふふ……私もちょうど用事を思い出したところだ」
「はは、じゃあ一緒に行きますか」
「ああ」
俺と先輩はお互い顔を見合わせてからクスリ、と笑うと、伊藤アスカの後を追った。
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