第350話 クリスマスパーティー①

 今日は十二月二十四日。

 クリスマスイブで、アレイスター学園の二学期終業式の日でもある。


 もちろん、今日の夜はサクヤさんの家でクリスマスパーティーが催されるのだけど。


「ヨーヘイ、今日は男子だけでサクヤさんの家に行ってくださいまシ」

「え? そうなの?」


 朝の教室に入るなり、サンドラからそう告げられて思わずキョトン、とした。

 いや、それは別に構わないんだけど、何でまた……。


「えへへー! じゃあ今日は藤堂先輩の家に着くまで、ボクがヨーヘイくんを独り占めできるね!」

「いや、なんでだよ」


 というか中条と加隈を忘れるなよ。加隈が知ったら泣くぞ?


「フフ……女の子には、色々と準備があるんですノ」

「そ、そうか……」


 サンドラが人差し指を口に当て、悪戯いたずらっぽく微笑んだ。

 不覚にも、メッチャ可愛いと思ってしまったのは内緒だ。


「マア、ヤーはそんなのいらないって言ったんだけド」

「アラ? ならプラーミャは止めておきまス?」

「ニャ!? そ、そんなコト言ってないでショ!?」


 肩を竦めながら否定の意思を示したプラーミャだったけど、ニヤニヤしたサンドラにそう言われると慌てて打ち消した。

 最近、サンドラとプラーミャのパワーバランスが変わっているような気がするのは、俺だけだろうか。


 ――キーンコーン。


「あ、チャイムが鳴った」

「フフ、では講堂に向かいますわヨ」

「モ、モウ! サンドラ!」


 ということで、照れ隠しなのか顔を真っ赤にして言い訳をするプラーミャをからかいながら、俺達は終業式に出るために講堂へと向かった。


 ◇


「あ! ヨーヘイくん!」

「クク……待っていたぞ」


 約束の時間の一時間前、待ち合わせ場所の駅前に来ると、アオイと中条が既に来ていた。というか、アオイはともかく中条まで来るの早くない?

 とはいえ、一時間前に来ている俺もどうかと思うけど。


「え、えーと……一応聞くけど、加隈はさすがにまだ来てないよな?」

「うん、さすがに集合時間の一時間前だしね」


 いや、分かってるなら何でお前はこんな時間に来てるんだよ。


「クク、我もクリスマスを皆で祝うなど、記憶の中では初めての経験でな……つい胸が高ぶってしまった」

「ああー……」


 くつくつと笑いながらそう語る中条を眺めながら、事情を知ってるだけにメッチャ切なくなってきた。


「えへへー、実はボクもなんだ」

「アオイも!?」


 アオイの言葉に、俺は思わず驚きの声を上げる。

 そして、改めて事情を聞いてみると、アオイの家は両親が仕事第一な人達で、いつも放ったらかしにされて、毎年のクリスマスはお手伝いさんと二人だけだったらしい。


 いや、中条に関しては『攻略サイト』で生い立ちを知ってるけど、主人公についてはプロフィールが詳しく載っていないからなあ。

 多分、できる限りプレイヤー目線にしてストーリーに入り込みやすいようにっていう開発者サイドの配慮なのかもしれないけど……裏設定ではこんな重い過去だったなんて……。


「二人共……今日は思いっ切り楽しもうな!」

「うん! 当然だよ!」

「クク……承知した」


 そう言って、加隈が来るまでコンビニで買った暖かいものを飲みながら雑談していると。


「悪い! 遅くなっちまった! ……って、別に俺、遅刻じゃねーよな……?」


 焦った表情でやって来た加隈が、おずおずと尋ねる。


「ああ……お前は遅刻してない。むしろ、ちゃんと十分前に来て偉いと思うぞ?」

「な、なんだよ……とっくにみんな揃ってるから、焦っちまったじゃねーか」


 俺の言葉に安堵した加隈は、ホッと胸を撫で下ろした。


「へへ……だけどさ、俺も今日のクリスマスパーティー、楽しみにしてんだよな!」

「お、そうなのか?」

「ああ! 実は俺、小学二年生の時に親父が死んじまって、おふくろと二人暮らしでさ……おふくろも、俺を育てるために一生懸命働いてくれてたから、クリスマスをまともに祝ったことなくてな……」


 チクショウ! なんだってこんな重い話のオンパレードなんだよ!

