第184話 二人が家にやって来た!

「ふふ……美味しいな」

「エエ!」

『んふふー、[シン]だけアイスにしてくれるなんて、お母様は分かっているのです!』


 [シン]のリークによって先輩達が俺の部屋を物色するという、恐るべき事態から落ち着きを取り戻した俺達は、とりあえず母さんが用意してくれたお茶と先輩達が持って来てくれたルフランのケーキを食べていた。


 なお、先輩達のお土産にはアイスなんて入ってないものの、母さんが[シン]のためにあらかじめ用意してくれたお高めのカップアイスを食べてご満悦である。


「と、ところで望月くんは、その……美味しいのか……?」


 先輩は俺のタルトタタンをジーッと凝視しながら、おずおずと尋ねる。

 食べたいんですね? 分かります。


 俺は無言でス、とタルトタタンを差し出す。


「むむ! そ、その……いいのか……?」


 コクリ、と頷くと、先輩はぱあ、と笑顔を浮かべ、フォークで一口…テいや、二口分を切り取って口に含んだ。


「ふふ……何とも言えんな……!」


 どうやらお気に召したみたいだ。


「ヨーヘイ、ワタクシのプチーチエ・モロコーも美味しいですわヨ」


 そう言うと、サンドラが俺の前にケーキを差し出してくれた。


「え? いいの?」

「エエ、ヨーヘイには、その……ぜひ、ルーシの味を知って欲しいですもノ……」

「そっか、それじゃ遠慮なく……」


 俺は一口サイズにケーキを切るとそれを口に運んだ。

 お、クッキーのサクサク感にチョコのほろ苦さとバニラスフレの甘さと食感が合わさって……うん、俺これ好き。


「サンドラ、これすごい美味いな!」

「フフ……よかっタ……」


 俺の感想を聞いたサンドラは、嬉しそうに微笑む。


「ですけド、ルフランってルーシのスイーツまで置いてあるって、ある意味すごいですわよネ……」

「まあなー……」


 こう言っちゃなんだけど、俺達のいるこの世界はゲームの世界・・・・・・ってことらしいし、メインヒロインの一人であるサンドラの好感度アイテムを用意しておくっていうのは、当然……なのか?


 ウーン……そもそも、この世界は俺達にとっては現実以外の何ものでもないわけであって、いくら『まとめサイト』で色々と理解してるとはいえ、受け入れられるかって言えば、それは別なんだよなあ……。


「? 望月くん、どうかしたか?」

「へ? ああいえ、何でもありません」

「そ、そうか、それならいいんだが……」


 ……まあ、この辺はおいおい考えよう。


 ◇


「さあ! たくさん食べてね!」


 夕食の時間になり、俺達は母さんに呼ばれてリビングにやって来ると、テーブルの上には所狭しと並べられた料理の数々があった。

 いや、母さんも張り切ったなあ……。


「あう! いい、いただきます!」

「い、いただきますワ!」


 二人は手を合わせると箸を取り、遠慮がちに取り皿に料理を乗せる。


「アレ? そういえば父さんは?」

「いたら二人が可哀想だと思って、夜遅くまで帰ってこないように追い出したわ」


 父さん……あわれだな……。

 まあ、うちの家は母さんのほうが強いから、父さんも甘んじて受け入れるしかない、か。


「! お、美味しいです!」

「ホントですわ!」


 うん、どうやら二人共、母さんの料理を気に入ってくれたみたいだ。


「うふふ! だけど、こうやって二人が美味しそうに食べてくれるところを見ると、まるで娘が二人いるみたいね!」

「あうあうあうあう!?」

「フエエエエエエエ!?」


 母さんの不用意な一言で、先輩とサンドラが顔を真っ赤にさせた。

 そして、そんな母さんの表情はというと……あ、ニヤニヤしてやがる。コレ、絶対に二人をイジって楽しんでるだろ。


「それで……私としてはヨーヘイが普段は学園でどんな感じなのか、ぜひ二人に教えて欲しいんだけど?」

「か、母さん!?」


 いや、ここで話題のネタを俺にシフトするの、やめてくれない!?


「あう……そ、そうですね……望月くんは、いつもひたむきで、努力家で、真っ直ぐに前を見続けて……そして」


 先輩は視線を落として自分の左手を見つめると、“シルウィアヌスの指輪”にそっと触れた。


「そして、誰よりも優しい・・・男の子です」


 顔を上げ、その真紅の瞳を母さんへと真っ直ぐ向けながら、そう告げた。

 最後に苦笑しながら、「まあ、少々勉学がおろそかになってしまうところが玉にきず・・・・、ですが」と付け加えたけど。


「フフ……お母様にこんなことをお話しするのは申し訳ないんですけド、ヨーヘイは本当にバカなんですノ。いつもお節介ばかりしテ、いつも見守ってくれテ、支えてくれテ……」


 サンドラは視線を落とし、左手薬指の“リネットの指輪”を見つめる。


「そしテ……そっと背中を押してくれる、そんな素敵な男の子なんですワ」


 そう言うと、サンドラは微笑みながら、アクアマリンの瞳で母さんを見つめた。最後に「何でも無自覚なところには、困りものですけド」なんて言葉を付け加えて。


「あらあら……こんな素敵な女の子二人から息子の話を聞かせてもらうなんて、母親冥利に尽きるわね」

「何言ってんだよ……母さんが言わせたんだろ」


 そのせいで、今の俺は顔が熱くてしょうがないんだけど。

 というか、今すぐベッドの中にもぐって引きこもりたい……。


 ◇


「うふふ、またいつでも来てね! それはもう、自分の家だと思ってくれても構わないのよ?」


 玄関で靴を履いた二人に、母さんがそう声を掛けた。


「あうあうあう!? そ、その……また、ぜひお伺いします!」

「フエエエエ……ああ、ありがとうございますですワ!」

「それじゃ母さん、二人を送ってくるから」


 母さんに向かって何度も頭を下げている二人を促し、俺は玄関を出た。


 すると。


「「はああああああああ……」」


 二人は大きく息を吐いた。


「もも、望月くん……その、わ、私は大丈夫だっただろうか……?」

「お。お母様に嫌われたりしてませんわよネ……?」


 心配そうに尋ねる二人。

 そんな二人の様子に、俺は思わず吹き出してしまう。


「プッ……あはははは! まさか! 母さんがあんなにご機嫌なの、初めて見たくらいですよ! というか、相当二人のこと気に入ったみたいだったし!」

「! ほ、本当か!」

「よ、良かったですワ……」


 俺の言葉を聞いた先輩はぱあ、と笑顔を見せ、サンドラはホッと胸を撫で下ろした。


「だ、だけど、その……二人共、今日はありがとう……母さんに二人を紹介できて、嬉しかったよ……」

「な、何を言う! お礼を言うのは私のほうだ!」

「そ、そうですわヨ!」


 俺達はそんな押し問答をしていると。


「プ」

「「ププ」」

「アハハハハハハハハハ!」


 ついおかしくなってしまい、お腹を抱えて笑ってしまった。


「あはは!とにかく、二人共また俺の家に遊びに来てよ!」

「ハハハハハ! もちろんだとも!」

「フフフ! 当然ですワ!」


 こうして、楽しく雑談をしながら俺は二人を送り届けると、真っ直ぐ家に帰った。


 ……その後、俺の大切なアレ・・が二つ無くなっていたことについては、まあ……今度、二人に問い詰めるとしよう。

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