第121話 ボクの憧れの主人公⑤

■立花アオイ視点


 それからのボクは、たった一人で“グラハム塔”領域エリアに何度も足を運び、そして……ソロで踏破した。


 これだけの実績があれば……ううん、桐崎先輩だってこれくらい、簡単にこなす。それはサンドラさんやプラーミャさんも。


 なら、ボクはこの領域エリアを十回踏破しよう。

 そうすれば、望月くんだってボクを認めてくれるよね? ボクを、見てくれるよね?


 そして、とうとう十回目の踏破を果たしたボクは、確実に強くなっていた。

 [ジークフリート]のレベルだって、もう四十七になったし、領域エリアに入ってからタロースを倒すまでに、たったの二時間弱しか掛かっていない。


「えへへ……望月くん、こんなボクを見て褒めてくれるかなあ……」


 ボクの今の姿を見て、望月くんが驚いたり嬉しそうにしたり姿を想像して、ボクの口元が緩みっぱなしだ。


 さあ……準備は整った。

 いよいよ明日、望月くんをここに呼び出そう。

 そして、強くなったボクを見てもらうんだ!


 その日の夜、ボクは望月くんに電話をした。


「明日……の、放課後……“グラハム塔”領域エリアの第六十階層……タロースのいるところに、来て欲しいんだ……キミ、一人で」


 すごく緊張してたどたどしかったけど、ちゃんと望月くんに言えた。

 望月くんは戸惑っていたみたいだけど、それでもちゃんと返事してくれた。


 ボクは待ち遠しくて、ベッドの中に入って寝ようとするんだけど、興奮して全然眠れなかった。


 次の日、ボクは学園をサボって“グラハム塔”領域エリアに来ていた。

 望月くんを、待つために。


 ただ、やっぱり朝から来ちゃったのは失敗だったなあ……。

 結局五時間も待って、退屈だったボクはタロースが変化したマテリアルを踏みつけて粉々にしながら、時間を潰していた。


 すると……望月くんは、約束通りたった一人でここにやって来た。


 だから、ボクはこの領域エリアをソロで何度も踏破したことを自慢した。

 それだけじゃない。ボクは……ボクの過去も話した。


「望月くん……キミだって、ボクと一緒・・だよね……?」


 そう……望月くんも、ボクと一緒で、ゴブリンだなんて馬鹿にされて、蔑まれて、居場所を失くして……。

 あはは、だからボクは、望月くんにこんなにも惹かれたんだろうなあ……。


 なのに。


「だから……俺は、お前とは違う」


 彼は……望月くんは、ハッキリと否定した。

 しかも、一人で来て欲しいって約束したのに、桐崎先輩やサンドラさんを連れてきて……!


 許せない!

 許せない! 許せない! 許せない!


 結局は、望月くんもアイツ等と同じだったんだ!

 望月くんも……本当の友達・・・・・なんかじゃなかったんだ!


 その時。


 ――ボクの視界は、黒く染まった。


 ◇


「あはは……今から考えたら、ボクってバカだよね……」


 部屋のベッドの上にポスン、と腰掛け、ボクはあの時のことを思い出して苦笑した。


 あの後、ボクは望月くんにコテンパンにされて、思いあがっていたことを知って、そして……望月くんはボクのこと、本当の友達・・・・・だって言ってくれて……。


 プラーミャさんや加隈くんも、こんなボクのこと、仲間だって言ってくれて。

 実際に、“レムリア”領域エリアを一緒に攻略して、二人がどれだけボク……いや、チームに心を配ってくれていたのか、よく分かった。


「本当にボク、何も見えてなかったんだなあ……」


 望月くんはボクのそういうダメなところもちゃんと見てくれて、ボクに嫌われるのを覚悟の上で、指摘してくれていたんだ。


「あは……ホント、望月くんは最高に主人公・・・だよ」


 なのに望月くんは、「自分は主人公じゃない、主人公は立花だ」って言ってきかないんだよね……。


 まあいいや。


「望月くんが主人公なのは、このボクだけが知ってる。それでいいよね……」


 うん……そして、ボクもいつか望月くんみたいな、本当の主人公を目指すんだ。

 ボクの、仲間と一緒に。


「あー……でも……」


 ウーン……加隈くんだけは、本当に遠慮したい、かなあ……。


 “レムリア”領域エリアで金の歯車をくわえたイヌワシの幽鬼レブナントと戦った時、ボクが彼を助けてから妙にくっついてくるんだよね……。

 しかも、時々ほっぺたを赤くして、チラチラとボクの顔を眺めてくるし……。


 眺めてくるって言えば、プラーミャさんも一緒か。

 彼女も加隈くんと一緒で、“レムリア”領域エリアの攻略の時からだよね。


 まあ、目を合わすとプイ、ってすぐに顔を背けられちゃうけど。


「えへへ、まあいっか」


 ボクはポケットから一枚のメダルを取り出すと、ピン、と親指で弾いた。

 このメダルは、望月くんとゲーセンで一緒に遊んだ時のゲーム用のメダル。


 ボクの、一生の宝物。


「望月くん……これからも、ボクはキミを追いかけ続けるよ! いつか、キミみたいになれるように!」

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