 というか、どれだけ登場キャラを不幸な境遇にさせたら気が済むんだ! 別の世界とはいて、是非とも開発者にクレーム入れたいぞ!


「そっかー……加隈くんもそうだったんだね……」

「クク……よもや、皆が同じ境遇とはな……」

「お前達……」


 アオイ、中条、加隈がしんみりとした表情で見つめ合う。

 だけど……スマン、俺の家は普通にクリスマスを祝ってた……。


「ようし! んじゃ、今日は楽しんでやろうじゃねーか!」

「うん! 目一杯楽しもう!」

「クク! 当然だ!」

「だよな! ヨーヘイ!」


 三人が気勢を上げた後、加隈が嬉しそうに俺の肩をポン、と叩いて同意を求める。

 うぐう、俺はどんなノリで頷けばいいんだよ……。


「おっと、こうしちゃいられねー! 早く行かねーと、みんな待ってるぜ!」


 加隈の先導の元、俺達は一路サクヤさんの家を目指す。

 俺一人、そのテンションについていけないまま。


 そして。


「「「おおー!」」」


 三人がサクヤさんの家を見上げ、感嘆の声を漏らす。


「そういえば、中条はともかくアオイと加隈もサクヤさんの家は初めてだっけ?」

「う、うん。ふわあああ……藤堂先輩って、お金持ちなんだねー……」

「おう……俺の家とは比べモンにならねー……」

「クク……家族のいる家とは、羨ましいな……」


 ……アオイはともかく、加隈と中条の反応に、俺は何も答えることができない……。


「と、とりあえずインターホンを押すぞ!」


 一刻も早くこの雰囲気から逃れたい俺は、門に備え付けられているインターホンを押すと。


『……はい』

「あ、こんにちは。望月です」

『望月様、お待ちしておりました。今、門を開けます』


 応対してくれたカナエさんがインターホン越しにそう告げると、門が自動で開いていく。


「「「おおー!」」」


 俺は慣れたからもう驚いたりしないけど、初めての三人はこんな反応しても仕方ないか。


『では、今からお迎えにあがりますので』

「あ、はい」


 インターホンを切り、しばらくすると……っ!?


「カ、カナエさん!?」

「皆様、ようこそお越しくださいました」


 現れたのは、なんとサンタの衣装を着たカナエさんだった。

 しかも、ミニスカートで。


「では、どうぞこちらへ」


 カナエさんの先導の元、俺達は家の中へと入っていく……んだけど……。


「「…………………………」」


 中条と加隈が、無言のまま前を歩くカナエさんを凝視している……。

 い、いや、確かにカナエさんは綺麗だしスタイルも抜群ではあるけれど、さすがにその視線はどうかと思うぞ?


 一方で、何故かアオイはカナエさんを眺めながらしきりに首を傾げていた。

 だけど、その反応も失礼だと思うぞ。


「どうぞお入りくださいませ」


 カナエさんが恭しく一礼をし、扉を開けると。


「「「「「「「「「メリークリスマス!」」」」」」」」」

「「「「うおおおおおおおおおっ!?」」」」


 現れたのは、扉の両サイドからクラッカーを鳴らすカズラさんの弟妹きょうだいのタカシとニコちゃんミコちゃん。

 さらに、カナエさんと同じくミニスカサンタの衣装を着たサクヤさん、サンドラ、プラーミャ、カズラさん、土御門さん、そして……“悠木”だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る