第98話 遊ぶ約束

「おはよ! 望月くん!」

「おう、おはよう」


 月曜の朝の通学路、何故か俺を待ち構えていた立花は、俺の姿を見るなりぱあ、と笑顔を見せてぱたぱたと駆け寄ってきた。というか、小動物みたい。


「ねえねえ! 望月くんは、休日は何して過ごすの?」

「俺? 俺は、そうだなあ……」


 などと考えてみるものの……うん、毎週領域エリアに入ってるなあ。

 それも、先輩とサンドラのどちらかが必ず一緒で。


「ま、まあ、先輩かサンドラと一緒にいることが多い、かなあ」


 普通なら、可愛い女子と休日を過ごしてるんだから、ある意味リア充っぽいけど……実際は領域エリア攻略だから、体育会系のノリに近いもんなあ……。


「ふうん……」


 すると、立花は気に入らないのか、少し不機嫌そうに返事した。

 なんだよ、俺だって可愛い女の子と過ごしたいんだから、それくらい許容しろよ。


「じゃ、じゃあさ……今度の休みは、その……ボ、ボクと一緒に遊ぼうよ!」


 何故か立花は、顔を真っ赤にしながら誘ってきた。いや、なんで照れてるの?


「お、おう、それは別に構わないけど……あ、だったら先輩やサンドラ達も誘って……「そ、それはダメだよ!」……そ、そうなの……?」


 ウーン、立花は二人っきりで遊ぶことをご所望らしい。

 まあ、男同士でバカやったりしたいってことなのかな?


 ま、いいか。


「おう。だったら、たまには一緒にゲーセンでも行くか」

「! う、うん!」


 そう告げると、立花は嬉しそうに返事をした。

 何というか、その……どう見ても、小動物改め飼い主に懐くポチみたいだなあ……。


「じゃ、じゃあ今度の日曜日! 絶対だからね!」

「お、おう……」


 などと、グイグイ来る立花に俺は少し戸惑いながら、先輩の待つ十字路へと足早に向かうと。


「む、望月くんと立花くん、おはよう」

「先輩! おはようございます!」

「おはようございます」


 俺の姿を見て微笑む先輩に、俺は今日も元気に挨拶をする。

 一方で立花は、まるで事務的な挨拶をした。


「それで……今日も“グラハム塔”領域エリアに行くのだろう?」

「はい。まずは加隈の奴を立花と同じ位レベルを上げて、プラーミャを加えた三人で攻略できるようにしないと」

「……ボクは、やっぱり彼と一緒に攻略したくない」


 そう言うと、立花はプイ、と顔を背けた。


「ハア……なあ立花、なんでお前はそこまで加隈を毛嫌いするんだ? 確かに先週のことはアイツが悪かったけど、もう加隈も心を入れ替えたわけだし、いい加減許してやったらどうだ?」


 俺は諭すように立花にそう話すが、立花は口を尖らせて顔を背けたままだ。

 すると。


「……じゃあ、キミはあの・・加隈くんを許せるの? キミのこと、あんなに馬鹿にして、けなしたんだよ!」

「お、おうふ……」


 突然、立花はすごい剣幕で詰め寄って来たので、俺は思わず変な声を出してしまった。

 だけど……今の立花の理由だと、加隈が俺のことをディスっていたことに対しての怒りみたい……なのか?


「立花……お前が俺のために怒ってくれたことは嬉しいけど、もう俺はアイツを許した。だから、悪いけどお前もアイツのこと、怒らないでやってくれると嬉しい」

「っ! ……そんな言い方、反則だよ……」


 立花は、少しだけ悲しそうな表情を浮かべてうつむいた。

 でも、納得はしていないものの、俺の言葉を受け入れてはくれたみたいだ。

 

「はは、悪いな」

「……仕方ないよ、キミがそう言うんだもん」

 

 そう言うと、立花は苦笑した。


 とはいえ。


「ウーン……どうも、俺に対する気遣いだけじゃないような気も……」

「? 望月くん?」

「ん? おお……いや、何でもない」


 不思議そうに見つめる立花にそう答え、俺は思考を切り替えて二人と一緒に学園へと向かった。


 ◇


「早ク! 何してるノ!」

「コッチからも幽鬼レブナントが来てるよ!」

「ヒ、ヒイイ!」


 “グラハム塔”領域エリアの第二十八階層。

 今、プラーミャ、立花、加隈が三人のパーティーで攻略を行っている。


「フフ……ようやく本格的に訓練ができますわネ」

「ああ。だけど、プラーミャにはちょっと申し訳ないんだけどな」

 

 というのも、プラーミャはあの二人と比べたらその実力はかなり上だ。なのに、あの二人とパーティーを組まされてるわけで、プラーミャ自身にとって何のメリットもないからな。


「まあ、それでも一人で攻略するよりは楽になる。それに、プラーミャはチームで動くことに慣れていないように見受けられる。そういう意味でも、これは彼女にとってデメリットばかりではないさ」


 先輩は三人を眺めながら、そう答えた。この辺り、さすがの観察眼だな。


「あ、そうそう。後でプラーミャにも言っておいて欲しいんだけど、立花と加隈の訓練の傍ら、俺達も領域エリアの攻略をするからな」

「と、いいますト?」

「実は……」


 俺はサンドラに、“アトランティス”領域エリアについて説明した。

 もちろん、あくまでも偶然見つけたというていで。


「フフ、そうなんですのネ。でしたら、ワタクシも喜んで参加しますワ」

「ありがとう……」


 俺は快諾してくれたサンドラに、深々と頭を下げた。


「よ、よしてくださいまシ。だってワタクシ達……チーム、でショ?」

「! お、おう!」

「フエ!?」


 照れくさそうにそう告げたサンドラの気持ちが嬉しくて、俺は思わずサンドラの手を握ると。


「コホン」

「「ハッ!?」」


 咳払いをする先輩にジト目で睨まれ、俺はすぐにサンドラの手を離した。

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